27
魔術管理部門で職員全員と顔合わせをし、私とシフト、それに母と三つ編みメガネのメインがその場に残った。
他はそれぞれ個人の研究に戻ったらしい。
メインは魔術陣を主に研究しているらしく、腕輪の魔術陣をまじまじと眺めている。
「ネジさんは、魔術陣を部長から習ったんですか?」
メガネを押し上げて、メインは腕輪から私へと視線を移す。
「基本的なところだけな」
「はいはい。…わかります。この最短ルートで結果を出そうとする魔術陣……部長のものとそっくりです」
「そんなに人によって違うのか?」
魔術陣は基本の形がいくつかあって、それを元にそれぞれの魔術師達がアレンジしていく。
今回の白魔女の魔術陣も、基本の形をアレンジしたものだ。
「違いますね!そこが面白いんです!魔術陣はいわば料理と一緒です!基本の作り方は一緒なのに、人によって味が微妙に違うでしょう?あれと一緒なんです!ああ…!奥が深くて見る度深追いしたくなる…!それが魔術陣…!」
宗教の信者みたいだ。
腕輪と一緒に持ってきた魔術陣を書いた紙を高く上げながら拝む勢いで見つめている。
うん。コイツも狂人だな。
「メイン、これ、書けるわね?」
「勿論です!ああ…楽しみ過ぎて……!ヨダレ出そうです…!」
「汚いからやめなさい」
比喩でなく本当に口を拭うメインを冷ややかに嗜めて、母は私を見る。
「魔術テストは順次やっていくわ。まずは王都からね。…で、この腕輪だけど、ガイにも書かせてるのよね?ここでメインと一緒にやらせなさい。効率化よ。ついでにユリも連れてきて。人員確保。その間にあんたは核部分に魔力を込めていきなさい。で、組み立ては騎士団がやりなさい」
「は?ここでやらないの?」
急に騎士団にふられてシフトが面食らう。
それににっこりと母は頷いた。
「だって自分達で使うんでしょ?やりなさいよ。…私達、魔術管理部門はねぇ、魔術陣を描くので忙しいの。8人しかいないんだから!組み立てなんて騎士団の脳筋連中でもできるでしょ?」
「…別に作るのはいいけど。でもネジ達はここにいなくても、家でいいじゃん。っていうか、家にそのままいるって言ってたじゃん」
「通えばいいでしょ。私の所じゃなくて、あの家を選んだっていうのは、住む場所の話であって働く場所の話じゃなかったわよね?」
「えぇ……なにその後出しジャンケンみたいな理屈…」
シフトは心底嫌そうな顔をする。
「通える距離なんだからいいでしょ?寧ろ好都合じゃない。ネジと毎朝王城に通えて、自分のものだって内外にアピールできる絶好のチャンスよ?私に感謝しなさいよね?」
「それはそうだけど…」
ニヤリとしたり顔で笑う母に対してシフトは不満げだ。
っていうか、そもそも。
「お前のものじゃないがな」
ジロリとシフトを睨むと、可哀想なものを見る目で見てきた。
「やだなぁ…。もう今日の時点で噂は駆け回ってるよ?俺がわざわざ王宮の門までお出迎えしてあんなに尻尾振ってネジの横を歩いたんだよ?今頃王宮だけじゃなくて、王都の庶民にも届いてる可能性だってあるんだよ?」
「……お前のその腹黒いとこ、本っ当に腹立つな」
「怒った顔も可愛いよ、ネジ」
にっこりと笑うシフトの足を踵で踏んづける。でもシフトは別に痛くも痒くもないのか、それすら嬉しそうだ。
「ストーカーめ」
冷ややかに告げると、シフトは首を横に振った。
「ストーカーじゃないよ?こんなに堂々としたストーカーなんていないだろ?これは愛だから。ね?」
何が『ね?』なのかわからない。
ドン引きしていると、魔術陣をうっとりと眺めていたメインが私とシフトを見比べる。
「お二人は恋人同士なんですか?」
「そうだけど?」
「違うが?」
食い気味に頷くシフトに負けないように、間髪入れずに首を振る。
メインはどちらの言うことが正しいのか、よくわからないだろう。
でもにっこりと笑った。
「そうなんですね!どっちにしても素敵ですね!」
何が?どこが?なんで?
ジロリとメインを睨むが、メインは全く気づいていない。
にこやかな笑顔を向けられて、メインはまた魔術陣へと視線を移した。
「あんた達……何にも成長してないわね…。全く。とにかくそういう事だから!明日からガイとユリも連れて来なさいよ?」
ガイとユリの返事も聞いていないのに、母の中では既に決定事項らしい。
ユリはともかく、レジスタンスのガイが大人しく来るか、不安は残るけれど、とりあえず私とシフトはこの場を後にした。
王宮は広い。
魔術管理部門に行くまではあまり人に会わなかったのに、帰る時には噂の効果なのか、チラホラと人がいた。
それも貴族令嬢。
明らかにシフトと私の様子を伺っている。
その遠回しに盗み見る態度に不快感しかない。
「言いたいことがあるなら言えばいいのに」
別に聞こえてもいいから、小声でなんて言わない。
思ったより響いた声に、令嬢達がヒソヒソと声を潜めて囁き合う。
その態度は私には陰湿にしか映らない。
「ほらね?噂ってすぐに広がるよね」
「お前のせいだけどな?」
ジロリとシフトを睨む。
シフトは全く気にせず、忠犬のようにニコニコとしている。
多分門にいた時の態度からして、シフトは普段なら一部の隙もない冷淡な態度なんだろう。
それが、私にだけこんなにニコニコしていたら、そりゃあ、噂も駆け回る。
それを計算ずくでやる辺り、本当に腹黒い。
「シフト!」
ジロリと睨んでいると、背後から少女の高い声がする。
聞いたことのない声に振り返ると、貴族令嬢であろう少女が駆け寄ってきた。
淡い紫のドレスローブに、亜麻色の髪。
零れ落ちそうな胸と、瞳が大きい。
可愛らしい顔立ちと凹凸感のある身体がチグハグで、男性から人気がありそうな女の子だった。
「サラ」
「………は?」
シフトの態度は、今までと違う。
『シフト』『サラ』なんて名前で呼び合うような、それも敵意でなく、どちらかと言えば親しみがこもっている。
そのことに、自分でも引くくらい驚いた。
「シフト!久しぶり……キャッ」
彼女はドレスローブに引っかかってシフトに向かって倒れ込む。
シフトは危なげなくそれを受け止める。
それはまるで、どこぞの恋愛小説のようだ。
彼女はシフトに抱きとめて貰って、嬉しそうに笑う。それから、にっこりと私に向かって笑った。
その笑顔に、特大のマウントが入っている。
「ごめんね。ありがとう。……あの、初めまして。わたくし、キングスレー侯爵家の長女、サラと申します」
シフトの胸に手を当てて体勢を立て直し、サラはすぐにシフトから離れる。
そのベタベタしない態度は、シフトの事をよく知っている。
嫌われないように、でもしっかり女としての匂いをつけている気がする。
「シフトと一緒に白魔女様がいるって聞いて…。ご挨拶したくて急いで参りましたの」
うふふ、と口元に手を当てる。
お上品なその姿は、自分の魅せ方をわかっている。
「お会いできて光栄ですわ」
「…………どうも」
自分でも驚く程、そっけない態度になった。
「…サラ。用事はもう済んだろ?」
「まぁ!わたくしだって、もう少し白魔女様とお話したいわ!ね、いいでしょ?」
甘えるようにシフトに向かって首を傾げる。
私と話したいんなら、聞くのは私じゃないか?ここでシフトに聞く辺り、なかなかの策士だと思う。
「私は話すことはないな。…帰る」
目的は私じゃなくシフトだろう。
それがわかっているから、くるりと踵を返す。
「…シフト。帰るぞ」
首だけで振り返ると、シフトはピクリと身動きする。
それから物凄く嬉しそうにこちらに近寄ってきた。
「え?あ、待って」
シフトを引き留めようと、彼女の手が伸びる。シフトはそれに捕まる前に私の側に駆け寄ってきた。
嬉しそうなその顔がムカつく。
「他人から餌を貰うな。駄犬」
「うん!ネジだけ!」
元気よく、機嫌良く頷く。
その顔もムカつく。
「ふん。帰るぞ」
シフトの耳を引っ張って歩き出す。
シフトは大人しく、それはそれは嬉しそうについてきた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!




