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 白魔女には魔力がない。

 そう言われ続けた。

 それなのに、魔力を喰らう卑しい魔女。


 だけど、それは多分、違う。






 のんびりとした午後のひととき。

 その至福の休憩時間に、それはやってきた。


 バァンと開かれた玄関には、私と同年代の魔女がいる。

 名前を、ユリ。

 同世代の中ではシフトが一番の魔力量と、実力を持っているが、それは化け物級の、母に次ぐ魔術師だからである。その化け物を除けば、ユリは同世代の中ではかなりできる。

 魔力量も多いし、魔術も正確で卒がない。


 ユリは挨拶するでもなく、詠唱し始めた。


 「……らん。出でよ!らい…」


 ガァンッと詠唱途中に頭上からタライが落ちてくる。

 どうやら昨日のシフトとは違う所を踏み抜いたらしい。


 詠唱は不様に終わり、手に集まっていた魔力は霧散した。


 ユリはタライが直撃した脳天を押さえ、しゃがみ込んでいる。


 「……ったい!何なのよ!?」


 「タライ」


 「見りゃわかるわよ!」


 自分で聞いてきたのに。

 親切に答えてやったというのに。


 「なんでタライなのよ!?」


 「包丁じゃなくて良かったろ?」


 「そーいう事じゃない!」


 なんなんだコイツは。

 突然やって来てノックも無しに玄関に入り込んだくせに。

 シフトといい、コイツといい、最近の若者って皆挨拶できないのか?


 「大体、詠唱途中に攻撃なんて道義に悖るのよ!」


 「…馬鹿か。なんでわざわざ詠唱を聞いてやんなきゃなんないんだよ?お前ら魔術師の道義なんか知らんが?」


 なんてったって私は、はぐれものの白魔女だからな。


 「なっ……!アンタねぇ!それでも魔女なの!?」


 「よく言う。お前らの中では私は仲間でもなんでもないだろ?都合良く使ってんなよ」


 「かっ…可愛くない!!!」


 ユリは図星を突かれて真っ赤になって叫んでいる。

 その姿は年相応の可愛らしい少女そのものだ。

 私とシフトは同い年で、お互い20歳だが、ユリは3つ下の17歳。年下に『可愛くない』って叫ばれても、当たり前だとしか思えない。


 「あ、そうだ」


 丁度いい。

 私は今作ったばかりの金の腕輪を、玄関で騒いでいるユリの所まで行き、その腕にパチンと嵌めてやった。

 うん、綺麗な腕輪だと思う。


 「え…なに…?」


 ユリは突然近付いて来て、無言で腕輪を嵌めた私を訳がわからない様子で見つめてきた。

 うん、やっぱまだまだ子供だな。

 危機感がない。


 「お前、もっと危機感持った方がいいよ?」


 私だからこの程度で済んだけど。

 これ、騎士とか暴漢とかなら、怪我させられてるんじゃないか。

 ユリは私を見て、それから腕輪を眺め、首を傾げた。


 「これ、なんなの?」


 「魔力封じの腕輪」


 「………………はぁ!?」


 ギョッとしてユリは私を見つめ返す。


 「なぁ、魔力、使ってみ?」


 使えるだろうか。

 仕組み、構造、効果、その全てが計算通りにいっているだろうか。

 私がいつか来る白魔女狩りに備えて、ずっと研究して、できあがったばかりの渾身の魔道具。

 わくわくとしてユリを見ると、心底嫌そうに舌打ちし、ユリは手を上げた。


 「この……!集え雷源!出でよ、雷槌!」


 その手にバチィ、と電気が集まる。

 そして、普段ならそれが私に向かって飛んでくるのに、今日はその光が、空中で弾け飛んだ。そして、光はシュルシュルと腕輪に吸い込まれていった。


 その魔力が、私の中に流れ込んでくるのがわかる。


 それは普段、ユリが放った魔術が、私に当たった瞬間に吸収されていく感覚とほぼ一緒だった。


 「……うん。成功だな」


 満足のいく、会心の出来だ。

 

 「………は…?」


 ユリはいつもと違う現象に、戸惑いを隠せない。

 

 「アンタ……こんなの作っていいと思ってんの!?」


 「なんでダメなんだ?」


 そりゃ、魔力が使える魔術師が魔力封じの魔道具なんて作る訳がない。

 でも私は、何度も言うが、白魔女だ。

 魔力を使えない私が、この魔道具を作ると、何故考えないのか。

 前々から思っていたが、魔術師って自分の事しか考えてないな。


 「なぁ、思いつかなかったのか?…私が魔力封じの魔道具を作る可能性を、一度も?」


 あまりに無能じゃないか?


 ユリは素直だ。だから言われた通り、白魔女が魔術を持たない者達の支持をしないように、世界の均衡が壊されないように、白魔女を攻撃する。

 その一方だけの理論を、幼い頃から叩き込まれて、それが真実だと頑なに信じている。

 その純真な素直さは、最早哀れにさえ思える。


 「お前、一月くらいその腕輪つけたまま生活してみろよ。お前の師匠の所には帰れないだろ?その間は、家においてやるよ」


 自分で言うのもなんだが、私って親切だな。

 魔術しか能がない小娘、しかも今はそれすら使えないのに、を家に入れて一月面倒をみてやるんだから。

 なのに、ユリは愕然とした恐怖で私を見てきた。


 「アンタ…何言ってんの…」


 「なんだ?他に行く所でもあるのか?」


 魔力持ち以外は虫けら同然だと公言している連中の仲間なのに?

 

 「あるならそっちでも別にいいんだぞ?」


 「は……外しなさいよ!アンタがこんなのつけるから悪いんでしょ!?早く元に戻して!」


 「…?馬鹿なのか?外す訳ねぇじゃん。魔力魔力、ってそれしか能がないから困ってんだろ?いい機会だよ。色々勉強しろよ」


 「冗談じゃないわよ!あたしは魔女なのよ!?」


 「だから無能なんだろ?」


 魔力しか能がないなんて無能以外の何ものでもない。

 幸いユリはまだ若いんだし、これから沢山学んでいけばいい。

 顔から血の気が引いているユリは、なんだか可哀想に見えて、私は安心させるようににっこりと笑ってみせた。


 「大丈夫。一月くらい、魔力がなくても生きていける」


 「……ひっ…」


 その化け物でも見るような顔、やめてもらいたいもんだな…。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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