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ガイの家で一泊した翌日、魔術管理部門にガイと連れ立って出勤して、その途中の今、ネジと合流した。
昨日はあのあと、普通にご飯を食べに行って、別々にお風呂に入って別々に寝た。
キスもハグもするけれど、それ以上はない。
それにちょっと物足りなさを感じてはいるけれど、自分から迫ったりはできない。
ガイは多分、我慢してくれているのだと思う。それがわかるから、覚悟もないのに迫る事は余計にできなかった。
そんな私を嘲笑うかのように、ネジの首筋に、赤い痣が見える。
「えっ…」
思わず声を上げてしまう。
横にいるガイは見えているだろうに、完全に無視していた。
同じように見て見ぬ振りができれば良かったけど。あたしには無理だった。
声を出してしまったから、ネジが不思議そうに振り返る。
その顔は特に疚しい事などありません。といった顔だ。
ネジはもう、成人してる。
情緒があまりにもないから、そういう事にも興味なんか無さそうだったけど、そうでもないのかもしれない。
っていうか、そもそも。
それは誰につけられたのか。
ゲランの件があって、あのシフトが自分以外につけられるのを許すとは思えない。でも、シフトは今まで指一本触れなかったのに。
もういっそ虫刺されだろうか。
違う気がするけれど、虫刺されで納得しようと思ったのに。
「ひっ……」
なんで2つも3つもついてるんだ。
そんなの絶対違うじゃん…!
「…?さっきからなんなんだ?」
小さな悲鳴を漏らしたあたしをネジは嫌そうに見てきた。
話を振らないで欲しい。
見て見ぬ振りできなくなるのに…!
「あ、あの……首の、なに…?」
「首?」
キョトンとネジは頭を捻る。
そうすると、さらりと髪が落ちて余計に目立つ。
「その…き…」
言えない!
ガイがニヤニヤしながらこっちを見ていて本当に腹立たしい。
仕方なく鞄から手鏡を出してネジに差し出す。
「なんだ?」
「自分で首の確認して…」
ずい、と押し付けるとネジは眉を顰めながらも手鏡を開いた。
それから、首を見て、心底嫌そうに『げぇ…』とだけ呟いた。
「……シフト、堪え性ないね?」
ニヤリとガイが笑う。
今まで黙っていたくせに!
ジロリとガイを睨むけれど、全然響いた様子もない。
「まぁ、大人だもんな?ノリと勢いって大事だよね!」
それはもう嬉々としてネジを見ている。
ネジは冷ややかにガイを見て、ふん、と鼻を鳴らした。
「お前、人の事にばっかり首突っ込んで、相当暇なんだな?」
「心配してんじゃん。可愛い弟分と妹分が上手くやってくれてるか、心の底から興味ある」
絶対心配じゃない。
どこからどう見ても野次馬。
ゲスい笑いが引くほど似合う。
「で?もう食われちゃった?」
ドン引きだ。
あたしの彼氏だけど。
物凄く嫌な気分でガイを見るけれど、ガイはそれはもう楽しそうだった。
「期待に添えなくて悪いけど。お前らと違って清く正しいお付き合いだよ」
にっこりとネジは笑う。額に青筋が立っているのが見えた。
っていうか…お前らと違ってって何?
一緒ですけど?
ちょっとイラっとしてしまったのは仕方ないと思う。
「俺らだって清く正しいし。あ、でも来月からは合法だった」
「あ?」
「俺とユリ、来月結婚するから」
…………マッジで止めてほしい。
ガイはそれはもうあっさりとなんのてらいもなく「結婚する」と魔術管理部門でも言い放った。
先に聞いていたネジは心底冷ややかにガイを見ただけで、さっさと机に向き直って仕事を始めていく。
ガイの爆弾発言に一番食いついたのはマヤだった。
「え!?マジで!?おおー……」
しげしげとガイとあたしを見比べてくる。
その視線に苛ついてジロリと睨むと、マヤはニヤニヤと笑ってきた。
「ねぇ、ガイ。奥さん、怒ってるよ?」
「なー、ウブだろ?」
ハハハとガイは笑う。
ムカついたからガイの足を踏みつけたけど、ガイはこれ幸いと近づいたあたしの腰を引く。
「職場!離してよ!バカ!」
ばし、とガイの肩を叩くけど、ガイは別に痛くも痒くもないらしい。
腰に回った手は離れなかった。
「おやー?旦那さん、浮かれまくってるね?」
ニヤニヤとマヤが笑う。
もう本当に嫌だ。
「まーね。可愛い可愛い彼女を合法的に買い取れて、俺、超幸せ」
ケラケラと冗談なのか本気なのかよくわからない。
仕事を始めていたネジが顔を上げた。
「……買い取ったぁ?」
「そう。ユリの両親からお買い上げする予定」
にっこりとガイは笑う。
それにマヤが乾いた笑いを浮かべた。
「おっと…?一気にきな臭いな?………じゃ、お幸せに!」
一目散に逃げようとするマヤの襟足を掴んでガイはにっこりと笑う。
「わかってんじゃん。ただ浮かれて話したかった訳じゃねぇんだよな、これが。……ネジのオバサンまだ?俺から提案があるんだよね?」
笑顔の圧が怖い。
ガイの提案が何かはあたしも知らないけれど、ロクなことじゃない気がした。
ネジのお母さんが来たのはそれから直ぐだった。
魔力封じの腕輪も大量生産できてきて、魔術無効化液もほぼ完成。
あとはホワイト商会主体で販売をしていく所まで来ている筈だ。
事業も順調だし、特に困ったことはない。
このまま波風立たない内に魔術管理部門としても、騎士団としても、ホワイト商会としても、さっさと先に進めたい所だろう。
なのに。
何故、わざわざ波風立てようとするのかわからない…。
ネジのお母さんはガイとあたしの結婚報告にそれは嬉しそうに笑って頷いた。
「えー!早いけど、いいんじゃない?おめでとー!」
軽い。
いい歳の大人にしては若者のような軽さだ。
「おー、ありがと。…で、本題なんだけど」
「は?」
さっきまでのニコニコの笑顔から一転、真顔で睨まれた。
あたしは関係ないのに。
「あのさぁ、魔力封じの腕輪ってさ、もうほぼほぼ、色んな所に伝わってるじゃん?」
それはそうだろう。
ゲランが現れた時点で、隣国にまで伝わっている筈だ。
ガイの所属するレジスタンスは、もうかなり前から知っていただろうし、魔力封じの腕輪をしてロウと会ったのだから、私の両親のいる白魔女反対の過激派にも確実に伝わっていると思う。
「まぁ、そうね?」
「ってことはさ、いつ魔術師連中がネジを襲ってくるかもわからない、ってことじゃん?」
確かにその通りだろう。
だから皆、早く事が進むように動いているんだし。
ネジのお母さんは頷いて、先を促すようにガイを見る。
「わざわざ待つ事なくね?」
「は?」
ギョッとした声を出したのはあたしか、ネジか。多分両方だろう。
「つまり?」
「先手必勝。待つより仕掛けた方が早い」
ニンマリとガイは笑った。
それはもう、悪徳商人そのものだった。
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