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ユリが帰ってきたのは出て行ってから1時間程。
別に遅くない。
むしろ寄り道せず、よくこの時間で帰ってきたと思う。
過去の私やシフトは、もっと遅かった。
ふらふら余計な所に行って、余計な物も買って、下手したら目的の物を買わない時もあったし、もっとのんびり帰って来ていた。
それに比べたら、ユリは真面目だ。
ちゃんとご飯のおかずになるものを買って来て、さっさと帰ってきたのだから。
でもシフトは機嫌悪くユリを睨んだ。
「遅い。もっと早く帰ってこいよ」
台詞だけなら娘を心配するパパなのに。
今回は違う。
それは私が、シフトの監視をどうすり抜けていたか、ユリが帰って来てから説明すると約束したからだ。
でもユリは当然そんな事は知らないし、帰ってきた途端に責められて嫌そうに顔を顰めた。
「はぁ!?お昼買ってきてもらっておいて!?何その態度!?」
「俺、別に要らないし」
「はぁぁ!?」
キレたくなるユリの気持ちもわかる。
でもそれよりも。
「なぁ、何買ってきた?」
どん、と机に置いたカゴの中を漁る。
中身はトマトと、ハムと、チーズ、それに何故かパンが入っていた。
いや、パンはあるって知ってたじゃん。
なんで入ってんの?
そのパンを不思議に思って手に取ると、ユリが大急ぎでそれを奪い返した。
「あっ!それはダメ!」
「なんで?」
「なんでもよ!とにかく、ダメ!」
心なしか、ちょっと顔が赤い気がする。
風邪でも引いたんだろうか。移さないで欲しい。
「まぁいいけど。昼、なに?サンドイッチにすんの?」
「そうよ。文句あるの?」
「ないない。作って」
ユリはぶつぶつ言いながらもキッチンに向かう。
出された物に文句は言わない。
鍋を焦がした居候が作るのは当然だが、手伝わないのも違う。
調理以外の手伝いはしてもいい。
そう思ってユリに続いてキッチンに入り、紅茶とジャムを持ってくる。
その間、シフトはむっつりと椅子に座ったままだ。
思春期の男子か。
「お前、食べないの?」
「うん。ネジが作った料理じゃないなら別に要らない」
「ブレねぇな…」
ストーカーが過ぎる。
私は食べられるなら何でもいいタイプだから、シフトの言ってる事は少しも共感できない。
「ちょっと、できた分から持ってってよ!」
キッチンから呼ぶユリへと視線を戻す。
「へーい。ちょい待って。今片付けするから」
机の上は適当に置いた工具や紙、何故か服もある。私は片付けは苦手だから、いつも机の上が汚い。
適当に隅によけるのが良くないとは思いつつも、ついつい今日も横にどけている。
そんな私を見て、シフトは椅子から立ち上がる。
スタスタとキッチンに行って、一言も喋らずユリから受け取ったサンドイッチを私の前に置いた。
「早く食べて。説明して」
「へいへい」
機嫌が悪い。
もぐもぐとサンドイッチを口に入れる。
誰が作っても変な味にはならないだろうサンドイッチは、物凄く美味しくもないけど、不味くもない。普通。
それを咀嚼して、飲み込む。
その間、シフトはずっと私を見ていて、物凄く居心地が悪かった。
私とユリがサンドイッチを食べて、シフトはその横で、食べ終わったものからどんどん片付けていった。
それはもう急かすように。威圧感付きで。
ねちっこいなぁ、と思う。
その一切の妥協も甘えも許さないと言わんばかりの威圧感に、何故かユリの方が戸惑っていた。
威勢がいい割には、空気を読む良い子ちゃんだから、仕方ないかもしれない。
シフトのおかげで綺麗に片付いた机に、ユリを含めて3人で座る。
一番に口を開いたのはユリだった。
「ねぇ…さっきから何なの?なんでアンタ怒ってんの?」
「煩い。ネジ、コイツいる?」
シフトは私の横に座ったユリを指差した。
貴族にあるまじき行儀の悪さだ。
「いるから待ってたんだろ」
必要なかったら先に話してる。
シフトは機嫌悪く舌打ちをする。
「はぁ!?アンタ、マジで性格悪い!」
「黙れ。チビ」
「はぁぁぁ!?」
相変わらず仲が悪い。
でも今ここで喧嘩が始まっても面倒だから、私はパンと手を叩く。
2人の注目を集めて、大人しく口を閉じるのを確認してから、今度は私が口を開いた。
「シフト、そもそも論が違うんだ」
シフトとユリが首を傾げる。
状況もわからないユリからしたら本当に意味がわからないだろう。
でもそれは大した問題じゃない。
「白魔女は、魔力がない。そうだよな?」
ユリに問うとユリはこくりと頷いた。
「そうよ。魔力がないのに、人の魔力を喰らう、卑しい魔女。それがアンタでしょ?」
ジロリとシフトがユリを睨む。
ユリは白魔女の定義をきちんと正確に述べているから、別に睨むこともないのだけど。
「うん。そうだな。それが今までの通説だ。…じゃあ、どうしてお前は私が作った魔道具で魔力を封じられてるんだ?」
「え…」
「あ」
驚いて固まってしまうユリとは対照的に、シフトはすぐに気が付いたらしい。
「ネジ、それはつまり」
「そうだ。白魔女は魔力がないわけじゃない。ちゃんとある」
「…………は?」
ユリは何を言われているのか、理解できない顔をしている。
それはそうだろう。
今まで白だと思っていたものが、いきなり黒だと言われても、にわかには信じ難い。
それは当然のことだ。
「いやいや……アンタ、魔術使えないでしょ!?炎も水も雷も…なんにも出ないじゃない!」
その通りだ。私は無から有を出すことはできない。
「そうだ。だから白魔女は魔力がないと思われてたんだ」
魔術師になるには、魔力があるか確認する必要がある。
それは簡単で、別に特別な大聖堂に行ったりとか、聖水やら水晶やらを使ったりとか、そういう儀式的な事はしない。
ただ魔術師が、書いた一番初歩の魔術陣に、手を翳して光ればいい。
別に魔術陣も何でもよくて、とにかく反応すれば、それは魔力があることになる。
微量に流れる魔力が反応すると言われているが、正確な仕組みはまだわかっていない。
私は生まれた時から髪も白いし、目も赤い。
これは白魔女を表す一番顕著な印だ。
だから魔術陣の魔力調べも一応やったけど、特に反応しなかったし、当たり前に受け入れられた。
でもそれは、本当の意味で魔力の意味を調べる事にならなかった。
「白魔女は魔力がある。でもそれを出力する方法が、逆なんだ」
それは、白魔女である私以外には、誰も気づけなかった。
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