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何も変わっていないな、と思う。
呆れる程の魔力至上主義、選民思想。
すぐにカッとなる所も、昔から何一つ成長していない。
魔力は特別じゃない。
科学は魔力に勝てる。
そして、魔術師だって血が赤いのだから、人に他ならない。
淡々とした主張を続ける娘は、賢く、美しく、強く、そしてなにより、公平を信じている。
それはホーンの教えによる所が大きいだろう。
炎を出して水で消すくだりは、ずっと昔、ホーンに言われた『消火活動』を思い出した。
親子揃って同じ事をしていて、こんな時だけれど、微笑ましくもあった。
公聴会には、ユリの両親であるシルバとリリアナも居た。
ガイのいるホワイト商会に行かなかったのは良かったかもしれないけれど、ここに来てしまえば、もう後戻りはできない。
見知った顔も多い。
魔力局に同期で入った連中もいた。
白魔女を産んだ私を、裏切者と罵る魔術師は多い。
ネジを生み育てる事に、何も言われなかったわけじゃないし、離れていった人間もいる。
傷つかないわけじゃなかった。
でも、それよりもネジの方が大事だった。
私はネジの為なら戦争も辞さない。
公聴会に、法律の有識者として参加しているホーンをチラリと見ると、淡々と事の成り行きを見守っていた。
「…戦争にはならないわ」
ギルバートには事前に『有意義な会にしたいから発言は挙手せず、自由にして構わない』と言わせている。高みの見物を決め込む日和見の貴族連中からも、『不敬罪』云々の文句は言わせない為だ。因みにこの日和見の貴族連中の中にはシフトの実家であるクレメンス侯爵家もいた。
手を打ってこちらに注目させる。
ベボガは、私にそれはそれは恨みの籠もった視線を向けてくる。
魔力局を解体させ、自分を日陰に追いやった憎き相手。それが私。
「はん!これだから女は!歴史を知らないのか?下手に力を手に入れた愚民が暴動を起こすんだぞ!」
「まぁ。ご自身の事かしら?」
「なっ…!この…!」
「あなたのような小物が魔術管理部門部長であるこの私と、私の弟子でもある騎士団団長のシフトに勝てると思っているの?カビの生えた魔術から少しは進化したのかしら?」
してなさそうだな、と思う。
ベボガは私腹を肥やす事にしか興味はない。
あの手この手、口先八丁で、人をその気にさせるのは昔から上手かった。
だから白魔女反対過激派のトップなんてやれているのだ。
「魔力封じの腕輪は一般企業であるホワイト商会から私達、魔術管理部門へと独占販売され、それを私達が騎士団へと卸す。これはつまり、公権力のみが魔力封じの腕輪を扱えるということよ」
ベボガだけでなく、日和見の貴族連中にも目を向ける。
魔力封じの腕輪に危機感を抱いている貴族は多い。
魔力持ちが多い貴族は、少なからず平民を下に見ている。
それは魔力だけの影響ではなく、血統も関係しているから、魔力封じの腕輪だけでその優位性を覆すことは難しい。それでも、人は自分の立ち位置が脅かされる危険を含むものに、好感は抱かない。
「同様に、魔術無効化液はホワイト商会による許可制販売となっているわ。当然使用目的、売買者、日時、売買量…その他諸々を記載し、必要に応じてそれらの情報を魔術管理部門及び騎士団に開示する事になっている」
ジロリと貴族連中を睨んでおく。
これは同時に貴族への牽制でもある。
「魔力封じの腕輪、魔術無効化液共に公権力の介在ができない販売ではないわ。これをもって、戦争の火種になる道理はないはずよ」
にっこりとベボガとその後ろの白魔女反対派の魔術師に向けて笑って見せる。
「あなた達を恨んでいるであろう魔力のない一般人に渡らなくて良かったわね?」
「なっ、なんだと!私は恨まれてなんか…」
「まぁ、じゃ、どうして一般人が魔力封じの腕輪と魔術無効化液を持ったら『血で血を洗う戦争が起きる』なんて言ったの?…恨まれている自覚があるから出た発言ではなくて?」
「うっ…」
反論できずにいるベボガを鼻で笑う。
「まぁ、そちらが恨まれているかどうかは今はどうでもいいわ。せっかくの公聴会、魔力封じの腕輪と魔術無効化液の実証実験もしたいわね?」
私の後ろに控えているマックへと視線を移す。マックは魔力封じの腕輪と魔術無効化液を豪華な台に乗せて運んできた。
「魔力封じの腕輪、魔術無効化液共に魔術管理部門の職員が使用して実証しましょう。マック、ダーダラ」
「えっ…!?」
急に名前を呼ばれてマックとダーダラが戸惑う声を出す。それをジロリと睨むと、渋々前に出てきた。
「マックは魔力封じの腕輪、ダーダラは魔術無効化液。わかりやすく、2人とも片手に炎でも出してなさい」
マックもダーダラも本当に嫌そうな顔をする。でも公聴会という公式な場で、私に恥をかかせるような真似はしない。
2人とも大人しく片手に炎を出した。
「公平になるように、腕輪と無効化液は騎士団員にお願いしましょうか」
チラリとシフトを見ると、無言で頷いて後ろに控えている部下に視線を飛ばした。
2人の部下がマックとダーダラにそれぞれ、魔力封じの腕輪をつけて、魔術無効化液をダーダラに飲ませた。
そして、またたく間に片手にあった炎は消える。
貴族連中と有識者、そして白魔女反対派からも感嘆の声が上がった。
「マック、ダーダラ、体調は問題ない?」
「はい」
2人が頷く。
「では魔力封じの腕輪、魔術無効化液共に、その効果を認められる。そうですね、陛下?」
にっこりとギルバートに向けて笑う。
一応公式な場だから敬語は使ってあげるけど。
「ふむ。素晴らしい出来だな」
エラそうに。
私のいる魔術管理部門で作って、下手なものなんて出来るわけがない。
ギルバートも公式な立場だから、舐められるわけにもいかない。
それがわかるから妥協してあげるけれど。
ジロリと睨むと、ギルバートは焦ったようにパッと視線をそらした。
「では、魔力封じの腕輪は外して下さる?私の部下に、いつまでもつけないでちょうだい」
騎士団員へと視線を向けると、こちらも焦ったように腕輪を外し、2人はシフトの後ろへと下がっていった。
それを見て、シフトが口を開いた。
◇◇◇
魔力封じの腕輪と魔術無効化液を、ベボガが食い入るように見つめている。
垂涎の的といった視線は、小物なりに、強欲で不遜で陰湿さが滲み出ている。
「さて、魔術管理部門部長による魔力封じの腕輪と魔術無効化液の実証実験が終わりましたね。ベボガ殿、お話を戻したいのですが?」
「は?」
「ベボガ殿が、国家転覆を企てたという証拠があるのか、と騎士団団長である私に聞いてきたと思いますが?もうお忘れですか?」
ボケ老人か。
冷ややかにベボガを見ると、ベボガは虚勢を張るように胸を反らせた。
「そ、そうでしたな!それで、証拠なぞ、どこにもないでしょう!」
なんで?馬鹿なの、コイツ?
師匠の舎弟という、驚きと恐怖しかない陛下がいる公聴会で証拠もなく言うわけないのに。
「…我々騎士団は前述した通り、国家に仇なす者を調査追跡し、クロであれば証拠を押さえるのが仕事です」
冷ややかにベボガを見ると、ムッとした視線を返される。
それは年長者が生意気な若者を見る目に似ている。
俺は年齢的にはまだ若いし、こういう視線で見られることは多々ある。ぶっちゃけムカつくけど、反応すると余裕がないと思われるから無視しておく。
代わりに、手元の資料を捲る。
「こちらは、あなた方の署名と拇印ですね?」
資料が見えるようにわざわざ持ち上げて見せておく。
ベボガはそれを見て、『ひっ…』と悲鳴をあげた。
「なぜ、それを…」
「我々は騎士団です。無能な集団ではない」
資料には、白魔女反対過激派全員の署名と拇印がある。
きっとこれは、美しい仲間意識ではなく、互いを牽制する為のものだっただろう。
「この署名は『魔力封じの腕輪と魔術無効化液をホワイト商会から横領し、それらを使って魔術管理部門を含む自分達に歯向かう魔術師を無力化し、新たな国を作る』という思想、行動規範への署名ですね?」
別の資料を再度見せる。
実家を含む日和見の貴族連中が息を呑むのがわかる。
「これは正に国家転覆を狙っている、そのものの証拠では?」
ジロリとベボガを睨むと、ぶんぶんと首を振った。
「ち、違う違う!それは国家転覆なんかではない……陛下、違うのです!これは、でっちあげです!」
「署名と拇印があるのに?」
「そ、それは……!いやでも、これはただの妄想の域を出ないはずです!私達がこの通りに行動したとは言えないですし、思想は自由です!騎士団の言いがかりです!」
そんなわけないのに。
ちょっと考えればわかるのに。馬鹿だな、コイツ。
「我々は陛下の名の下に公明正大を掲げた騎士団です。そのような不確かな事で追及などしません」
余裕があるように、にこりと笑ってみせる。
ベボガは陛下へと視線を向けた。
「陛下!陛下を陥れようなどと、そんな不遜な事は考えておりません!この証拠もただの妄想ではありませんか!どうかご寛大なご処置を!」
ペコペコと頭を下げる姿は、中間管理職を思わせる。目上の者には媚びへつらい、目下には傲慢。そんな底の浅い人間性が見える。
「…陛下。ここで私の部下からの先程の報告を申し上げたいのですが」
陛下に視線を向けると、頷かれた。
「ふむ。申してみよ」
「はい。…先程、ホワイト商会に複数の魔術師が押し入ったとのことです。居合わせた従業員と数人の客が抵抗し、魔力封じの腕輪と魔術無効化液は無事、従業員と客にも重大な怪我はなかったそうです」
レジスタンスは捕まえられなかった。
ガイとユリは後日、騎士団に呼んで話を聞くことができるけど、あくまで被害者の立ち位置だ。尋問ができるわけでもなく、被害届の受理だけだから、レジスタンスの尻尾は捕まえられないだろう。
わかってはいたけれど、ガイはやっぱり食えない男だと思わずにはいられない。
「ベボガ殿、あなたの妄想通りにホワイト商会にたまたま、このタイミングで、全く関係ない魔術師が、魔力封じの腕輪と魔術無効化液を狙って押し入るものですか?」
そんな事ありえない。
「捕らえた魔術師の全ての名前をまだこの証拠と照合していませんが、こちらの証拠と合致するのでは?」
ジロリとベボガを睨むと、ぐっと言葉に詰まっている。
「下手に長引かせると、罪が重くなりますよ?」
ゴタゴタと言い訳を聞くのも面倒だし。
引き伸ばすと、反省の色無しと判断されて、情状酌量の余地もなくなる。
それはベボガだけではない。
ベボガの後ろに控える白魔女反対派の魔術師を睨むと、『罪が重くなる』という言葉に怯んだのか、口を噤んでいる。
「…ふむ。どうやら、国家転覆を目論むというのは嘘ではなさそうだな。…公聴会は今をもって閉会とし、騎士団は白魔女反対派の魔術師を捕らえ、尋問せよ」
陛下の言葉に、部下が魔術師を拘束していく。
多少騒いだ者も居たけれど、あっと言う間に魔力封じの腕輪をつけられていく。
ベボガにも魔力封じの腕輪がつけられた。
「なっ……!こんな、こんな事をしていいと思っているのか!」
わあわあと騒ぐベボガに、思わず舌打ちしてしまう。
「その魔力封じの腕輪は、こういう時に使う為のものです。わかりますか?つまり、犯罪を起こした魔術師を拘束する為です」
「ぐっ…この!卑しい白魔女が!お前なんかがいるから!魔術師に仇なす裏切者が!」
口角に泡を留めながらネジに向かって怒鳴り散らす。
俺のネジに向かって。
「あ?」
思わず低い声が出てしまう。柄が悪く見えるだろうけど、荒くれ者もいる騎士団の団長なんかしていたら、ちょっと気が短くなるのも仕方ないことだ。
そんな俺を見てネジは呆れた視線を向ける。
なんで俺が怒られなきゃならないんだ。
ベボガが悪いのに。
ネジがベボガをジロジロと眺めてから口を開いた。
「私は悪い事はしていない。だから捕まらないんだ」
ネジはそれから、にんまりと笑う。
その顔は母親である師匠そっくりだった。
「お前と違ってな?」
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