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 今朝連れ立って屋敷を出て行ったガイとユリは夕方に帰ってきた。

 昼前には帰ってくるのかと思っていたのに、案外遅いと思っていたら、手を繋いでイチャイチャしながら帰ってきた。

 

 その手のひら返しに、驚きを通り越して呆れてしまう。

 

 「そういう好きじゃないって言ってたのに。一緒にいるの虚しいって言ってたのに」


 謎過ぎる。

 冷めた目で2人を見ると、ガイが相変わらずヘラヘラして言った。


 「男女のアレコレだろ。………ネジにはまだ難しいよな…」


 からかっているというよりは、憐憫の言い方だ。

 普通にムカつく。


 「っていうか、聞いたぞ。お前、魔術管理部門は反則だろ?」


 「どこがだ。コネも立派な戦術だろ」


 「そっちじゃねぇ。お前の母ちゃん、嬉々として掻き回すタイプじゃん」


 言えてる。その通りだ。

 多分、色恋の云々なんか聞いたらノリノリで掻き回す。それもユリとガイを心配してるからじゃなく、ただ面白そうだからやるに決まってる。

 自分の母親だけど、愉快犯だから。


 ガイは同じ街に暮らしていたから、当然母とは顔見知りだ。

 シフトと一緒にいる時に母はガイもついでに小間使いにさせていたりした。

 

 「ああ…あの人、そういう感じよね…」


 ユリも遠い目をしている。

 ユリも私に攻撃しに来ていたりしたから、その時に母とは会っている。もっと言えば小さい時から母とユリは知り合いだ。

 私はユリの両親はよく知らないが、母はもともとユリの両親と昔馴染みの関係らしく、母だけユリの家に行ったりしていたから。


 「ユリも知ってんの?」


 「うん。両親と大人だけで何度か話してた。あたしは上に行かされてたから何の話かは知らないけど」


 ガイはユリが私の母を知っていることに意外そうな顔をする。


 「へぇ。あの人、友達とかいたんだな」


 「友達じゃないと思うわ。いつも喧嘩してたもの」


 人の家で何してたんだろう。

 我が母ながら、喧嘩っ早いなぁとしみじみしてしまう。


 「ふーん……まぁいいや。あのババアよりユリの方が重要だし」


 「手のひら返し過ぎじゃないか?」


 あんなにユリに興味ありません、みたいな感じ出しといて。この変わりよう。


 「まぁギスギスするよりいいか。…お前ら、人の家であんまりイチャイチャするなよ?」


 じろりとガイを睨む。

 お前らとは言いつつも、多分ユリから仕掛けることもないだろうから、主にガイに向けて言う。ガイはチラリとユリを見て、ニヤリと笑った。


 「鋭意努力するよ」


 「当てにならんな」


 赤くなって顔を反らすユリと機嫌の良さそうなガイを鼻で笑って、席を立つ。


 「私はしばらく部屋に籠るからな。邪魔するなよ!」


 「へいへい」


 ガイは苦笑して頷いていた。









 翌日の昼、母さんはシフトと一緒に帰ってきた。

 その手に沢山の紙袋を持って。


 「ただーいまぁ」


 ドアをバタンと開けて、それは楽しそうに、ご機嫌に帰ってきた。

 まぁ、機嫌が悪いよりは百倍いい。


 母は当然のように床を歩く。

 そして私のカラクリが母に向かう。

 今回は催涙スプレーが噴射される仕掛けだったらしい。

 天井から吊るされた催涙スプレーが母に向かってシューッと音を立てる。

 普通の人なら確実にかかると思うのだけど、母は何事もないようにスプレーを通り抜ける。

 避ける必要さえないとでもいうように。

 その堂々とした姿は、流石、自称この国一番の魔女といえるだろう。


 「…おかえり」


 別に本当に私のカラクリの餌食になるとは思っていない。母は一度も私のカラクリには引っかかった事がない。

 それはカラクリを回避しているからじゃなく、カラクリの攻撃を跳ね返しているからだ。

 無詠唱で、カラクリの被害を受けない鉄壁のバリア。

 全ての攻撃を跳ね返すようなそれは、強過ぎる魔力そのものだ。

 母は常時魔力を全身に身に纏い、バリアのように薄い膜を作っている。攻撃の為のバリアじゃないから危害を加えることはないが、逆に加えられる事もない。

 その圧倒的な魔力量と、魔術技能。

 これが、魔術管理部門の最高責任者の実力。


 「ネジ!ねぇ、これ見て!」


 後からついてきたシフトの手から紙袋をひったくり、母はそれを机にぶち撒ける。

 色とりどりの紙袋が、ただでさえ整頓されていない机に散らばり、机の上は一気に賑やかだ。


 「ね、ね、これ素敵じゃない?」


 「ふぅん」


 「なぁに、その言い方は?あんたに買ってきたのよ?」


 「えぇ…」


 いらねぇーーーーー!

 母が出したのは美しい赤い宝石のついたネックレスだ。

 装飾も華やかで、それはもう高そうで、派手。

 素敵は素敵なんだろうけど、全く欲しくない。そのお金があるなら現金か食物でもらった方がよっぽど嬉しい。


 「私より母さんの方が似合うよ」


 「ええー!…そりゃ、私は似合うわよ?この美貌だもの。…でも、娘にも着飾ってほしい親心じゃない」


 家に引きこもってる白魔女に、どこに着飾る必要があるんだ。

 家と村しか出ないのに。


 「……シフト、なんで止めないんだ」


 私と同じように冷ややかに母を見つめているシフトに呆れた視線を向ける。

 シフトは私に同意するように頷いた。


 「そうだよね、ネジはこんなの好きじゃないよね。…ほら、言ったじゃん。ネジはこっちの方がいいって」


 「こっち…?」


 シフトはにっこり笑って私に別の紙袋から違うネックレスを出してきた。

 こちらも赤い宝石がついているけれど、母のデザインよりは控えめだ。

 でも宝石が母のものより大きい。うん、これも高そうだな。


 「えぇー?ネジ、私のやつの方が素敵でしょ?」


 「俺のだよね?」


 グイグイと迫ってくるネックレスを眺めて、2人を見て、つい顔を顰めてしまう。


 「どっちも要らん」


 そんなものより明日のパンの方がいい。

 

 「どっちも自分で使え」


 「えぇ…俺、要らない」


 自分が要らないものを買ってくるな。

 明らかに女物のネックレスを確かにシフトがつけるわけにはいかないだろう。


 「要らなきゃ誰かにプレゼントでもすればいいだろ。気に入った女の子の一人や二人いるだろ?」


 「ネジ。ネジしか気に入った女の子はいない」


 「私以外にしろ。ストーカー」


 ジロリとシフトを睨む。

 シフトは軽くため息をつきながら私の隣の椅子を引く。そこに当然のように腰掛けたのは母だ。


 「えっ…俺の席なのに…」


 「何言ってんの?この家は私の家よ?あんたの席は私のものでしょ?」


 足を組んで母はシフトにキッチンを示す。


 「お師匠様に紅茶の一つでも入れてらっしゃい」


 「私にも頼む」


 「えぇ…」


 シフトは母の傍若無人ぶりに呆れつつも、ぶつぶつ言いながらキッチンに向かっていった。

 その姿は、5年前と同じだった。

 ただ身体はデカくなったし、ムキムキにもなったけど。


 「ねぇ、アイツ、まだストーカーなの?」


 母はシフトの背を眺めつつ、私に聞いてくる。否定することがないから素直に頷いた。


 「はぁー!?……ほんっとに、意気地のない…」


 はぁー…ともう一度深いため息をついて、母は額に手を当てる。

 剣呑な視線でシフトが持ってきたネックレスを見つめ、徐にそれを手にする。


 「全く…」


 苛ついたように呟くと、その手からネックレスがパチンと消えた。

 まるで手品だ。

 ただこれは勿論母の魔術で、ネックレスを別の場所に移動したにすぎない。


 「ついでに他の荷物もやってよ」


 「嫌よ。自分でやりなさい」


 「ケチ」


 物質を移動するくらい朝飯前のくせに。

 母は基本的に、自分の為にならない事はしない。それが一人娘のお願いであったとしても。


 「…そんな事より、白魔女の魔法陣があるでしょ?見せて」


 母は手を差し出す。

 その顔は調子が良くて傍若無人の母親のものではなく、魔術管理部門の長の顔だ。

 一瞬で変わった空気に私もつられて背筋を伸ばす。

 机の上に出ていた魔術陣を書いた紙を手渡す。

 母はそれをじっくりと眺めてから、その魔術陣に手を翳した。


 「…なるほどね。…確かに、これじゃ反応しないわね」


 「うん。白魔女用だからな」


 「シフトとユリも試したんでしょ?ガイもやったのよね?で、あんた以外は誰も反応しなかった。ここまであってるわね?」


 「そう」


 白魔女に魔力があると説明した後にシフトとユリにも一応この魔法陣を試していた。

 母の言う通り、私以外には今のところ誰も反応していない。


 「あんたの仮説では、通常の魔術師と、魔力のない一般人、そしてあんた、白魔女の3種類がいるのよね?で、白魔女は1を0にする特殊な魔力」


 「被験者が少な過ぎて仮説の域を出ないけどな」


 「それはいいわ。……でも、多分あんたの仮説、間違ってなさそうよね」


 顎に手を添えて考え込むように母は魔術陣を見つめる。


 「まずは一般人にこの魔法陣を試してもらう必要があるわね。ガイがたまたま魔力がなかっただけで、他に白魔女がいるのか不確か過ぎる。それから、この魔法陣があんたにしか反応しないなら、あの魔力封じの腕輪、いよいよ危険になってくるわね…」


 魔力封じの腕輪は魔術管理部門に卸す予定だけど、そもそも魔力封じの腕輪が私にしかつくれないなら、大元を叩けば終わる。

 それは魔力封じの腕輪と私が、なくなれば今まで通りということになる。

 一般人との戦争は起こらないけど、代わりに私が狙われることになる。

 それは魔力封じの腕輪ができた時から考えていたことだ。


 「……あんた、私の所に来る?」


 この家にいるより母の側の方が安心かはわからない。

 母は忙しい。当然四六時中一緒にいることはないし、それなら母一人に負担がかかるより、シフトがストーカーしていて、ガイとユリがいるこの家の方が人の目も多いだろう。

 

 「…私が魔術管理部門にいるのと、この家にいるの、どっちが安全だと思う?」


 母が人の目があるより、私を側に置く方が安全だと判断したのなら、それに従うつもりだ。

 じっと母を見つめる。

 母は思い悩むように何度か首を捻っている。


 「ここにいればいい」


 カチャリと目の前に紅茶が置かれる。

 私の背後から腕を伸ばして紅茶を置いたシフトの声はいつもより低い。


 「ここなら俺がネジを守れる。魔術管理部門じゃ、すぐに手が出せない」


 騎士団と魔術管理部門の仲はあまり良くないとは噂ながらに聞いている。

 それぞれのトップが師弟関係にあったとしても、それだけで他の人間まで仲良くなるとは限らない。

 母はシフトが置いたカップに口をつけて、紅茶を一口飲んでから、冷ややかにシフトを見上げた。


 「…お前が守るより、私の側にいた方が安全だと思わない?」


 「思わない。師匠は信用してるけど、他の職員を俺は信用してない」


 「結構なことね。そのままブーメランで返せるわよ?」


 「ここは騎士団じゃない。騎士団を信用できなくても、ガイとユリなら師匠だって信用できるはずだ」


 「…………ほぉーん…」


 母はシフトを興味深そうに見つめ返した。

 それは弟子を心配した師匠が、その変化に感心したようにも見える。


 「ガイとユリなら信用できる、ねぇ…。あんたも、ちょっとは大人になったじゃないの」


 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて母はシフトを眺めると、もう一度紅茶を飲んだ。


 「あんた、ガイとユリは信用できるわけね?」


 「えっ…」


 「なぁに?できないの?自分はできないのに、私にだけあの2人を信用しろって言ってるの?」


 「うっ…」


 シフトは痛い所を突かれたのか、ぎくりと身じろぎした。


 「あんたが、あの2人を信用してるから、自分の顔を立ててどうしても、ネジをこのままこの家に置きたいって言うんなら、私もやぶさかじゃないわよ?」


 性格悪いなー…。

 ニヤリと笑う母を思わず感心して眺めてしまう。

 ガイだけならまだしも、魔術師のユリを騎士団のシフトが信用しているとは立場上なかなか言えないだろう。まぁ実際に信用しているかも怪しいところではあるけど。

 でもシフトとしては、ガイがいればユリはおかしな事は犯さないだろうという、ユリというよりガイへの信頼だと思う。

 ガイとは長い付き合いで、それなりに親しい仲でも、ユリはお互い嫌い合っていて、あまり会話もない。

 それを信用とは、無理がある。


 「………ガイは、信用できる」


 「ほぉー…ユリは?」


 そりゃそう聞くよな。

 嘘をついてユリも信用してると言ったところで、母にはわかってしまうだろう。

 それ程に、一緒に暮らした5年間は濃くて長い。


 「…正直、ユリはわからない。ユリ自身はその気がなくても、利用される可能性は高い」


 ユリはまだ十代だ。

 未熟さはそのまま、危うさに繋がっている。


 「でもネジへの敵意は感じていないし、ガイや俺だけじゃカバーできない部分も、同性のユリならできると思う。…利用されないようにガイが気をつければいいと思うし」


 「他人に責任を押し付けるのは感心しないわ」


 「…わかってる。ガイでもユリでも、何かあったら責任は俺が取る。……から、ネジはここでいいよね?」


 「…………まぁー…。あんた、どこでそんなあざとい技まで覚えてきたわけ?」


 腰を屈めて、シフトは母を下から見上げてみせる。顔はイケメンの上目遣い。

 確かにあざとい。

 それを母に向かってするその図太さに、母同様私も呆れてしまう。


 「騎士団でそのあざとさが身に付くなら、貴族令嬢も真っ青ね」


 ぐにぃと、シフトの頬をつねり、母はシフトから私へと視線を移す。


 「…あんたに任せるわ。どっちでもいい。自分で選びなさい」


 「じゃあこのままでいいよ。引越準備なんて面倒くさい」


 「…嘘でしょ?ここで面倒くさいっていう?師匠と弟弟子がこんなバチバチにあんたの安全圏について言い合ってるのに?………あんたも、情緒ないわねぇー…」


 有り難いとは思う。

 でもぶっちゃけ、私の意思を置き去りにし過ぎていた会話だとも思うのだけど。


 「あんたねぇ、これ、普通の女の子なら、『私のために…』キュンってなるとこよ?」


 「全くならないが?」


 「シフトも意気地なしだけど、あんたも大概よねー…。なぁんでこんなに乙女心ないのかしら…」


 「母親の腹の中に忘れてきたんじゃないか?」


 「そもそも神様が入れ忘れたのよ」


 ベチンと私の額にデコピンして母は紅茶を飲む。母から頬を解放されたシフトは私に向かってにっこりと笑った。


 「ネジ!ここに残るってことは俺を選んだってことだよね?ね?だから結婚しよ?」


 「…………お前、私と母さんの会話聞いてた?」


 頭おかしいな…。

 引越が面倒くさいからここに居るって言ってたよな?

 情緒と乙女心云々の会話、聞こえない?

 この距離で?

 最早、ボケ老人では……?


 「お前の理論、マジでおかしい。…病院行った方がいいんじゃね?」


 「え?心配してくれてるの?」


 「嫌味だよ、馬鹿」


 なんなんだ、そのきゅるきゅるした顔は。

 嫌味すら通じない、その精神力だけはいっそ尊敬できるのかもしれない…。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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