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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
中学生編
19/52

19

最後少しだけ翔視点です…


「柊ちゃん、メールありがとう」

 休み明け、柊が昇降口で靴を履き替えていると後ろから色が声をかけて来た。

 学年が変わって、柊は色と翔と同じクラスになった。明は、雄太と同じクラスだ。誠は一人、別のクラスにいる。柊は初めて明とクラスが離れたせいで、最初はなじめそうにないと思っていたけれど、色がいたおかげでそんな心配は無くなっていた。柊は、何の問題も無く今のクラスに溶け込んでいる。

「え……?」

「私、柊ちゃんがメールくれた時、誠君と一緒にいたんだ」

「……そうなんだ」

 柊は内心複雑な思いで笑った。

 自分はきちんと笑えているんだろうか?変な顔していないだろうか?

 そんな不安事ばかりが頭に浮かんでしまう。

「うん。だから、二人で一緒にメールのこと話しての。誠君、柊ちゃんからのメールだって言った瞬間、私の話し聞いてくれるようになったんだよ」

 色のその一言に、柊は思わず眉を寄せた。

「……どういうこと?話を聞いてくれたって、それまで聞いてくれてなかったの?」

「ううん、そういうわけじゃないんだけど。私の話、つまらなそうに聞いてたから……。やっぱり、二人で共通の話題があると話もしやすいみたい。久しぶりに誠君が笑ってくれたんだよ」

 色はうれしそうにそう話している。けれど柊にはどうしても納得できなかった。

 どういうこと?つまらないって……。久しぶりに笑ってくれた?二人は好き合ってるはずなのよね?なのに、どうして青柳君は色をほっとくの?一緒にいても色の話を聞いてないんじゃ、居ないのと一緒じゃない!

「……柊ちゃん?」

「ごめん色、私ちょっと急用思い出しちゃった。先に教室行っててくれる?」

「……うん」

 色は少し不安げにそう言って教室へと向かった。その後姿を見送ると、柊はまた靴に履き替えて、足早にグラウンドへと向かっていった。

 グラウンドの端をずんずんと歩いていると、片づけをしている麗を見つけ、大きな声で呼んだ。

「麗君!」

 すると麗はびっくりしてすぐに柊のもとへと走って来てくれた。

「柊?どうしたの、そんな大きな声出して。珍しいね……」

「麗君、青柳君まだいる?」

「青柳?部室に居ると思うけど……どうかしたの?」

「ちょっと聞きたい事があるの」

「……それって、色ちゃんの事?」

「うん」

「……分かった」

 と、麗は部室のほうへと走って行くと、誠を連れてすぐに戻って来た。

 すぐに戻って来た割には、二人ともすでに着替え終わって学生服に身を包んでいた。

「……何だよ」

 誠は不機嫌そうな顔をして柊を見てくる。

「……色と、付き合ってるのよね?」

「あぁ。それがどうかしたのか?」

「……青柳君は、どうして色と付き合ってるの?」

「その話、今しねぇといけないのか?もうすぐホームルーム始まるんだけど」

「話をそらさないで」

 柊はとても静かな声でそう言った。その表情は、冷たさを増して力強く誠を睨み返している。

「……どうして麗先輩までいるんだ?」

 けれども誠も柊に負けていない。同じく強い眼差しで睨み返してくる。

「麗君はいいの。何もかも知ってるし、私の考えている事はわかってるもの」

「柊が何でこんなにも怒ってるのかは、知らないけどね。朝のうちに何かあったってことはわかるよ」

 麗は隣で涼しげな表情で笑っている。

「で、どうなの?」

「……昼休み、中庭に来いよ。話はそれからだ。今は話さねぇ」

「どうしてよ!」

「お前が今にも暴れそうだからだよ。お前、いったん切れたら手に負えないタイプだからな。その性格、小学校の時から変わってねぇ……」

 それだけ言い残して誠はさっさとその場を立ち去ってしまった。

 その後ろ姿を、柊はぽかんとした表情で見送ってしまう。

「……何なのなのよ!」

 はっと気づいたときにはもう既に姿はなく、思わずそう叫んでいた。

「柊、青柳の言ってる事にも一理あるよ。このまま話しても授業に遅れちゃうだろうし、まずは落ち着かないと」

 麗は優しく柊の肩を支えながら宥める。

「……うん」

 柊は麗のその腕に寄りかかるようにして、校舎の中へと入って行った。




 その光景を、翔は黙って見ていた。

「……誠?」

 翔には何が何だかさっぱりわからなかった。柊が怒っている理由も、その場にいたのが誠と麗だという不可思議な人選も、翔の中では何もかもが、上手くかみ合わなかった。

 どうしてあの三人が一緒に居たんだ?

 翔は、気になってすぐに、誠のもとへと走っていた。

「誠!」

「……翔?」

「お前どうしたんだよ。何で麗先輩と伊吹と一緒に居たんだ?」

「……色の事で、話があるって呼び出されたんだよ」

「色ちゃんの事で……?お前何したんだ?」

 と、今度は翔が険しい表情になった。

「……何もしてねぇよ」

 誠はうんざりといったようにため息をついている。

「何もしてないのに伊吹はあんなに怒ってたのか?」

「何もしてないからこそ、怒ってたんだろ」

「……どう言う事だ?」

 翔がそう尋ねると、誠は黙り込んでしまった。何だか思いつめたような顔をして、窓の外をじっと見ている。

「……誠、今日の昼休み、中庭で伊吹と話すんだろ?俺もいていいか?」

「何でだよ」

 と、誠は少し不満そうな声をあげる。

「お前は忘れたんだろうけど、俺は日向の事が好きだったんだぜ?それをお前に取られたんだから。その日向を大事にしてないってんなら、俺にも怒る理由はある」

 誠は何も言い返せなかった。翔の心を知っていたからこそ、反論できないのだ。

「でも、大半はお前を守るためだな。確かに日向の事となったらお前と反発するかもしれないが、伊吹には麗先輩がついてるしな。それに、お前が伊吹に勝てるはずが無いから」

「……何でだよ」

「好きだったんだろ?」

「……それ、前にも聞いた」

「あぁ。でも、あの時も今も、お前の答えをもらってない」

 翔は真剣な表情で誠を見つめる。すると、誠はバツが悪そうに翔から目を反らした。

「お前の本心を知りたいんだよ。多分、伊吹もそうなんじゃないのか?」

「……あぁ。そうだと思う」

「お前は今の伊吹の態度に、少しでも傷ついているのか?」

「……あぁ」

「……そうか」

「俺は、今でもあいつを忘れられないんだ」

 ぽつりと、吐息のようにこぼれた誠の一言に、翔は苦笑した。

 他に、どんな反応も見せられなかった。

「……やっと素直になったな」

「――心は、ずっと素直だったんだけどな」

 誠は降参したとでもいうような顔をして笑った。

「あぁ。そうだな」

「……昼休み、一緒に居てくれるか?」

「……あぁ」

「サンキュ……」

 誠がそう呟くと、翔は軽く誠の腕を拳で叩いた。

 そして、二人はそれぞれの教室へと入って行った。

 日はまだ上ったばかりで、太陽が明るく輝いている。それぞれの心の中とはまるで正反対の、晴れ晴れとした青空だった。



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