20
ちょっと長いかもです…
柊が麗と一緒に中庭に来ると、誠はすで翔と共にそこにいた。まるでとてつもない苦難がこれから待ち受けているかのように、険しい表情をして――。
「……どうしてここに山城君がいるの?」
思わず柊は不満そうに呟いてしまっていた。
「俺が頼んだんだよ。こいつも大体のことは知ってるから」
「じゃあ、私の質問に答えてくれる気にはなったのね?」
柊は慎重な顔で誠に詰め寄る。
そんな柊を、誠は真正面から受け止めた。もう、逃げも隠れもせずにその時に立ち向かうのだと、そう覚悟して来たようだった。
「あぁ……」
「青柳は、ほんとに色ちゃんのことが好きなの?」
以外に、最初に口を開いたのは麗だった。これには柊でさえも目を見開いている。
けれども対する誠はそれに答えようとしない。
「答えてくれるんじゃないの?」
柊が腕を組んで問い返す。
「俺は、別にあいつのことが好きで付き合ってるんじゃない」
じっと柊と麗の顔を見つめて見比べた後、誠はようやく口を開いた。
けれど、その事実は誠以外の柊たち三人をその場に凍りつかせた。
そう、翔までも――。
「……どういうこと?好きだかたら付き合ってるんじゃないの?」
「あぁ」
「あぁ、って――。色を、騙してるの?今までずっと、裏切ってたの?」
「いや、あいつもそれを承知で付き合ってるんだよ」
「あなたが色の事を好きで付き合っているのではないってことを……恋愛感情を抱いてないってことを、色本人が知っているの?」
「そうだ」
誠はそう言って一つゆっくりと頷いた。
そんな誠を見て、柊は一気に頭に血が上ってしまった。
「どうしてそんなことしてるのよ!」
柊は、何よりも色に何も知らされていなかったという事実にショックだった。
今まで、ずっと傍にいたのに、それに気づく事が出来なかった。そして、色も何も教えてくれなかった。その事実が、悲しかった。
自分は、色にとってその程度の友達だったって事だと、誤解してしまいそうになるくらいには――。
「……俺があいつに告られた時、俺は一度断ったんだ」
「……どういうこと――?」
柊は眉間にしわを寄せて誠に詰め寄る。
その時、柊の後ろを見た誠の表情が一瞬にして変わった。
「私がお願いしたんだよ。今は好きでなくてもいいから、付き合ってほしいって……」
その声に思わず柊が振り向くと、そこには悲しげな表情でその場に立っている色がいた。
「色……」
「誠君には、他に好きな人がいるの。私はそれを知ってた。それでも、諦めきれなかったからこんなことを頼んだの」
「好きな人……?」
「うん。……もういいでしょ?私たちは、今の状況を一生懸命必死に維持してるの。お願いだからそれを壊さないで」
そう言ってか細い声で呟く色の頬を、涙がつたっていた。
「し、色……でも……」
「お願いだから!」
今度は色がヒステリー気味に泣き叫ぶ。
それを見て、柊は何も言えずにその場に凍りついてしまった。
心だけが、耐えられずに叫んでいる。何度も悲鳴を上げている。でもその心境は、柊だけではないのかもしれない。目の前にいる色も、色んな事を抑え込んで子尾に立っているのだ。
それに気付いた柊は、もう何も言う事が出来なかった。
「柊、行こう……」
麗が後ろから優しく柊の肩を抱いてくれる。
麗の温かく大きな掌が柊を支えた瞬間、柊の体中を支配していた緊張が一瞬にしてほぐれた。
けれどもその場で力なくうなだれることしかできない……。
「……うん」
柊は少し従順した後、大人しく麗の言葉に従う事にした。
もう、誰の顔も見る事が出来ず、一つだけ頷いて、俯く。
「ごめんね……。ごめんね、柊ちゃん」
色は横を通り過ぎ去ろうとする柊に向かって、小さな声でそう呟いた。
「いいよ。……ちゃんと話せるようになったら、教えてくれる?」
柊は色に背中を向けたまま、答える。
この状況で色の方に振り返る度胸は、柊にはなかった。
「うん……」
その背中を、色は泣きながら見送った。
柊のその背中は、とても儚げで、ちょっとした衝撃を与えただけで、あっという間に崩れ落ちてしまいそうなほど心もとないものだった。
そしてそんな柊の肩を、麗が力強く支えている。
誠と色と翔の三人は、黙って二人が立ち去るのを見送っていた。見送ることしかできなかった――。
「柊、大丈夫?」
麗は放心状態のままの柊を支えたまま、教室へと向かおうとしていた。
けれどもあまりにも柊がショックを受けていたので、このまま教室に連れ帰っていいものかどうか考えあぐねていた。
「……少し、ゆっくりしたい……」
「わかった」
漸く答えてくれた柊の希望通りに、麗は二人になれるだろう屋上へと足を進めた。
「二人は本当に今のままでいいと思ってるのかな……?」
屋上の冷たいコンクリートに座り込むと、柊は聞こえるのがやっとというようなか細い声で呟いた。
「人との付き合い方にはいろいろあるみたいだね……」
と、麗もお手上げといった表情で柊の隣に座る。
「色ちゃんは青柳のことが本当に大好きで、青柳もそれと同じくらい好きな人が他にいるって事だよね……」
「うん。でも、青柳君に他に好きな人がいたなんて、思いもしなかったな……」
柊は青く広がる空を見あげた。
けれどもどんなに清々しい青空を見ても、今の自分の心境とは正反対だと嘲ることしかできない。
「付き合うって、どういうことなのかな……」
「え?」
「だって、私の知ってる人で上手く付き合えてる人って少ないんだもん。なんだか不安になってくるよ……」
柊はそう言って膝を抱えて頭を伏せた。
「柊は、誰かと付き合うのが怖いの?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ、俺と付き合ってみる?」
「え……?」
柊がびっくりして麗の顔を見上げると、麗が真剣な表情で見つめてきていた。
ゆっくりとした動作で、柊の座っている隣に片膝を立てて目線を合わせる。
その顔を見た途端、例の本気が伝わって来て、柊は動けなくなった。
「俺は、ずっと柊が好きだったんだよ」
そう言いながら、麗は柊を抱きしめる。
「今こんな事言うなんて、付け入ってるって思われるかもしれない。でも、それだけ俺には余裕がないんだ。今、柊を捕まえておかないと、後で後悔することになりそうで……」
「で、でも……」
柊は真っ赤になって戸惑った。心臓は早鐘のように跳ね回っている。
さっきの今で、全く状況が違う。
先程までの緊張感や、悲観は何処へ行ったやら、おどおどとすることしかできない。
「それとも、柊はまだ青柳の事が好きなの?」
「そんなことない!」
柊は思わず麗のシャツの裾を握り締めていた。
「そんなんじゃなくて……」
「好きだ。俺は、柊のことをただの幼馴染だなんて思ったことはない」
「麗君……」
「俺にしろよ」
麗は、抱きしめていた柊からそっと離れると、顔と顔とが数センチしか離れていないその距離で、愛おしそうに柊を見つめた。
「わ、私……」
「俺を選んでよ、柊」
麗はそっと柊の顔を両手で挟むと、自分のほうに引き寄せた。
「好きだ」
避けることが出来なかった。避けようと思えば簡単に出来たはずなのに、そこには素直に麗を受け入れている自分がいた。
そっと、触れるか触れないかのような軽く優しいキス。
唇が離れると、麗はホッとしたような顔で柊を優しく抱きしめ直した。
「答えをもらってもいい?」
囁くように、柊の耳元で話す麗に、柊はドキドキした。
「柊?」
「……まだ、わからない。でも、麗君は私の中で特別な人なの。……選んだりしたら、麗君は離れていかない?」
「そばにいてほしいって事?」
「……そばにいてくれるの?」
「いるよ。柊が望むだけ、ずっとそばにいる。柊と一緒にいるよ」
「……寂しいの。大切な人が……遠く、いなくなってしまうのが怖いの……」
柊は泣きながら麗に縋り付いた。泣くつもりなんてなかったのに、後から後からこぼれてくるそれを止められない。
「うん……」
麗は腕に力を入れて、震える柊を優しく抱きすくめる。
「離れていかないで……そばにいて!」
「約束する。絶対に、柊を一人にしない」
「……ほんとう?」
「あぁ」
と、麗は優しく柊に笑いかける。
「……ありがとう」
寝み打で濡れた顔で、柊も麗に笑いかけた。
「ずっと、そばにいるよ……」
麗は柊を落ち着かせるように、そう言ってもう一度強く抱きしめる。
そんな麗を見て、肌で感じて、柊は急に麗が愛しくてたまらなくなった。体が自然に動いて、自分からそっと麗に口付ける。
すると麗は、真っ赤になって飛びのいて固まってしまった。
柊はそれを見て思わず噴き出す。
そんな柊を、麗は微笑みをもらしながらももう一度確かめるようにそのサラサラの黒髪に手を差し込んだ。。
二人はじゃれあうように、何度も何度もキスをした。額に、頬に、唇に……。
もうすぐ、昼休みが終わる。けれど二人はそれをあまり気にしていなかった。
あと少しだけ……。
その思いは強く、切ない。
柊は泣きそうなほど、幸せを感じていた。
麗君のそばにいたい。……私は、麗君のことが好きなんだ……。
柊はそのとき初めて自分の気持ちに気がついた。麗を、一人の男の人として大好きなんだということに……。
「麗君」
柊は麗に微笑みかける。
「ん?」
「大好きだよ」
「俺も……」
「大切にしてね?」
「わかってる」
『あいしてる……』
ごめんなさい<(_ _)>
まさかのヒーロー以外の男の子とのラブシーン…
これからもちょくちょくあるかもです。
呆れずに見守ってやってください(>_<)!!




