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ガイとユリから、ユリの両親へ『魔力封じの腕輪の在庫のありか』の手紙を渡したと聞いたのは、魔術無効化液が完成し、魔力封じの腕輪と合わせて本格的な販売を迎える頃だった。
問題はない。
あとはガイのホワイト商会から魔術管理部門へ渡すだけだ。
その前に、公聴会を開く。
ガイが言い出した一網打尽の思惑は、シフト率いる騎士団も絡んでかなり大掛かりになりそうだった。
私とシフトがきちんと恋人になったのは、多分すぐにバレた。
あんなに首筋にキスマークをつけておいて、知らぬ存ぜぬ、は流石にムリだった。
母さんを含めてニヤニヤ揶揄われることもあるけれど、反応すると余計酷くなるから無視している。
シフトとの関係は、特に変わりない。と思う。
シフトは相変わらず狂気のヤンデレストーカーのまま、毎朝魔術管理部門まで着いてくるし、相変わらず会う度『結婚しよ』と言い出している。
その度に、相変わらず拒否している。今も。
「…ねぇ、なんで毎回拒否するの?俺の事好きなんだよね?さっさと婚約しよ?ね?」
「しない」
「なんで?」
なんでじゃねぇし。
目の前で耳の垂れた大型犬よろしく、しゅんとした様子を見せるシフトの頬をつねる。
「お前、用事があってここに来たんだろ?」
ここは魔術管理部門だ。
犬猿の仲の騎士団団長が意味もなく来る場所じゃない。
「…なんでガイとユリが結婚して、俺とネジがまだなの?…あんなに結婚しよって言ってるのに……漸く両思いなのに……なんでしないの?」
思考が飛びすぎてて怖い。
確かに私はシフトが好きだと自覚したし、お互い気持ちを確認し合ったけども。
だからってすぐ結婚するとはならなくね?
コイツ、マジで何にも変わんないな…。
「お先にごめんね?」
横からそれはもうニコニコでガイが煽ってくる。
それを眺めて呆れてしまう。
「でもさー、実際お前ら結婚は厳しくね?片や庶民。片や侯爵令息。身分違いの恋ってやつじゃね?」
完全に面白がってる。
「大体さ、ネジのとこ、シフトが相手で納得してんの?超溺愛してる娘の彼氏がヤンデレストーカーっていいの?ブチギレない?」
「……ウザ」
「お?その嫌そうな顔、図星じゃね?」
どっちかっていうと、反対してるのはシフトの家だけど。
私の両親はシフトの事をよく知っているし、そこまで反対はしていない。
でも両親は、『侯爵家が納得しないと嫁にはやらない』とシフトに既に伝えている。
シフトはシフトで『ネジと結婚したいから侯爵家は出る』と言い放っている。
でも私は、シフトだけに家を捨てさせたいわけじゃないから、できたら侯爵家に納得してもらいたいとも思っている。
それは私のためというより、シフトのためで、でもシフトはそれは要らないと主張している。それぞれのベクトルが別の方向を向いていて、婚約には暫く至らない気がする。
「自分が結婚できないからって僻むなよな」
「は?結婚するし」
「まだしない」
ガイの煽りに便乗してくるな。
冷ややかにシフトを睨むと、シフトは納得していない顔でため息をつく。
私が悪いみたいな顔するな。
「それはそうと、師匠は?」
キョロキョロとシフトは辺りを見回す。
「俺、師匠に呼ばれて来たんだけど…?」
『呼んでおいて何故いないのか』言外にそれを含ませながら、シフトは私を見る。
私が知るわけない。
親子だからって、何でも知ってるわけがない。
「いないなら帰ろうかな…」
面倒そうにため息をつく。
それを横目に私は魔力封じの腕輪を検品していく。
これは、腕輪の一部を取り出してそこに魔術陣と血判まで押したものだ。私の血判入りの部品は一度騎士団で腕輪と再度接合されて、今魔術管理部門に戻ってきている。
これを今度はガイ率いるホワイト商会に渡す。そこでも二重チェックされて、漸くまた魔術管理部門に戻ってきて、再チェック。それから騎士団に降りていく。
それぞれの機関でチェックすることによって、不正の防止にも繋がる筈だ。
じっと私を見てくるシフトを無視して腕輪を検品していると、魔術管理部門の入口が開く。
コンテによって作られた異空間だから、ドアベルもないけれど、開くと何となく変な感じがする。
これは魔力があるからわかる感覚だと思う。
魔力のないガイと父に聞いたら『全然わからないけど、皆の様子でなんとなく誰か来たのはわかる』と言っていた。
くるりと後ろを振り返ると、母が来たのが見えた。
その後ろを、もう一人ついてくる。
白い服に豪華な金の飾り。
質がいい生地なのは明らかで、異空間の光に照らされてツヤツヤと輝いている。
動くとシャラシャラと金飾りの音がする。
壮年の男性だった。
その男性を見て、シフトは急に立ち上がる。
勢いよく床に片足を付ける騎士の最敬礼をする。
「なんだ?誰?」
シフトの様子からかなり身分が高い人物なのは見て取れる。
首を傾げると、シフトが小声で話しかけてきた。
「ネジ、あれ、国王だよ」
「えっ…」
ギョッとする私とガイに気付いたのか、母が近付いてくる。その後ろをシフト曰く国王も付いてきた。
「…騎士団団長シフト、敬礼は良い」
威厳のある言い方は確かに国王のようだった。
「…エッラそうに…」
その目の前で、母はジロリと国王を睨む。
「調子乗ってんじゃないわよ。ギルバートのくせに」
「えぇ………俺、一応国王なんだけど…?」
「あんたより私の方が価値がある」
言い切る母は真顔だ。
冗談でも何でもなく、そう思っているとしか思えない顔だった。
「シフト!いつまでやってんの!早く座る!あんたもさっさと座んなさいよ!」
最敬礼をしていたシフトの頭を叩き、国王の脛を蹴り飛ばす。
「痛いってば!」
脛を蹴られてぴょんぴょん跳ねながら、国王はシフトを見た。
「……オリビアには逆らえないんだ……座って…」
「え………」
いつもドン引かせる側のシフトが、ドン引いているのは珍しかった。
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