迷宮攻略30
「とりあえず座れよ。」
バロンさんと一緒に作った休憩所から外に出てきたらそう言われた。
俺は素直に近くにあった岩に腰かけた。バロンさんも俺の隣に腰かける。
しかし話ってどのことだろう?俺も皆に聞きたい事はいっぱいあるけど、バロンさんから俺にする話って、どういう内容なのかは想像がつかない。
「お前は仲間ってものをどう思ってる?」
「仲間ですか?どう思ってるって言うのも、抽象的な感じがするんですが・・・。」
バロンさんから聞かれたことはやっぱり俺の想像つかなかった質問だった。
仲間をどう思ってるかではなく、仲間と言うものをどういうものかって言う質問なのか。
「仲間って言うと、一緒の目標に向かって手を取りあって進んでいける人の事とか、信頼されたり信頼することがお互い出来る間柄の人のことでしょうか。」
俺は仲間と言う言葉で思いついた内容をバロンさんに伝える。
「そうだな。それで間違いはないと思う。」
バロンさんが俺の思いついた内容を肯定してくれる。
「じゃあ、お前の今隣にいる皆は仲間か?」
「えっ!?」
バロンさんの言ったことに俺は驚きの声を上げる。そして今自分で言った言葉をもう一度考える。
一緒の目標・・・。今は世界を巡ることになるのかな。でも最終的には魔王を倒すってことなんだろうか。
あれ?それって俺の目標であって皆の目標ではないってことか?俺は勇者として召喚された立場があって行動してる。世界を巡るって言うのも、突き詰めたらこの世界の事を良く知って好きになって、自分からこの世界の為に戦いたいと思ってるからだ。皆は俺について来てくれてるだけなんだろうか。いつも俺の思うようにすればいいって言ってくれてるけどそれって俺の我がままに付き合ってくれてるってだけなのか。
信頼って言う点でもガイとブランは最初奴隷と言う立場から無理やり仲間になって貰ったしな。
でも俺は皆の事は信頼してる。皆も俺の事をある程度は信頼してくれてるとも思ってる。
バロンさんは皆が俺の事を信頼してないって言うのが分かってるから質問してるんだろうか。
「どうなんだ?」
考えてた俺にバロンさんは顔を向け聞いてくる。
「その、改めて聞かれると。皆が仲間なのかって考えると胸を張って仲間って言っていいかどうか悩みます。」
俺は今思っていることを正直にバロンさんに伝えた。バロンさんは俺に何を伝えたいんだろう?今俺の顔は今までにない位に不安な表情をしているんだろう。
「俺も昔は仲間と一緒にパーティを組んで迷宮の攻略をしていた。
引退してからはギルドマスターになって色んな冒険者も見てきた。」
バロンさんの言葉を真剣に聞く。
「冒険者のパーティは色んなタイプに別れる。1人のリーダーが突出した力やカリスマ性を持っていて他のメンバーを率いてる所。それぞれがそれぞれの出来ることを最大限に行って一つにまとまるパーティもある。
お前たちのパーティは確実に前者のタイプだな。このパーティの要はダイゴ、お前だ。
ただな、そう言ったパーティのリーダーはただ強いとか頭がいいってことだけでは勤まらないんだ。」
「それは・・・。」
バロンさんの言葉にショックを受ける。俺にはリーダーの適性がないってことか。
「お前は強いし頭の回転も速い、だからリーダーとしての資質は申し分ないだろう。勇者ってことも少しは関係しているが問題はそこじゃない。
何が問題かわかるか?」
「何が問題って・・・、正直わかっていたらこんなに悩んだりしませんよ。」
俺はバロンさんの言葉に少しムッとしてそう言ってしまう。問題を抱えてると指摘されるとどうしてもいい感情は持てない。
「さっきの戦いを見てどう思った?」
不意にバロンさんがそう聞いた。全然違う話じゃないのか?
「さっきの戦いですか?凄かったですね。皆いつの間にあんな技なんかを身に付けたのか知りませんでした。」
「さっきお前は俺達だけで戦うって言った時に反対したよな?何故だ?」
「何故?そりゃ俺も一緒に戦った方が効率よく戦えると思ったからです。怪我したりするリスクも減らすことが出来るでしょうし、時間もかからないかもしれない。」
「そうだな、そうだったかもしれないな。
じゃあ何故怪我をしたり、時間をかけて戦う事がいけない?」
「それは万が一に備える為でしょう。怪我だけで済めばいいですが、もしかしたら命にかかわることになるかも知れない。時間をかけて戦って疲弊した状態で次の戦いに挑んだら負けてしまうかもしれない。
負ければ命がないかもしれないんですよ?そんなの誰だって避けるでしょう。」
俺は少し声を荒げてしまう。
「普通考えたらそうだろうな。
しかしさっきの戦いで俺達が怪我を負ったり、疲れたように見えたか?」
「それは・・・、いえ、そうは見えませんでした。」
「だろう?俺を含めてあいつ等はそれぞれ力は持ってる。」
「そうですね。その皆の戦力を把握できていなかったというのが問題ってことですか?」
「いや、違う。」
「じゃあ・・・?」
「俺が一番問題だと思っているのは、お前が色んなものを背負い過ぎてるってことだ。」
「背負う?俺がこのパーティのリーダーで勇者。皆には俺の目的に付き合ってもらってるんだから責任はあると思いますが。」
「やっぱりそんなこと考えていたのか。自分には皆に付き合ってもらってるから責任があるって。」
「うっ。」
つい思っていたことを言ってしまった。
「皆がいやいやお前と一緒にいると思ってるのか?仕方なくお前と一緒に命懸けで旅をしてると思うのか?」
「どうでしょう・・・、俺はそうは思いたくないです。ただそれは俺の希望だけの話かもしれないし。」
「あのな。ガイやブランは奴隷契約を解除するって言ってもそのままお前と一緒に旅をするって言ってたんだろう?それを無理やりお前に付き合ってると思うのか?
アリアにしても事情はあるだろうが聞くと自分のするべきことしてお前と一緒にいるって言ってた。
シータもお前に助けて貰ったって言ってた。今まで1人だったけど1人じゃなくなったことにが嬉しいと言ってた。皆ちゃんとそれぞれの自分の理由を持ってお前と一緒にいるんだ。」
バロンさん皆にも話をしたのか。
「皆それぞれの思いを持ってお前と一緒にいる。それぞれ覚悟も持ってる。
それをお前は自分独りで全員分を背負い込もうとしてるんだ。
仲間全員の思いや生き方を背負う事なんて出来やしない。断言してやる、そんな事が出来る奴はこの世にはいない。いつかきっとお前がその重さに潰される。
お前が潰されたらどうなる?お前と言う柱に支えられていた他の仲間はどうする?それまであった土台をなくしてどうやって自分で立つ?今まで支えてきたものがなくなるんだ、考えたらわかるだろう。
多分お前は誰かが傷ついたりしただけで酷く後悔する。昔に何かあったのかはわからないが、仲間が傷つくのをすごく恐れている。だから仲間の誰かが傷ついたら、それが重荷になって背負った肩に重くのしかかるだろう。それだけで潰れる可能性もある。
お前に必要なのは皆を背負って立つことじゃない。
それぞれ皆が独立して立っている柱を1本に纏めることだ。
リーダーとして必要とされるのはそう言う事だ。
それぞれの長さや形を見極めて、足りない所は補ってやったり伸ばしたり太くしてやるんだ。
そしてその柱の中心になって纏めるんだ。
決して全部の柱を背負ったり、立てる様に支えてるだけじゃないんだ。
これまでお前たちと一緒に迷宮を攻略して思ったことだ。
どうやって攻略するかなんて全てお前1人が考えているだろう?しかもお前のスキルありきだ。他の奴もそれが当然と思ってるような様子だった。
お前なら何とか出来ると思ってるんだろうが、それは信頼しているからとは違う。依存してるだけだ。他の奴には他の奴の出来る事があって、出来ない事があるのならそれは出来るように成長しなければいけないと俺は思う。
だから俺は他の奴らにその事を言った。」
「先に皆と話したんですね。」
「あぁ、そしたらあいつらは自分でしっかり立てる様にと色々と考えたみたいだな。
だから俺達だけで【火龍】も倒せるようにもなった。多分前のままならまたお前1人が戦って終わっていただろう。」
「そんな訳だったんですね。」
「そうだ。あいつらも自分の足でしっかり立って、お前と並びたいと思ってるってことだ。
それは俺もだ。
迷宮を攻略するまでだとしても俺はお前たちの事は仲間だと思っている。
昔に一緒にパーティを組んでいた奴らと同じ様にお前たちの事を仲間だと思ってる。
だからこの話をした。
老婆心だと思ってくれ。
ただな、お前たちの事は結構気に入ってるんだ。そして今まで話したことは多分俺でないと言えない事だと思ってる。ガイやブランはこんな事言えないだろうしな。
このままだったらお前が潰れると思ったんだ。
別の世界から勇者として呼ばれた若者にいきなりこんなことしろって言ったって無理だろう。周りにこんな話を出来る奴なんていなかっただろうしな。」
バロンさんの言葉が心に染み渡る。どれだけ俺の事を思ってくれてるんだろう。この世界に来て、いや、前の世界にいた時にもここまで俺の事を思って話をしてくれた人はいただろうか。
俺はどれだけ自分の事をわかってなかったんだろう。バロンさんに言われて気付くことがいっぱいあった。
この世界に来て【八百万のスキル】と言うスキルを持って何でもできる気になっていた。と言うか俺じゃないと出来ない事が沢山あると思っていた。だから俺がやらなくちゃ、俺が何とかしなくてはってずっと思っていた。
俺が出来ることなんて大したことないのにな。それでも俺が全部何とかしなくちゃいけないと思っていたのかもしれないな。
心のどこかで俺にしか出来ないって、俺だから出来るって傲りになっていたんだろう。
そんな訳ないのにな。
俺が出来ることも限られてる、まだまだ経験も力も足りてない。それなのに皆を背負って行ける訳ない。いや、バロンさんが言った通り、皆の事を背負うなんて無理な話だ。
それなのにそんなことをずっと続けて来ていたのか。バロンさんに言われなければこの後もずっとそのままだっただろう。
はぁ、俺は一体何してきたんだろう。
【火龍】の戦闘を思い出した。今まで俺が皆に制限していたってことだったんだろう。それをバロンさんの言葉で皆もそれぞれ自分の出来ることを増やした結果なんだ。知らず知らずの内に俺が皆の枷になってたんだろう。
「バロンさん、ありがとうございます。バロンさんの言葉で目が覚めました。」
俺は立ち上がってバロンさんにお礼を言う。
「いや、俺も仲間として当然のことを言ったまでだ。それをどうとるかはお前次第だ。
まぁ少なくともお前よりは長く生きてるし、今まで色んな奴とも出会ってきた。だからお前とは違った考えがあるだけかもしれん。」
「いえ、バロンさんが心から俺の事、俺達の事を考えてくれてるのはわかりました。
【火龍】での戦闘でもそれは証明されたと思います。
俺達だけだったら【火龍】だけではなく、今後の戦いも辛く苦しいものになってたでしょう。
皆はもう変わりました。今度は俺の番だと思います。」
「だそうだ。」
俺の言葉を聞いてバロンさんは顔を別の方向をに向けた。バロンさんの目線の先には他の仲間が皆でいた。いつの間にか外に出て来てたみたいだった。皆気配消せるからな、気付かなかった。
「まぁ、なんだ。
俺達にも問題があったってことだ。お前が色々出来るってことに胡坐をかいてたんだ。
そう言えばお前はこの世界に来て間もなかった。それに俺よりも若造なのにな。
引っ張ってやらないといけないのは俺達の方だったんだろう。」
ガイがそう気恥ずかしそうに言った。
「えぇ、主の優しさに甘えておりましたわい。わしらにも支えることが出来るはずなのに、支えて貰ってることに当たり前の様に甘んじておりましたわい。そうではないんですな、わしも冒険者として過ごしておったのに恥ずかしいことです。わしらが支えられるかどうかは別として、支えようとも思わなかったのが問題でしたのう。」
ブランがそう言った。
「そうですわね。ダイゴ様に任せれば問題ない。その考えしか持たないことが自体が問題でしたわ。
なんでも出来るから任せていいなんて理屈はありませんわね。」
アリアが申し訳なさそうに言った。
「シータ難しいことはわからない。
でも主1人が大変なのはおかしいと思う。みんな一緒。皆仲間。」
シータが言った。
「皆ありがとう。
結局俺の独りよがりだったんだな。
なんでも出来るから俺の言う通りにしていたら問題ないとか。何かあっても俺が何とかするからとか。
そうじゃないよな。
仲間だもんな、皆で考えて皆で何とかするんだよな。
それでもいいかな?皆の力貸して貰ってもいいかな?皆と一緒に進んでもいいかな?」
「当たり前だろ。最初に言っただろ、俺はお前と一緒に旅をするって決めたんだ。
無理やり付き合わされてるんじゃない。そんなこと気にしなくてもいい、自分のケツ位拭けるぞ。」
ガイが笑いながら言った。
「そうですぞ。わしらは主と共に苦楽を一緒にしますぞ。それがわしの思いであり、生き方なのですから。」
ブランがいつもの様に暖かなまなざしをして言ってくれた。
「えぇ、私も言われたから一緒にいるのではありません。自分の意志でここにいるのです。私自身の思いや生き方です。私の意志でダイゴ様と、皆様と一緒に進もうと思っているんですよ。」
アリアも笑顔でそう言った。
「シータは皆が好きだから一緒にいる。主も姉様も、ガイもブランも、バロンも好きだよ。今が一番楽しい。父上見つからなくてもいい。皆と一緒にいる。」
シータもそう言ってくれる。
「改めて言うよ、皆ありがとう。こんな俺を受け入れてくれて。
そしてこれからもよろしくお願いするよ。仲間として支えるし、俺の事も支えて欲しい。
俺ってこう見えても全く強くないんだ。」
「強いだけの人間なんていない。人は弱いところを補えあえるんだ。そうやって強くなっていくんだ。」
俺の言葉にバロンさんが答えてくれる。
そうだな、強いって言うのはそう言うことかもしれないな。
お読み頂きありがとうございます。
迷宮の話も30話になりました。
まだもう少し潜ったままになりそうです。




