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 赤ん坊の写真を見つめてゲランとゲランの両親が身体を震わせている。

 一番に立て直したのは、ゲランの父親だった。

 年長者らしく、ゴホン、と一つ咳払いをして口を開く。


 「……お話は、わかりました。どうやら、あなた方の言う通り、息子は強姦未遂を犯したのでしょう。大変申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げる。

 ゲランの母親も、同様に深々と頭を下げた。


 「息子には、本国に帰って然るべき罰を受けさせます」


 この父親、一応ちゃんとはしてるんだな。

 思わずしげしげと眺めてしまう。

 そんな私を嘲笑うように、初めて母が口を開いた。


 「…許さない。私の命より大事な娘に強姦未遂など…隣国ではなくこちらに引き渡してちょうだい」


 「えっ…!?」


 ギョッとしてゲランとゲランの両親が母を見る。


 「い、いやいや。本国できちんと、然るべき罰を…」


 「何故?罰を受けさせるならこちらでも構わないでしょう?………というか、そもそも、どうしてそんな嘘までついて、ネジと婚約を?あなた方も、息子の結婚相手に、なぜ娘を選んだの?愛し合ってるという息子の言葉は今更だと思わなかったわけ?」


 「そ、それは…」


 ぐっとゲランの父親は言葉に詰まる。

 それを鼻で笑って母は続けた。


 「今我が国では、白魔女である娘を主体に魔力封じの腕輪を作り上げている。あなた方は、『婚約に伴う魔力封じの腕輪の譲渡』の件でここに来ているのだから、当然魔力封じの腕輪を知っている。そして嘘までついてあなた方の息子と私達の娘である白魔女を婚約させようとした。これはつまり」


 母はそこで言葉を切って美しく微笑む。

 聴き逃すことがないように、ゆっくりと喋った。


 「国家機密窃盗未遂罪と言えるわ」


 ひっ、とゲランの母親が息を呑む。

 これが普通の反応だと思う。

 この母親がどこまで関与しているのか知らないが、蒼白の顔には思わず憐憫の情を誘うものがあった。


 「こっ…国家機密窃盗未遂罪なんて…そんな大げさな!そんなつもりはこちらには全くない!」


 「何を甘っちょろい事を言ってるの?腕輪の譲渡と知っていてここにいるんでしょう?それこそが国家機密窃盗未遂罪。その気がないなど、よく言えたものね」


 冷ややかに母はゲランの父親を睨み、それからゲランを睨みつけた。

 

 「魔力封じの腕輪は私達、魔術管理部門も参加している。つまり、これは魔術管理部門への宣戦布告、ひいては国家への敵対行為とみなす」


 ちりん、と母は机の上のベルを鳴らす。

 それは隣の部屋の騎士団を呼ぶ為のものだ。

 澄んだ音色は大きく、数秒もしない内に、隣の部屋が動く音がする。

 バァン、と勢いよく扉が開いた。


 扉を開けた張本人のシフトが殺気を振りまいている。


 後ろに控える部下であろう騎士団員が、恐ろしそうにシフトを見ていた。


 「私達、魔術管理部門と騎士団はこれを国家への敵対行為とみなし、戦争も辞さない覚悟よ。そうなれば、魔術管理部門部長の、この私自らが先頭に立ち、お前達の首を刈る」


 過激派過ぎる…!

 あんなに戦争はしたくないって言ったのに!

 思わず父を見るが、父はそんなに止める気がないらしい。

 この前『ネジが戦犯になるからダメだ』って言ってたのに!

 今や完全に事の成り行きを見つめる第三者にしか見えない。


 呆気に取られているゲランと、その両親に向かってシフトが良く通る声で言った。


 「ゲラン・アパタイト、並びにその父母ダグラス・アパタイト、ゲラニー・アパタイト、お前達には国家機密窃盗未遂罪の容疑がかかっている。今後の話は騎士団で行い、また弁護人が必要ならば国を通して申請ができる」


 シフトはじっとゲランを見つめて、それから鼻で笑った。


 「…まぁ、国が弁護人を派遣してくるとは思えないがな」


 性格悪いな。

 それはそうかもしれないけど、その顔。

 完全に煽ってるし、めっちゃザマァミロ、って書いてあるじゃん。


 「こちらとしては、国家機密が守られ、罪人が然るべき罰を受けるならば、国への敵対行為ではなく、単なる国家機密窃盗未遂罪で終わらせるつもりだ。その旨は、既に我々の国王陛下を通し、隣国へと伝える手筈になっている。他に伝える事はない。連れていけ」


 シフトは部下にゲラン達を示す。

 騎士団員はキビキビとした動きでゲランとゲランの両親を拘束した。


 「この…この…!お前こそ私怨だろう!僕がネジの胸を触ったのが気に入らなかったんだろう!お前だってずっとネジを見ていたくせに!触れもしない腰抜けが!!」


 えぇ…今言う?

 確かにシフトは私のストーカーだし、指一本触れない意気地なしではあるけど。

 でも、それ今言う?

 この状況で?え、死にたいのか…?


 ギョッとしてゲランを見ると、目が合う間もなく床に潰されていた。

 ダン、という音と共にシフトが足でゲランの頭を踏んづけていた。

 

 いや…完全に悪役では…?

 騎士団って正義のヒーローじゃないのか?

 いいのか…?


 ギリギリと力を込めているのか、ゲランからはカエルの鳴き声がしている。


 「私怨じゃない。国家機密窃盗未遂罪だって言ってんじゃん。…お前、生きてられると思うなよ?普通に死罪だからな?」


 怖…。

 完全に目、据わってるし。

 シフトは最後にもう一度足に力を込めたのか、ゲランはぐぇ、と苦しそうなカエルの断末魔のような声を上げて動かなくなった。


 「…え?殺した…?」


 やりすぎじゃないか?

 まだ殺したらダメって言ってなかった?


 でもシフトは私に向けてふるふると首を振った。


 「殺してないよ。ちょっと気絶しただけ」


 「えぇ…やりすぎじゃないのか?」


 「え?どこが?気絶だけなんだから、凄く親切じゃない?」


 親切のレベルがおかしい。

 なんなんだ、その不思議そうな顔は。


 「はー…このクズとこれから話さなくちゃならないなんて……もう話し合いなんて無意味だしさっさと殺したいのに…」


 「言ってる事が殺人鬼なんだよな…」


 会話したくないから殺すっておかしくないか?

 そんなんでいいのか、コイツ。


 呆れてシフトを見ると、シフトも私を見返してきた。

 じっとこちらを見てくる。


 「……なんだ?」


 多分、何か言いたい事があるんだとはわかるけど。

 それが何かは全くわからない。

 

 その間にゲランは騎士団員に引きずられて部屋から出て行ったし、ゲランの両親も同様だった。

 

 部屋に残ったのは、両親と私、それからシフトだけだ。

 気心知れた家族とも言える関係で、両親もまじまじとシフトを見ていた。


 「…俺、これからゲランの取調があるんだけど」


 「うん。頼んだ」


 「うん。まぁ…それはいいんだけど。………俺、頑張ったよね?」


 「ん?」


 頑張った事あったか?

 思わず首を傾げてしまう。


 「ゲランを1秒でも早くこの世から消したいのに、未だに我慢してる。それはもう、鋼の理性で殺意を押し留めてる」


 「えっ…うん…?」


 それ、頑張ったって言う?

 騎士団団長なら当然なのでは…? 


 「書類も頑張って作成した」


 「えぇ……それは、当たり前じゃないか?」


 騎士団団長なんだから、書類仕事だってこなさなくてはいけないだろう。


 至って普通の事しか言っていない気がする。


 でもシフトは一歩私に近付いてきた。


 「だから、褒めて」


 「え?えぇ……?」


 「よく頑張った、って言って頭撫でて」


 シフトは腰を屈めて私に頭を差し出してくる。サラサラの髪は短いのに、天井の光に照らされて艶めいている。


 「………犬…」


 思わず呟いてしまう。

 シフトはそれは無視してもう少し頭を突き出してきた。


 ………なんか、可愛い。

 素直に褒めて貰いたくて一生懸命頭を突き出してくる姿は、撫でて欲しくて堪らない大型犬のように見える。


 「…わかった。わかったから。……その体勢、キツいだろ?椅子座れば?」


 椅子を示すとシフトは大人しく椅子に座った。それからまた撫でやすいように頭を下げてくる。


 大きい男の人になったのに。

 甘えてくる姿が、可愛くて堪らない。


 そっと頭に触れる。ナデナデと、数回髪に触って、それから、シフトの頭を抱え込む。

 重くて固いのに、髪が柔らかくてつい頬を擦り付けてしまう。


 「……よく頑張った。偉いぞ、駄犬」


 「…………わん」


 「ふ、ばか」


 小さく笑うと、シフトが服を掴む。

 ギュッと握りしめてくるのに、絶対に私には触らない。

 それは今までもそうだった。

 なのに今、それが無性に淋しい。


 シフトは満足したのか、私の腕から顔を上げた。


 「ありがと。…俺、もう行くね。ネジ、また明日」


 パッと雰囲気を変えてシフトは椅子から立ち上がる。

 するりと手をすり抜けたのが、なんだか腹立たしかった。


 「あら、もういいの?もう少しイチャイチャしてても良かったのに」


 母がからかうように笑う。

 それにシフトは嫌そうにため息をついていた。


 「まさか。これ以上くっついてたら先生に怒られるし。まぁ…仕事もあるし」


 ゲランを思い出したのか、もう一度嫌そうにため息をついて、シフトは扉に向かって歩き出す。

 その背中は、大きく逞しくなった。

 一人でなんでもできるようになったシフトに、置いていかれるような気がする。


 手を伸ばして引き留めたかったのに、結局私の手は動かないままだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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