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白魔女とは、世界に一人だけの最弱で、最強のチートだ。
自身に魔力はないのに、他者からの魔力を喰らい、決してその攻撃を受けることがない。
魔力を使える者にとって、これ程までに忌まわしく、厄介で、且つ絶対に魔術では勝てない、正しくジョーカーであるのが、白魔女だ。
一方で魔力を持たない者からすれば、白魔女は魔力は持たずとも、魔力を喰らう恐ろしい魔女に変わりない。そして、魔術に対抗できる唯一の盾でもある。
結果、白魔女はどちらからも嫌われ、そしてどちらにつくか一つで、魔術を使える者と魔力を持たない者の争いに、絶大な影響を与える。
だから、どちらからも狙われる。
魔術を使える者は殺意を持ち、魔力を持たない者は利用価値を持ち、それぞれが、それぞれの思惑で白魔女を得ようとする。
その醜悪さ。
それは歴史を見ても明らかだ。
白魔女一人の為に、村を焼き、国を滅ぼし、そして最後に白魔女を殺す。
それが過去の歴史であり、魔力を持つ者と持たざる者を深く深く隔絶していく。
魔力を持つ、それはつまり、魔女であり、魔術師だ。国は基本的には彼らを保護しない。でも国に尽くす魔女と魔術師であれば、話は違う。
国として、魔術管理部門を立ち上げ、そこに在籍する魔女と魔術師を保護し、代わりに彼らから、魔術で得た利益を貰う。
ネジの母親は、ここにいる。
魔術管理部門の部長。国家の重鎮の一人の彼女は、愛娘の為だけにその身を国に捧げたにすぎない。
そして、その無償の愛を、見せびらかす性格ではない。
結果、白魔女であるネジは隠された存在でもあった。
国一番の魔女である彼女に逆らう事は、王でさえ躊躇する程の地位と確かな実力。
その彼女が、勝てないのが民意だ。
大衆の恐れが巨大な力になる、その凶暴さを知っている。
だから彼女は、俺に騎士になれと言ったのだ。
『魔術の攻撃なら勝てる。でも純粋な力では勝てないのよ』
だから、純粋な力で勝てる存在が必要だと、そう言った。
そして、俺はその為だけに、騎士団の団長まで登り詰めた。
ネジは真っ直ぐに俺を見返してくる。
その目には、恐れも、焦燥もない。
ただ来るべき時が来たのだという諦めと、覚悟が宿っている。
ネジはきっと逃げも隠れもしない。
淡々と日々を過ごそうとするだろう。
でもそれを黙って見ていることなんて、俺にはできないし、絶対にしたくない。
だから、どうしても今、婚約してしまいたい。
本当はすぐにでも籍を入れて、庇護下に置きたいが、それはネジが納得しないだろう。
「ネジ。だから俺と結婚しよう。まずはここに名前と拇印を…」
「嫌だ」
にべもなく断られた。
白魔女狩りが始まるって伝えたのに。
その危険性が理解できない程、ネジは馬鹿じゃない。
「白魔女狩りが始まるのに?一人でどうするの?」
ネジはか弱い。
ほっそりとした肩、小さな手足、折れそうな首筋。
白いウェーブがかった髪に、ルビーをはめ込んだような深紅の瞳。
白魔女でなく、ただの女の子としても、無力で儚い見た目なのに。
ネジの本性は、無鉄砲で興味のあることしかしない、子供そのものだった。
「私がお前の婚約者に収まったとして、それは白魔女狩りを抑えることになるのか?」
「完璧には無理だね。でもある程度の抑止力にはなるだろ?」
クレメンス侯爵家は、地位も権力もある。
騎士団団長としての実力もある。
魔術師達への抑止力には充分な効果だし、大衆に対しても白魔女を手に入れた存在として、充分なアピールになる。
無理な追及はしてこないはずだ。
「その場凌ぎだろ」
ネジは本質を突いてくる。
それはその通りだ。
魔術師ではなく、魔術を持たないクレメンス侯爵側が、ネジを手に入れる。
それは新たな膠着と、火種になる。
白魔女という、唯一無二のジョーカーはそれだけの危険を孕んでいる。
「…なぁ、科学は魔術に勝てないか?」
「は?」
「私が何も準備してないと思うのか?国一番の魔女である母を持ち、この国の騎士団団長に登り詰めた弟弟子を持った、この私が、ただ守られるだけの存在だと思うのか?」
この、強さ。
この眩しいほどの不遜で、横暴で、理不尽な、俺が愛してやまない、たった一人。
ネジは泣くでも困惑するでも、怒るでもなく、たった一人、この世界と戦う覚悟を決めている。
「……勝てる算段が、あるの?」
「ある。だからお前とは結婚しない」
「えぇ……そんなぁ…」
それはそれ。これはこれだ。
俺がネジを愛しているのは変わらないし、助ける助けないではなく、ただ、好きだからずっと一緒にいたいのに…。
この白魔女狩りが、ネジと一足飛びに結婚できるチャンスだったのに…。
「いいか。魔術は確かに凄い。それは無から有を出せるからだ。でも出した有は、なんてことない、ただの物質だ」
「えーと……」
ネジの言っていることは何となくわかる。
でもそれが、具体的に思いつかない。
「馬鹿。お前、今魔術で炎を出してみろ」
「ええ?危ないよ?」
「いいから。やれ」
有無を言わさない指示に仕方なく手から炎を出す。
無詠唱でも出せるようになったのは、ネジの母でもある、師匠の賜物だ。ちょっと、いや、かなり無茶振りの酷い訓練ばっかりだったけど。
「よし」
ネジは炎を見て、そして、俺の手に向かって机の上に出しっぱなしになっていたコップの中身をぶち撒けた。
手は当然びしょびしょだし、服の袖も濡れた。ついでにちょっと液体が飛んできて顔にもかかった。何飲んだんだろう。…なんか臭い…。
「わかったろ?」
「………何が?」
コップの中身の話…?これ、牛乳かな…?
「馬鹿だなぁ…。まだわかんないのか?いいか、つまり、お前の出した炎は、何もない所から突然出てきた。でも出てきた炎はただの炎なんだ。だから当然、水、まぁこれは牛乳だけど、で消火できる。つまり、科学は魔術に負けないんだ」
ネジは力強く頷く。
それはネジが辿り着いた、世界と戦う武器。
それは、魔力も権力も鋼の肉体もない、一人の女の子の、唯一無二の対抗策だった。
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