↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/59

31


 「……ゲランって、なんで急に…」


 ユリが出してきた名前に、戸惑いが隠せない。

 その名前は、私が一番聞きたくない名前だ。

 今後の人生で聞くことはないと思っていた名前でもある。


 それが、何故ユリから出てくるのか。


 困惑と驚愕と、腹の底から湧き上がる嫌悪。

 ピタリと固まってしまう。

 ユリは私の様子に、尋常じゃないものを感じたのか、心配そうな目をしてみせた。


 「ねぇ、ちょっと?大丈夫?」


 そっと腕に手を当ててくる。

 心配してくれているのに。

 それはわかるのに、急に触れた手を思わず振り払ってしまう。

 

 「…え?」


 びっくりした顔でユリがこっちを見つめてくる。

 どうしたらいいのかわからない。

 その私達の間の空気を裂くように、明るい声が届いた。


 「おー。お疲れー」


 軽い調子の声はガイだ。

 ガサガサと袋の音もする。

 慣れた様子で、コンテと一緒にこの空間に入ってきた。


 コンテはマヤから『長老』なんて呼ばれてはいるが、魔術管理部門では実は一番年下で、まだ成人したばかりの18歳だった。

 人見知りで、都会に出てきたばかりで、ローブを頭から被って警戒しまくりのコンテを、ガイは何かと気にかけている。

 多分、元々の気質だろう。

 子供の時から、輪に入れない仲間を自然と中に引き入れるような所があった。

 かくいう私とシフトも、そのおかげであの子供同士の集団に入れたんだと思う。


 「差し入れ買ってきたから食えよー!」


 大声で遠くまで聞こえるように言う。

 机は私達のいるここにしかないから、当然そこに袋を置く。


 ガイの登場に、私とユリの会話は途絶えたし、あの微妙な空気感も霧散した。

 ユリはすぐに頭を切り替えて、袋の中を覗き込む。


 「あ、このドーナツ、最近流行ってるやつじゃない?」


 「そうなのか?」


 私は食べられるものなら何でもいい。

 味も、勿論美味しい方がいいけど、それしかないなら不味くてもイケる。

 だからドーナツの流行りなんか知らないけども。

 ユリの横から覗き込んだドーナツはシンプルそうな見た目だった。


 「…普通じゃん」


 どこにでもあるドーナツにしか見えない。

 

 「生地に高級な茶葉が練り込んであるらしいわよ」


 「ふぅん…。女子が好きそうだな」


 「あんたも女子でしょ」


 呆れた視線でユリがこっちを見てくる。

 ひょいと、袋からドーナツを出して、口に入れる。

 販売物だから、当然ながら、美味しい。

 紅茶の風味もわかる。

 でも高級かどうかは不明だ。


 「これ、高いの?」


 ガイに視線を向けるとガイは首を傾げた。


 「さぁ?…知り合いから貰ったやつ」


 にっこりと笑う。

 その笑顔の胡散臭いこと。


 「カツアゲ?」


 「人聞きの悪い事言うなよ。感謝の印に貰ったやつだし」


 「貢物じゃん」


 ニヤリとガイは笑う。

 否定してこない辺り、当たらずとも遠からずだろう。

 何かの見返りについでに貰った気がする。


 「ポテトもあるぞ。な、コンテ?」


 「う、うん。あの、ここにあるだ」


 コンテは持っていた袋からいそいそとポテトを取り出した。ガイは3つ目の袋から、使い捨てのコップと、手作り感満載の瓶に入った飲み物を出す。


 「これ、肉屋のおばちゃんが作ったレモネードだってさ」


 ガイのいう肉屋のおばちゃんは、多分私が思い浮かべた人物と一緒だと思う。

 よく街の子供達に何かを作って渡してくれた人だと思う。


 すっかりおやつの時間と化した机の上で、もぐもぐとドーナツとポテトを食べる。

 ユリはかいがいしく、使い捨てコップにレモネードを人数分注いでいた。

 こういう所がオカンなんだよな…。


 手元に置かれたコップからレモネードを飲む。毒は入ってはいないだろう。

 ガイのことだから、怪しいなら貰わないだろうし、多分皆に渡す前に毒味してると思う。


 ガイもユリが注いでくれたレモネードを口に持っていきながら、なんてことない様子で口を開いた。


 「…ネジさぁ、へその横と、胸にホクロある?」


 「………は?」


 何言ってんだ、コイツ。

 

 「セクハラじゃん」


 冷ややかな視線を向けると、何故かユリがレモネードにむせた。

 なんでお前が焦ってんだ。

 ユリにも冷ややかな視線を向けると、ユリはガイを睨んだ。


 「ちょっと!今ここで聞くことじゃないでしょ!?」


 「のんびりしてる場合じゃないだろ?」


 「だからって、こんな人目のある所で聞くことないでしょ!?」


 ばん、と机を叩いて立ち上がる。

 ぐい、とユリは私の腕を掴んだ。

 私も、今度は振り払わずになすがままにしている。


 「……なんなんだ、一体」


 急にホクロの位置を聞いてきたり、2人してバチバチしたりして。

 多分、私が関係しているんだろうけど、全然わからない。


 一息ついたのか、向こうから歩いてくるデリカとメインが顔を見合わせていた。



 「お前、ゲランとヤッたことあんの?」


 「………あ?」


 ガイの言葉に、自分でも驚くくらい低い声が出る。

 全身が総毛立つ。

 名前を聞くだけでも嫌なのに。


 「ガイ!止めて!」


 悲鳴のような声を上げるのは私じゃなくユリだ。

 そこには嫌悪と不安と、私への気遣いがある。

 ユリは私を無理に立たせてガイから隠すように前に立つ。

 その行動は、有難かったけれど。


 「……急だな?」


 ユリを横に退かせて、ジロリとガイを睨む。

 ガイはいつものヘラヘラとした笑顔を浮かべている。


 「お前のとこにはまだ何も伝わってないんだな?」


 「知らんな」


 「じゃあどうせ聞くから、俺が教えてやるよ」


 にっこりとガイは笑う。

 親切ぶって言っているけれど、そこに私を慮る気配はない。

 淡々と、今後を視野に入れているとしか思えない。


 「ゲラン・アパタイトがお前を嫁にするって触れ回ってる。5年前、自分達は恋人で、肉体関係もある。その証拠に、ホクロの位置も知ってるんだそうだ」


 笑みを崩す事もなく、ガイは私を見つめてくる。

 その他人事で、馬鹿にした調子でもあるのに、目の奥は笑っていない。


 「……で?実際どうなの?」


 答えによっては、今後に影響する。

 ガイには関係ないと突っぱねる訳にもいかない。

 ガイはこの事業に関わっているのだから、聞くのは当然の権利だし、悪い事はしていない。

 でもムカつく。


 ガイもゲランも、人の弱みにつけ込んで、本当に腹立たしかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。