5
白魔女には魔力がない。
そう言われ続けた。
それなのに、魔力を喰らう卑しい魔女。
だけど、それは多分、違う。
のんびりとした午後のひととき。
その至福の休憩時間に、それはやってきた。
バァンと開かれた玄関には、私と同年代の魔女がいる。
名前を、ユリ。
同世代の中ではシフトが一番の魔力量と、実力を持っているが、それは化け物級の、母に次ぐ魔術師だからである。その化け物を除けば、ユリは同世代の中ではかなりできる。
魔力量も多いし、魔術も正確で卒がない。
ユリは挨拶するでもなく、詠唱し始めた。
「……らん。出でよ!らい…」
ガァンッと詠唱途中に頭上からタライが落ちてくる。
どうやら昨日のシフトとは違う所を踏み抜いたらしい。
詠唱は不様に終わり、手に集まっていた魔力は霧散した。
ユリはタライが直撃した脳天を押さえ、しゃがみ込んでいる。
「……ったい!何なのよ!?」
「タライ」
「見りゃわかるわよ!」
自分で聞いてきたのに。
親切に答えてやったというのに。
「なんでタライなのよ!?」
「包丁じゃなくて良かったろ?」
「そーいう事じゃない!」
なんなんだコイツは。
突然やって来てノックも無しに玄関に入り込んだくせに。
シフトといい、コイツといい、最近の若者って皆挨拶できないのか?
「大体、詠唱途中に攻撃なんて道義に悖るのよ!」
「…馬鹿か。なんでわざわざ詠唱を聞いてやんなきゃなんないんだよ?お前ら魔術師の道義なんか知らんが?」
なんてったって私は、はぐれものの白魔女だからな。
「なっ……!アンタねぇ!それでも魔女なの!?」
「よく言う。お前らの中では私は仲間でもなんでもないだろ?都合良く使ってんなよ」
「かっ…可愛くない!!!」
ユリは図星を突かれて真っ赤になって叫んでいる。
その姿は年相応の可愛らしい少女そのものだ。
私とシフトは同い年で、お互い20歳だが、ユリは3つ下の17歳。年下に『可愛くない』って叫ばれても、当たり前だとしか思えない。
「あ、そうだ」
丁度いい。
私は今作ったばかりの金の腕輪を、玄関で騒いでいるユリの所まで行き、その腕にパチンと嵌めてやった。
うん、綺麗な腕輪だと思う。
「え…なに…?」
ユリは突然近付いて来て、無言で腕輪を嵌めた私を訳がわからない様子で見つめてきた。
うん、やっぱまだまだ子供だな。
危機感がない。
「お前、もっと危機感持った方がいいよ?」
私だからこの程度で済んだけど。
これ、騎士とか暴漢とかなら、怪我させられてるんじゃないか。
ユリは私を見て、それから腕輪を眺め、首を傾げた。
「これ、なんなの?」
「魔力封じの腕輪」
「………………はぁ!?」
ギョッとしてユリは私を見つめ返す。
「なぁ、魔力、使ってみ?」
使えるだろうか。
仕組み、構造、効果、その全てが計算通りにいっているだろうか。
私がいつか来る白魔女狩りに備えて、ずっと研究して、できあがったばかりの渾身の魔道具。
わくわくとしてユリを見ると、心底嫌そうに舌打ちし、ユリは手を上げた。
「この……!集え雷源!出でよ、雷槌!」
その手にバチィ、と電気が集まる。
そして、普段ならそれが私に向かって飛んでくるのに、今日はその光が、空中で弾け飛んだ。そして、光はシュルシュルと腕輪に吸い込まれていった。
その魔力が、私の中に流れ込んでくるのがわかる。
それは普段、ユリが放った魔術が、私に当たった瞬間に吸収されていく感覚とほぼ一緒だった。
「……うん。成功だな」
満足のいく、会心の出来だ。
「………は…?」
ユリはいつもと違う現象に、戸惑いを隠せない。
「アンタ……こんなの作っていいと思ってんの!?」
「なんでダメなんだ?」
そりゃ、魔力が使える魔術師が魔力封じの魔道具なんて作る訳がない。
でも私は、何度も言うが、白魔女だ。
魔力を使えない私が、この魔道具を作ると、何故考えないのか。
前々から思っていたが、魔術師って自分の事しか考えてないな。
「なぁ、思いつかなかったのか?…私が魔力封じの魔道具を作る可能性を、一度も?」
あまりに無能じゃないか?
ユリは素直だ。だから言われた通り、白魔女が魔術を持たない者達の支持をしないように、世界の均衡が壊されないように、白魔女を攻撃する。
その一方だけの理論を、幼い頃から叩き込まれて、それが真実だと頑なに信じている。
その純真な素直さは、最早哀れにさえ思える。
「お前、一月くらいその腕輪つけたまま生活してみろよ。お前の師匠の所には帰れないだろ?その間は、家においてやるよ」
自分で言うのもなんだが、私って親切だな。
魔術しか能がない小娘、しかも今はそれすら使えないのに、を家に入れて一月面倒をみてやるんだから。
なのに、ユリは愕然とした恐怖で私を見てきた。
「アンタ…何言ってんの…」
「なんだ?他に行く所でもあるのか?」
魔力持ち以外は虫けら同然だと公言している連中の仲間なのに?
「あるならそっちでも別にいいんだぞ?」
「は……外しなさいよ!アンタがこんなのつけるから悪いんでしょ!?早く元に戻して!」
「…?馬鹿なのか?外す訳ねぇじゃん。魔力魔力、ってそれしか能がないから困ってんだろ?いい機会だよ。色々勉強しろよ」
「冗談じゃないわよ!あたしは魔女なのよ!?」
「だから無能なんだろ?」
魔力しか能がないなんて無能以外の何ものでもない。
幸いユリはまだ若いんだし、これから沢山学んでいけばいい。
顔から血の気が引いているユリは、なんだか可哀想に見えて、私は安心させるようににっこりと笑ってみせた。
「大丈夫。一月くらい、魔力がなくても生きていける」
「……ひっ…」
その化け物でも見るような顔、やめてもらいたいもんだな…。
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