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 公聴会は王宮の一室で行われる。

 今日の午後1時から。

 

 あたしは今、ホワイト商会第2倉庫の木箱の上に座っている。

 この木箱の中には魔力封じの腕輪はない。

 白魔女反対過激派はここにあると思って来るけど、わざわざ親切に置いておく必要はない。だから、魔力封じの腕輪は本当は第3倉庫にある。勿論、第3倉庫にも、見張りがいる。

 

 この木箱の中身は空だけど、頑丈だし、椅子に丁度いい大きさだった。


 第2倉庫には、レジスタンスの面々が顔を揃えていた。

 レジスタンスには女性もいるらしいけど、今回は数人しかいない。

 

 レジスタンスは、魔術師を良く思っていない。だから、あたしに対して酷い対応をするかと思っていたけれど、予想に反して皆好意的だった。


 「ユリちゃん、このお菓子いる?」


 にこやかにスナック菓子を勧められて、どうしたらいいものかと、首を傾げてしまう。


 「そんな警戒しなくても、毒とか入ってないよ。普通に売ってるやつ。美味しいよ?」


 「はぁ…」


 緊張感ないな…。

 これから魔術師が来るとわかっているのに、この能天気さ。

 

 「心配しなくても、ガイの奥さんに何かするような馬鹿いないって。…ガイ、怒ると超怖いしね?」


 「はぁ…」


 戸惑いしかない。

 

 「…あたしの事、警戒しないんですか?」


 魔術師だというのは皆知っているらしい。

 魔術師に嫌悪感を抱く人間や、裏切者かと疑う人間がいてもおかしくない筈だ。

 でも、あたしにお菓子を勧めてきた、レトというこの男性は、ケラケラと笑った。


 「ないない。だって、俺ら、ユリちゃんの事知ってるもん」


 「は?」


 「ユリちゃん、この町で一ヶ月以上暮らしてるだろ?俺達は皆この町に住んでるし、余所者が来た時は皆注視してる」


 え、知らない間に見られてたってこと…?

 なんか物凄くいたたまれない気分だ。


 「この町、ネジもネジの母ちゃんも居たし、俺らはレジスタンスでも穏健派だしね。魔術師だからって全員が悪い奴らじゃないことも知ってる」


 「…あたしは悪い奴には認定されてないですか?」


 「それはもう。あのガイが嫁にしたのも納得の器量と気の強さ!…皆、仲良くなりたいんだよ」


 レトが周りを見回す。

 聞き耳を立てていたのか、照れながら手を振ってくれる人や、会釈してくれる人、調子良く投げキッスしてくる人までいた。


 「バカだなー、アイツ。アイツ、後でガイに怒られるよ」


 投げキッスしてきた男性を指差してレトはケラケラ笑っている。

 手を振り返すのも違う気がして、会釈すると、倉庫の上から階段の音を響かせてガイが降りてきた。


 「お、いいの持ってんじゃん」


 ガイは階段のすぐ下にいたあたしとレトを見て、レトが差し出している菓子袋に手を突っ込んでいく。

 

 「えー?これ、ユリちゃんにあげようと思ったのに」


 「人の嫁に餌付けすんな?」


 気安い軽口を叩きながら、ガイはあたしにも菓子袋からいくつか中身を取り出してくる。


 「食う?」


 「…要らない」


 首を横に振ると、ガイはニヤリと笑う。


 「緊張してんの?」


 その煽る言い方にイラっとしたから、ジロリとガイを睨む。


 「違うから!手が汚れるから嫌なの!」


 「おぉー…!女子!」


 レトの感心した言い方にもイラっとしたから、そちらもジロリと睨む。

 

 「なー?可愛いだろ、俺の嫁」


 「ベタ惚れじゃん」


 ケラケラと眼の前で笑っている2人にイラっとする。

 いい加減にしろ、と怒鳴ろうとして口を開いた時、階段を駆け下りる音が響いてきた。


 「来た!結構人数いるぞ!」


 倉庫の2階の窓から外を見ていた人物が大声で叫ぶ。

 賑やかな倉庫に、一瞬で緊張が張る。


 それを打ち消すように、ガイがパンパンと、2回手を打った。


 「事前に言ったけど、武器使うなよー!騎士団にしょっぴかれるからな!」


 ガイの声に呼応する声が響く。

 倉庫の扉が開いたのは、その直後だった。







 魔術師がどんどんと床に倒れていく。

 白魔女反対過激派のトップ以外は、ざっと見積もって30〜40人くらい。

 対してレジスタンスは約50人。

 数の上では圧倒的に有利だし、何より彼等は素早かった。

 魔術師が詠唱している途中で、殴ったり蹴ったり、『詠唱途中には攻撃しない』という魔術師同士の暗黙の了解を完全無視して先手必勝で魔術師を潰していく。

 でも魔術師も馬鹿ばっかりじゃない。

 一人で詠唱するから狙われるのであって、何人かで集まって、順次詠唱していく形に次第に切り替わっていく。

 詠唱で魔術が出ると、一般人には確かに危険が伴うだろう。

 レジスタンスにも怪我人が出てきている。


 それを見ながら、あたしも詠唱していく。


 魔術師が集まっている位置を狙って、雷を落とす。

 レジスタンスに当てるわけにはいかないから、集中力とコントロールとタイミングが大事だ。

 狙いを定めて、詠唱して指を鳴らす。

 ドゴン、という雷が魔術師の集団に落ちていく。

 それを、あたしが詠唱できるように、側でガイとレトが近寄ってきた魔術師を殴ったり蹴ったりしながら、それはもう楽しそうに見ている。


 「やべー!ユリちゃん、カッコいーい!」


 「惚れるー!」


 野太い男の人の歓声は、全く嬉しくない。

 寧ろ苛つく。


 「煩い!気が散る!バカ!」


 集中したいのに。

 初対面のレトには申し訳ないけれど、今丁寧語は使えない。

 そんな余裕はない。


 ジリジリとタイミングを測るのはもどかしい。焦って下手に当てないように、でも確実に魔術師に当たるように、ギリギリのタイミングで魔術を放つ。


 ドゴン、と上手くタイミングが合えば、狙った魔術師全員が、少しズレると一部は防御されたり、逃げたりしてしまう。


 イライラしつつ、何度も何度も魔術を放つ。

 そのうち、魔術師もレジスタンスも少なくなってきた。

 多分、次で当てれば終わる気がする。


 ドゴン、と雷が落ちて、全員ではないけれど、大体が床に倒れていく。

 残りは近くのレジスタンスが物理でなぎ倒していく。


 立っているのが、レジスタンスだけになって、漸く息をつく。

 ほっと、息を吐き出すと同時に、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえて振り向く。


 「許さない、ユリ!」


 大声で名前を呼ばれてギョッとする。

 後ろから現れたのは、ロウだった。


 白魔女反対派ではあったけど、過激派ではなかったから、居ないと思っていたのに。

 まさかの登場に、詠唱が遅れてしまう。

 

 ロウは詠唱ではなく、手にナイフを持っていた。

 前にガイに詠唱前に殴られたのを覚えていたのかもしれない。


 刃物を持って突進してくる人間に、生存本能が警鐘を鳴らす。

 それは魔術ではなく、純粋な生物としての恐怖。

 迫ってくるナイフが、倉庫の電気に照らされて、キラキラと輝く。

 目を見開いて、動けないあたしの前で、ロウは急に床に倒れていく。


 いつの間に後ろに回ったのか、ガイがロウの腕を捻り上げて、床に組み伏せている。


 「…誰かと思えば……何回俺の前に出てきたら気が済むわけ?」


 温度のない冷ややかな声は、レジスタンスの幹部そのものの声だ。

 ガイはロウの腕を掴んでいる手に力を込めたのか、ロウが『ぐぅ…』と呻く。

 

 「何度もしつこいな…」


 苛立ちが混ざった声は低く、恐ろしい。


 「せっかくあの時、あの程度にしてやったのに…。ユリ、ユリと…」


 ギリギリと力を込め続けているのか、ロウの腕がミシミシ言っている。


 「人の嫁にタカってくるな、コバエが」


 ボキィ、と骨の折れる音がする。

 遠慮のないその音に、思わず『ひっ…』と声が漏れてしまう。

 ロウは余りの痛さに気絶したらしい。

 動かなくなったのを、ガイが蹴り飛ばす。


 「レト、コイツも縛っといて」


 「いーけど。…ねぇ、愛しのユリちゃん、怖がってんじゃない?」


 レトに言われてガイはあたしを見てくる。

 パチリと目が合って、ガイの目に普段は見ることのない仄暗い憎悪と嫌悪の色が見える。

 その軽蔑した視線に、ビクリとしてしまう。


 ガイはそれをじっと見ながら、あたしへと一歩を踏み出す。

 怖いけど、ここで逃げたら終わる気がする。

 だから、視線を逸らさないように、ジロリとガイをにらみつけた。


 「なんで怒ってんの?ロウの事、心配してんの?」


 声が低い。

 イラつきを隠しもしない様子に、つられてムッとしてしまう。


 ここで、可愛らしく『怖かった…!』と言えれば良いのに。

 でも口から出たのは全く逆だった。


 「骨折っちゃだめでしょ!?」


 「あ?」


 「正当防衛にするって言ってたでしょうが!骨折っちゃったら、過剰防衛よ!バカ!」


 「え、そっち…?」


 叫んだ声が聞こえたのか、レトが呆れた視線を向けてくる。

 ジロリとレトを睨んでから、ガイの頭を叩く。


 「いでっ」


 「痛いじゃない!もう!つ、捕まらないよね!?」


 あたしがしてるのは、ロウの心配じゃない。

 シフトが『逮捕する理由があればする』と言っていたのを思い出す。

 ロウの腕を折ってしまって、ガイは捕まらないだろうか。

 それにヒヤヒヤしてしまう。

 

 「………ふーん…」


 ガイの服の裾を握りしめていると、肩にガイの腕が乗る。ガイはほんの少し間を空けて、肩を抱き締める形にしてから、顔を近付けてキスしてくる。


 「んん!?」


 皆いるのに!

 バシバシとガイの肩を叩くけれど、ガイは構うことなく舌を入れてくる。

 

 「やっ…」


 止めてほしい。

 皆見てるし!


 「邪魔。解散」


 ガイはあたしにキスしながらシッシッと手を振る。

 

 「ひゅー。お幸せにー!さ、帰ろ帰ろ」


 レトが茶化してくるのを無視してガイはキスを続けてくる。

 元々制圧したらすぐにレジスタンスは逃げる予定だった。

 騎士団にはホワイト商会としか伝えていない。レジスタンスは騎士団がこの第2倉庫を突き止めるまでに制圧する時間制限付きでもあった。

 騎士団はまだ来ていないから、この作戦は成功と言えるだろう。


 レジスタンスの生温かい視線を受けながら、ガイにキスされる。

 あたしがそれから解放されたのは、レジスタンスが去って、静かな倉庫に漸く騎士団がやってきた時だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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