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 翌日は綺麗に晴れた。

 雨のジメジメした天気より、気持ちがカラッとしていていい。

 振られても、雨に濡れて余計に落ち込まずに済むし。


 お気に入りの洋服、とは言っても急に一ヶ月もいることになったから、急遽買ったものばかりだけど、そのぱっきりとした明るい赤のストライプのワンピースに袖を通す。

 ワンピースに合わせて今日はポニーテールにした。

 昨日のミモザさんを見たからじゃないけど、少しは影響されていると思う。

 可愛いより、爽やかの方が、好きなのかもしれない。

 だから、振られにいくけど、ちょっとでも残念がって悔しがればいいのに、とは思う。


 ドアを開けると、ガイはドアの横の壁に寄りかかって待っていた。


 「…早いのね」


 「女の子を待たすのは悪いからね」


 にっこりと笑う。その慣れた態度に、傷つくよりはムカつく。


 「荷物、これだけ?」


 当然のようにバッグを奪う。

 その女の子に気を使わせないちょっと乱暴な仕草一つで、手慣れてるな、と感心してしまう。指一本触れないのに、この余裕と、彼氏感。

 どんだけ遊んだらこんな感じになるのか、なんだかいっそ呆れてしまう。


 「はー…悪い男に引っかかったもんよね…」


 「ああ、ユリ男運ないもんね」


 「アンタ、よく自分で言えるわね…」


 この図々しさ。

 普通の人間なら弁解するところだろうに。

 悪びれもしないこの態度。

 ガイは同情したようにあたしを見てきた。


 「俺は性格悪いからね。他の男の方が優しいんじゃね?」


 「本当に最低」


 いちいち一線引いてこないで。

 じろりとガイを睨むと、いつものヘラヘラした笑顔で階段を示した。


 「そう。俺は最低の男だよ。…さて、行くか」


 手を繋ぐことはない。

 優しく慰めてくれることもない。

 酷い男だとはわかってるのに、どうしても嫌いになれない。

 スタスタと歩き出してしまうガイの後を、ため息をつきながら歩き出した。







 美術館は人が少なかった。

 今日は休日ではないから、まばらな館内で動きやすい。

 ガラスの工芸品は一番奥の展示室で、そこまでは通常の展示がしてある。

 綺麗な風景画や、人物画ならいい。

 でもよくわからない抽象画はあたしには難しかった。ガイはすぐに飽きるかと思っていたけど、意外と面白そうに展示を見ていた。


 奥の展示室はガラスの光を反映するように、少し薄暗くなっている。

 そこに、色とりどりのガラスの工芸品が置いてあって、その一つ一つが、キラキラ輝いている。美術品だといえるだけある、その美しい展示室には、ちょうど誰もいなかった。

 多分、今だけだろう。

 あたし達の後からは年配のご夫婦が展示を見て回っていたから、そのうちここにも来るだろう。


 「…綺麗」


 一際目を引く、中心に置いてある赤いガラスの工芸品は、大きな壺の形をしている。

 その艶やかな赤は、ネジの瞳を思い出させた。


 「なんか…どっかの誰かを思い出すな」


 ガイもネジを思い浮かべているのか、ニヤリとあたしに笑ってみせる。


 「そうね。この激しい赤、大魔王の封印の壺みたい」


 「いやー…うちの大魔王はこんなの即爆破しちゃうからなぁ…」


 「やりそう」


 ガイの呆れた視線に、思わず笑ってしまう。

 軽い調子で笑いあえて良かった。

 この後フラれる予定で告白するから、ちょっとでも楽しい思い出ができてホッとした。


 展示室に向かって歩いてくる足音と老夫婦の話し声がする。

 それに押し出されるように展示室を出る。


 美術館の中をもう一度さらりと見ながら出入り口に向かう。

 このガラスの美術展しか誘っていないから、この後は解散かもしれない。

 そうなる前に、どこかでゆっくり話せる場所がないか考える。

 でもあたしはこの街にあまり詳しくないから、すぐに他の所は思い浮かばなかった。


 「結構面白かった。美術館なんて滅多に来ないから新鮮だったな」


 ガイは満足そうに笑う。

 単純に美術館を楽しんだようで何よりだ。


 「じゃ、帰るかー。ネジも昼メシないって怒ってるだろうし」


 「え…」


 どうしよう。なんて引き止めればいいのだろう。

 経験が少な過ぎて、どうしたらいいのかわからない。


 引き止めたくて思わず伸ばした手を、ガイではない別の人間が掴む。


 「は?」


 「お前、浮気だぞ!」


 「えぇ…」


 なんでこのタイミングで来るの…?

 本当に、コイツ、ムリ。


 現れたのはロウだった。

 いや、帰ったんじゃなかった?この前ガイに凄まれて超ビビってたじゃん。

 ホントなに…?


 「いや、浮気って…別にアンタと恋人じゃないから」


 婚約者ではあるけど。

 

 「なっ…!お前!僕達は婚約者だぞ!」


 「形だけでしょ」


 愛も恋もない。

 今までは別に他に好きな人もいなかったし、嫌いだけど、形だけの婚約者でも構わなかった。

 だけど、ガイへの気持ちを理解した今、コイツと婚約者でいるのはムリ。

 両親には婚約破棄したい旨の手紙を送ってあるけど、それを読んだのかすらまだわからない。


 「形だけでも浮気だからな!婚約破棄だ!」


 大声で喚くロウを街の人々が通り過ぎながら見ていく。

 恥ずかしいから止めてほしい。


 「ぜひ。喜んで破棄します」


 「なっ…」


 なんで驚いてるの、コイツ。

 自分で言ったのに。

 っていうか、いい加減、手を離してほしい。そう思って手を引こうとすると、ロウは掴んでいた手に力を込めた。


 「ちょっと、離してよ」


 「い、嫌だ!」


 「はぁ!?」


 なんで?なんなのコイツ。

 戸惑いつつ、もう一度手を払おうとする。

 でもこんなでもロウは一応男だ。

 力では敵わなくて引き寄せられそうになる。

 それはカートに拉致監禁された時を思い出す。あの絶対的に敵わなくて、相手にいいようにされる恐怖。

 怖くて、思わず固まってしまう。

 びくりと、固まったあたしを、いつかのようにガイが後から抱き込んだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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