33
床下から現れたシフトは父のようにマックの手を借りず、自力で這い上がってきた。
騎士団の賜物なのか、ズリズリ這い上がってくるようなみっともない感じではなく、反動をつけて穴から飛び出てきた。
だん、と床に足をつけた時の音が響く。
筋肉質の重そうな音だ。
それから、スタスタと私の方に向かってくる。
キレてる。それはもうブチギレ。
母に勝るとも劣らない怒気に、悪い事はしていないのに、嫌すぎて父の後ろに隠れた。
父はチラリと私を見てからシフトを見た。
「シフト。久しぶりじゃないか」
「………お久しぶりです。先生、退いて?」
「ハハハ。何故?」
とても面白そうに父はシフトを見る。
シフトは盛大に舌打ちして、父の後ろにいる私を覗き込んだ。
「ネジ。説明して」
圧が強い。
勿論説明するつもりだけど、お前待ちだったんだけどな。
「ゲランと婚約するの?なんで?俺と結婚するんだよね?どういうこと?浮気?」
ツッコミ所が多すぎる。
「お前と結婚はしない。だから浮気じゃないだろ」
「は?じゃあ、ゲランと結婚するの?殺す」
誰を?私を?
え、親の目の前でそんな事言う?
完全に狂気だし。
なのに、絶対冗談じゃない。目が据わってる。普通に怖い。
「……落ち着け。ゲランとも結婚しない」
ふるふると首を振ると、シフトは言質を取れて安心したのか、急ににこにこし始めた。
コイツ、情緒大丈夫か?
ぶんぶんと尻尾を振り回す忠犬よろしく、にっこにこで私を見てきた。
「だよね!良かった!ネジと結婚するのは俺だもんね!」
「………お前、私の話聞いてた?お前とも結婚しないが?」
話が伝わらなさ過ぎてびっくりする。
別にいつもの流れだけど。
父はシフトの変わりようにドン引きしている。
「シフト……ちょっと会わない間に随分狂ったな…」
「やだな、先生。俺は正常だけど?」
「じゃあボケたのか?それとも自己防衛がいき過ぎて脳味噌に言語化されないのか?」
「…?何言ってんの?ネジはゲランなんかと結婚しないって言ってるじゃん。つまり、俺と結婚するって事だよ?」
「違うが?」
思わず突っ込んでしまう。
何故ゲランと結婚しない=俺と結婚する、の理論になるのかわからない。
「お前達、恋人にでもなったのか?」
「うん!」
「違うが?」
ポンコツ具合が酷すぎる。
にこにこで笑うシフトと、首を横に振る私を見比べて父は首を傾げる。
それからくるりと母に振り返った。
「どっちなんだ?」
「さぁ?付き合ってないんじゃない?知らない」
機嫌が悪いのはまだ直らないらしい。
母は余計な話が始まって不機嫌極まりない様子で、口を開いた。
「っていうか、シフトも来たし、説明して。ゲランて誰?肉体関係があったわけ?」
「………は?」
母の言葉にシフトが低い低い声を出す。
父はピクリと眉を跳ね上げた。
「なにそれ?どういう事?誰と誰が?ネジなわけないよね?」
ジロリとシフトは私を睨む。
圧、強過ぎ。
「ねぇ…違うよね?俺、戦争始めちゃうかも」
「冗談に聞こえねぇな」
「ネジ、何言ってんの?1000%本気だけど?」
100%じゃないのか。1000%本気って、どういう事?
強火ストーカー過ぎてマジで怖いな。
「説明するから落ち着け」
ふー、と息を吐き出す。
椅子に腰掛けると、その両隣にシフトと父が座る。父のもう一つの横は母、シフトのもう一つの横はガイだ。それぞれストッパーがいて丁度いいだろう。
母はトントンと、コップに煙草の灰を落とした。短くなった煙草を机に押し付けて消す。
…灰皿は確かにないけど、柄悪すぎだな。
全員の視線が私に集まる。
父とシフトが来たから椅子が足りず、マックとコンテが立っていた。
マックは母の後ろに控え、コンテは部外者が来た時の為に、入口に控えていた。
普通に話せば聞こえると思う。
「…どこから話せばいいんだ…?」
時系列で行くか、全員が知りたい事から話す方がいいのか。
うーん、と首を傾げると父が口を開いた。
「まず状況を整理したい。お前には今、隣国のゲラン・アパタイトという人物、正式にはアパタイト家から婚約の申込が届いている。事実はこれだけだな?」
「うん」
「ふむ。では私の質問は、まずこのゲラン・アパタイトとは誰で、お前と面識があるのか。第2に、面識があるのなら、なぜ今婚約の申込がくるのか。第3に、何故肉体関係があるのかと聞かれているのか。また実際はどうなのか。そして最後に、お前はどうしたいのか。また第2の質問に付随するが、何か弱みを握られていて拒否したいのにできない理由があるか」
ぐるりと父は視線を一周させる。
どこからも何も追加の質問は出てこなかった。
時系列に話すより、父の質問に答えた方がよっぽど楽だし、分かりやすい。口を開きかけた私に首を振って父はシフトと母を見る。
「質問に答える前に一つだけ。シフト、ネジの話が終わるまで席を立たないこと。勿論君もだ」
父は横に座っている母にも視線を向ける。
母はジロリと父を睨み返した。
「何故?いつ立ち上がるかなんて私の自由よ」
「君とシフトがブチギレて怒りのまま王宮や隣国を攻撃してみろ。国際問題だし一気に戦争じゃないか」
「構わない。私にとって大事なのはネジ。国なんてどうでもいい」
魔術管理部門の部長の台詞じゃない。
しかも全然冗談じゃなさそうなのが余計怖い。シフトも茶化してこないで無言を貫く辺り、完全に同意している気がする。
「ダメだ。君はネジを戦争を起こした張本人として戦犯にしたいのか?」
ピク、と母の眉が跳ね上がる。
冷ややかに父を睨んだ。
「…いいわ。じゃ、ネジの話が終わるまではここにいる」
一度言葉を切って、母は灰皿にしていたコップとは違う、レモネードの入っていたコップを手に取る。ユリが注いでそのままになっていたそれを、一息で飲み干し、そのコップを握り潰した。
べコリと、コップの悲鳴じみた音がする。
「話が終わった後はどうなるか知らないけど」
飛び出して戦争が起こる気がしてならない。
母は潰したコップを無造作に机に放り投げる。
マッジで態度、悪…!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!




