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ガイがニンマリと笑うのを見て、呆れてしまう。
なんでこんなに好戦的なんだ、コイツ。
来るか来ないかわからないなら、そのままにしておけばいいものを。
でも同じく好戦的な母は興味を唆られたらしい。
「ふぅん…?面白そうじゃない」
「だよなー!オバサンはそう言うと思ってた」
にっこりとガイは笑う。
ガイの横にいるユリは心底嫌そうだ。
「で?あんたが策もなくそんな事言うわけないわよね?」
「勿論。……来るのを待つよりおびき出して一網打尽の方が楽だろ?だから、正式な公聴会って開けない?」
公聴会…?随分と規模がデカい。
「開けないこともない。…でも全員なんて入らないわよ?」
「わかってるって。残りは俺達、つまりレジスタンスが請け合うよ」
レジスタンスの名前を出されて母はピクリと眉を上げる。
「レジスタンスの所に行くかしら?」
魔術管理部門主体の公聴会が開かれるなら、主要はそちらだろう。
残りが大人しくレジスタンスとかち合うのか。特に魔術師は魔力のない一般人を馬鹿にしているから無理だろうと、言外に伝えている。
それにガイはニコリと笑った。
「来る。だって場所はホワイト商会だからさ?魔力封じの腕輪がホワイト商会に大量にある。魔術無効化液も一緒に置いてある、なんて聞いたら過激派の残りはこっちに来ると思うだろ?」
「ほぉーん…。成る程ね。…でもその情報、誰が伝えるわけ?私達が言った所で罠だと思わない?」
母の言う事も尤もだろう。
一部の馬鹿は来るだろうけど、全員が来るとは思えない。
「そこで、ユリとその両親が使えるだろ?」
ガイはにっこりと笑う。
自分の妻にする予定の恋人でさえ使うその手腕は、ドン引きを通り越して感心するレベルだ。
「ユリの所に両親から手紙が来ててさ?要約すると、すげぇんだけどね?『ユリの婚約者のロウへの慰謝料と違約金を払うか、払えないなら結婚しろ』って言ってんだよね?」
ハハハ、とガイは笑ってはいるけれど、目が笑っていない。
「その上で、『魔力封じの腕輪を作ってるなら持って帰ってくれば、スパイだったことにしてあげる』ってお手紙なんだよね?」
「…え、ヤバ」
マヤがドン引きしつつユリを見る。
つられてユリへと呆れつつ視線を向けてしまう。
「お前の親、薄々思ってたけど、やっぱロクでもねぇな…」
白魔女の所に単身で娘が乗り込んで来ても迎えに来ない時点で薄々思ってはいたけれど。
「っていうか、お前、婚約者なんていたの?」
浮気じゃん。
白けた視線を送るとユリは不満げだった。
「ロウの方から婚約破棄する、って言ってきたもん。あたしだってガイとこうなる前に、両親に婚約破棄したいって手紙送ってたけど…………でも実際破棄してないなら浮気…?やっぱあたしが悪い…?」
ユリは納得していない顔で小さくため息をつく。
それに答えたのはガイだった。
「法的にみたら、完全に浮気。ロウの慰謝料もぐうの音も出ないぐらい正論」
「あんたが言う…?」
ユリが心底呆れた顔をする。
マジでそれ。
誰に言われてもガイにだけは言われたくないだろうに。
でもガイは全く悪いとも思ってはいないだろう。
「だから俺が慰謝料払ってやるんじゃん?」
払ったからって浮気は浮気だけどな。
ガイは多分、ユリが『浮気をした悪女』と言われようが何も気にしないだろう。
ガイにとってユリは大事な恋人だろうけど、ユリに実害さえなければ特に拘りもないように思える。
「まぁ、俺が誑かしたからね。責任の一端があるからそれはいいんだけど」
それからガイは静かに成り行きを見ていた母を見る。
「悪くない提案だと思うんだけど?どう?」
「そう上手くいくかしらね?いくらユリの両親にホワイト商会に在庫があると話しても信用するかしら?」
確かに信用してくれなければ、公聴会を開くだけになるだろう。
「だから、オバサンに話してるんじゃん。…魔術師連中が確実に信用する書類にする為に、魔術管理部門部長のサインが欲しい」
「公的な書類にサインはできないわ」
「『魔力封じの腕輪をホワイト商会から買収する』書類なら問題ないだろ?その書類と一緒に在庫はホワイト商会にあると書いてある付箋があったら?信憑性は高いと思うんだよね?」
にっこりとガイは笑う。
それはもう楽しそうに、意地悪く、不敵に笑っている。
どこからどう見ても悪役だ。
「…よく回る知恵ね。……いいわ。書いてあげる」
「おっ、流石!決断早くて助かる!」
「でも人に物を頼むんだから、あんたのお得意の見返りがないと困るわね?」
以前に魔術管理部門部長としての母に、魔力封じの腕輪を作る報酬を強請ったのを忘れてはいないらしい。
意地悪く母はガイに向かって笑った。
「で、私に何をくれるの?」
ピリリと空気がひりつく。
ガイはそれに気付いているだろうに、笑みを崩すことはなかった。
「公聴会を開くってこと自体がキラーパスじゃね?白魔女反対派の主要メンバーを公聴会という名目で呼び出す。これ以上ない程有益だろ?」
「しかも公聴会にこれない下っ端はレジスタンスが対処してくれるって事だものね?…確かに好条件よ。白魔女の母親である私個人にはね?」
母は優雅に足を組み直す。
ニンマリとした笑みに、冷ややかな敵意が入っている。
「でも魔術管理部門部長のサインを記入するのよ?魔術管理部門としてのメリットも提示してもらわないと」
「えー?でも俺はぶっちゃけ、ユリと結婚できてユリの親を排除できればいいんだよね?公聴会はついでの提案なんだけど?」
「甘いこと。…ユリの両親は白魔女反対派。それも過激派よ?ねぇ、本音は一網打尽にあの両親も牢に入れておきたいんでしょ?」
ユリの前で言う話じゃないと思うけど。
バチバチとした雰囲気にマヤはげんなりとして小さく『またか…』と呟いていた。
ユリも本当に嫌そうに口を曲げている。
ガイは不満そうに母を見る。
母は心底楽しそうに口に弧を描いた。
「そうねぇ…。ホワイト商会から納入する魔力封じの腕輪、原価にしてくれる?」
ボランティアじゃん!
ふっかけてきたなぁ…!
「ハハハ。何それ?冗談?絶対嫌だね」
「あら?じゃあ公聴会もサインも要らないのね?」
足元見てるなぁ…。
ガイがわざわざ提案してきた時点で、充分なメリットがあるとわかっている。
だからガイが断らないのを見越して母はそれはもうニヤニヤしている。
大人げない。
「………わかった。じゃ、向こう一年でどう?」
「十年」
「長い!2年!」
「ケチケチしてんじゃないわよ。5年」
「三年!それ以上やって会社潰れたらどうしてくれんの?潰れたら俺のこと雇ってくれんの?」
すげぇ言いがかりじゃん…。
原価で売って潰れたから雇えってどういう理屈…?
意味がわからないのに、ガイならやりそうだと思ってしまう。
母もそう思ったのか、呆れてガイを見てからため息をついた。
「あんたなんか雇ったら寝首をかかれそうで嫌よ。……仕方ないわね。三年でいいわ。優しい私に感謝しなさいよね?」
何にも優しくないと思う。
三年も原価で売るなんて、ガイからしたら大損もいいところだろう。
でもガイは本当に嫌そうに舌打ちしただけで、それ以上はゴネなかった。
多分、ユリの為じゃなかったらここまでしていないだろう。
チラリとユリを見ると全然嬉しそうな顔をしていなかった。
むしろドン引いていた。
「……お前、愛されてるじゃん」
ちょっとからかいも含めて言うと、ユリは冷ややかに私を見てきた。
「やり方が極悪過ぎるわよ」
それはそう。
奥さんにする恋人を金で買って、国の公的機関を強請る未来の旦那。
控えめにいっても、最低最悪の極悪人だな。
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