22
翌日は綺麗に晴れた。
雨のジメジメした天気より、気持ちがカラッとしていていい。
振られても、雨に濡れて余計に落ち込まずに済むし。
お気に入りの洋服、とは言っても急に一ヶ月もいることになったから、急遽買ったものばかりだけど、そのぱっきりとした明るい赤のストライプのワンピースに袖を通す。
ワンピースに合わせて今日はポニーテールにした。
昨日のミモザさんを見たからじゃないけど、少しは影響されていると思う。
可愛いより、爽やかの方が、好きなのかもしれない。
だから、振られにいくけど、ちょっとでも残念がって悔しがればいいのに、とは思う。
ドアを開けると、ガイはドアの横の壁に寄りかかって待っていた。
「…早いのね」
「女の子を待たすのは悪いからね」
にっこりと笑う。その慣れた態度に、傷つくよりはムカつく。
「荷物、これだけ?」
当然のようにバッグを奪う。
その女の子に気を使わせないちょっと乱暴な仕草一つで、手慣れてるな、と感心してしまう。指一本触れないのに、この余裕と、彼氏感。
どんだけ遊んだらこんな感じになるのか、なんだかいっそ呆れてしまう。
「はー…悪い男に引っかかったもんよね…」
「ああ、ユリ男運ないもんね」
「アンタ、よく自分で言えるわね…」
この図々しさ。
普通の人間なら弁解するところだろうに。
悪びれもしないこの態度。
ガイは同情したようにあたしを見てきた。
「俺は性格悪いからね。他の男の方が優しいんじゃね?」
「本当に最低」
いちいち一線引いてこないで。
じろりとガイを睨むと、いつものヘラヘラした笑顔で階段を示した。
「そう。俺は最低の男だよ。…さて、行くか」
手を繋ぐことはない。
優しく慰めてくれることもない。
酷い男だとはわかってるのに、どうしても嫌いになれない。
スタスタと歩き出してしまうガイの後を、ため息をつきながら歩き出した。
美術館は人が少なかった。
今日は休日ではないから、まばらな館内で動きやすい。
ガラスの工芸品は一番奥の展示室で、そこまでは通常の展示がしてある。
綺麗な風景画や、人物画ならいい。
でもよくわからない抽象画はあたしには難しかった。ガイはすぐに飽きるかと思っていたけど、意外と面白そうに展示を見ていた。
奥の展示室はガラスの光を反映するように、少し薄暗くなっている。
そこに、色とりどりのガラスの工芸品が置いてあって、その一つ一つが、キラキラ輝いている。美術品だといえるだけある、その美しい展示室には、ちょうど誰もいなかった。
多分、今だけだろう。
あたし達の後からは年配のご夫婦が展示を見て回っていたから、そのうちここにも来るだろう。
「…綺麗」
一際目を引く、中心に置いてある赤いガラスの工芸品は、大きな壺の形をしている。
その艶やかな赤は、ネジの瞳を思い出させた。
「なんか…どっかの誰かを思い出すな」
ガイもネジを思い浮かべているのか、ニヤリとあたしに笑ってみせる。
「そうね。この激しい赤、大魔王の封印の壺みたい」
「いやー…うちの大魔王はこんなの即爆破しちゃうからなぁ…」
「やりそう」
ガイの呆れた視線に、思わず笑ってしまう。
軽い調子で笑いあえて良かった。
この後フラれる予定で告白するから、ちょっとでも楽しい思い出ができてホッとした。
展示室に向かって歩いてくる足音と老夫婦の話し声がする。
それに押し出されるように展示室を出る。
美術館の中をもう一度さらりと見ながら出入り口に向かう。
このガラスの美術展しか誘っていないから、この後は解散かもしれない。
そうなる前に、どこかでゆっくり話せる場所がないか考える。
でもあたしはこの街にあまり詳しくないから、すぐに他の所は思い浮かばなかった。
「結構面白かった。美術館なんて滅多に来ないから新鮮だったな」
ガイは満足そうに笑う。
単純に美術館を楽しんだようで何よりだ。
「じゃ、帰るかー。ネジも昼メシないって怒ってるだろうし」
「え…」
どうしよう。なんて引き止めればいいのだろう。
経験が少な過ぎて、どうしたらいいのかわからない。
引き止めたくて思わず伸ばした手を、ガイではない別の人間が掴む。
「は?」
「お前、浮気だぞ!」
「えぇ…」
なんでこのタイミングで来るの…?
本当に、コイツ、ムリ。
現れたのはロウだった。
いや、帰ったんじゃなかった?この前ガイに凄まれて超ビビってたじゃん。
ホントなに…?
「いや、浮気って…別にアンタと恋人じゃないから」
婚約者ではあるけど。
「なっ…!お前!僕達は婚約者だぞ!」
「形だけでしょ」
愛も恋もない。
今までは別に他に好きな人もいなかったし、嫌いだけど、形だけの婚約者でも構わなかった。
だけど、ガイへの気持ちを理解した今、コイツと婚約者でいるのはムリ。
両親には婚約破棄したい旨の手紙を送ってあるけど、それを読んだのかすらまだわからない。
「形だけでも浮気だからな!婚約破棄だ!」
大声で喚くロウを街の人々が通り過ぎながら見ていく。
恥ずかしいから止めてほしい。
「ぜひ。喜んで破棄します」
「なっ…」
なんで驚いてるの、コイツ。
自分で言ったのに。
っていうか、いい加減、手を離してほしい。そう思って手を引こうとすると、ロウは掴んでいた手に力を込めた。
「ちょっと、離してよ」
「い、嫌だ!」
「はぁ!?」
なんで?なんなのコイツ。
戸惑いつつ、もう一度手を払おうとする。
でもこんなでもロウは一応男だ。
力では敵わなくて引き寄せられそうになる。
それはカートに拉致監禁された時を思い出す。あの絶対的に敵わなくて、相手にいいようにされる恐怖。
怖くて、思わず固まってしまう。
びくりと、固まったあたしを、いつかのようにガイが後から抱き込んだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!




