↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

21


 魔術管理部門への就職斡旋は、正直めちゃくちゃ魅力的だった。

 気持ちとしては、7:3、いやもしかしたら8:2くらいで就職に傾いている。

 ガイは、偽装恋人のフリを完璧にこなしてると思う。

 指一本触れるなと、そういったのを忠実に守って、触れ合うことはない。

 あの拉致監禁されるまでの方が多分触れ合っていた。

 といっても甘やかな空気で触れ合ったのはあの日だけだ。ロウから守ってくれるように後から抱き締められたのも、慰めるように頭を撫でられたのも、あの日だけ。

 その一日だけを、心の支えにしてこれからを生きていくことは不可能だと思う。

 早く忘れて、別の人を好きになる方が多分、建設的だ。

 もっと言えば、ロウを好きになれれば、一番丸く収まるとは思うけど、それは生理的に無理だった。

 偽装恋人とはいっても、特に何をするでもない。

 今まで通り、普通に屋敷で過ごすだけだ。

 ただ、外を歩く時は、ガイが必ず一緒に来たし、それが買い物とかなら、荷物を持ってくれたりするようにはなった。

 優しく笑われて、表向きは初々しいカップルに見えていると思う。

 あたしはガイのその行動に、物凄くムカついて、上手く笑えないこともあるけど、それすらガイが上手くフォローしていた。


 そんな3日間を過ごして、もういいかな、と思えるようになってきた。


 ガイは一線を引いたままだし、あたしもその一線を越える事はできないでいる。

 優しく笑われて、ときめくのに、辛い。

 これが長く続くより、就職した方が精神的に安定しそうだ。

 

 だから、ちゃんと振られておいた方がいい。

 気持ちにケジメをつける為には、それが一番手っ取り早いだろう。

 あたしは、多分泣くけど。

 だから、伝えるのはネジの母親が来る2日前にした。つまり、明日。

 明日なら、振られて泣いても、一日間があるから。一日で気持ちの整理はつけられなくても、泣き腫らした目は収まると信じてる。



 「ガイ、明日時間ある?」


 「ん?なに?」


 買い物帰りで、全部の荷物を持ったガイは、ちょっと前屈みになって視線を合わせてくる。

 そういう、ちょっとした気遣いが、女の子慣れしてるんだと実感する。


 「明日、ここ行きたい」


 丁度さっき貰ったチラシに載っていた美術館を指差す。

 ガラスの工芸品の展示会が開催されているらしく、そこそこ話題にはなっていた。


 「へー。やっぱユリも女の子だな。いいよ、行こ」


 にっこりとガイは笑う。

 偽装恋人が始まって早々にガイはあたしをユリりんではなく、ユリと呼ぶようになった。

 フリだけなのはわかってる。

 他の人にもユリって呼ばれてるのに。

 それでも、名前を呼ばれる度に、いつも少し嬉しくて、切ない。


 美術館に連れ立って行くなんて、まるで本当に恋人同士のようだ。

 偽装恋人のニセデートだけど。



 家に帰って来ると、珍しくネジが暇そうに写真を眺めていた。

 自分で淹れた飲み物をふーふー言いながら冷ましつつ、机の上の写真を見つめている。

 その食い入るような視線に、どこか嫌悪感を含ませながら。


 「ただいま。…何見てるの?」


 返事は返ってこないかもしれない。そう思ったのに、意外にネジは写真から顔を上げてこちらを見た。


 「昔の写真。…見る?」


 ペラペラと大事にするでもなく、写真を泳がせている。

 特に凄く興味があるわけじゃないけど、せっかく差し出してきたから受け取った。


 「なんの写真?」


 荷物をしまい終えたガイも、後から覗き込む。

 写真は複数人の集合写真だった。

 何かの記念で撮られたものだとわかる構図だ。

 じっと写真を眺める。

 

 「うわ……なんでこんなの出してきた?」


 ガイは写真の記憶があるのか、物凄く嫌そうに言う。

 写真を取り上げようとするから、急いで胸に抱き込んだ。


 「まだ見てないから」


 「見なくていいよ、そんなん」


 嫌そうなその態度。

 写真は少年少女の集合写真だった。

 もう一度確認する。

 そこには、他の子に混ざるように、ネジと、シフトと、ガイがいた。

 皆まだ幼い。

 ネジとシフトは隣同士に立っていた。その2列後ろにガイがいる。ガイの横には女の子が立っていて、写真で見ても2人は距離が近かった。

 

 「この人が、ミモザさん?」


 ネジにガイの横の女の子を指差して尋ねる。

 ピシリと、ガイが一瞬固まった気がする。


 「そうだよ。まだこの時は付き合ってたんじゃなかったか?」


 ネジはガイを見る。つられてガイを見ると本当に辟易した顔をしていた。


 「…黙秘」


 「黙ってるってことは肯定と一緒だろ」


 それはそう。じっともう一度写真を見つめる。ガイの横のミモザさんは、ショートカットで、爽やかなお姉さんといった雰囲気だった。

 見た目だけでも、こんなに違う。

 これが、ガイの好きだった人。

 あたしとは全然違うその見た目に、そもそも趣味じゃなかったんだな、と妙に納得してしまう。


 「なんで別れたんだ?」


 ネジって、どうしてこう傷口を抉りにくるんだろう…。気になるけど。


 「なんでそんなの答えなきゃなんねぇんだよ」


 「別に?純粋な興味で。…私、お前とミモザは結婚するかと思ってた」


 塩まで塗り込んできた。

 知りたいのに、知りたくない。


 「付き合いも長かっただろ?5年くらい付き合ってて、皆そろそろ結婚かなって言ってたのに。いきなり別れたから、すげーザワザワしてたもん」


 写真をもう一度見る。

 仲の良さそうな2人は、5年も付き合っていたらしい。そりゃ、結婚も出てくる。


 「お前…このタイミングで聞く?」


 「別にいいだろ。ここでユリと恋人のフリする必要なんかない。ミモザの事も前に言った事あるし」


 「はぁ!?」


 「なんだよ?お前、ユリの事はそういう好きじゃないって言ってただろ?だったら別にこんなの世間話で終わるだろ」


 「いや、そんなんユリだって聞きたくないし興味なくね?」


 くるりとこちらを向いたガイをじっと見る。

 どこか焦ったような顔に、少しだけ溜飲が下がる。


 「あたし、興味あるわ。なんで別れたの?っていうか、どんな人だった?ガイと付き合うなんて、さぞかし立派な人だったんでしょうね」


 ここで、しくしく泣くような女の子にはなれない。あたしの強がりはきっと2人にはバレていると思うけど、それは見逃された。


 「ミモザ?うーん……なんていうか、サバサバしてた」


 ネジにサバサバしてたと言わせるくらいだから、結構なあっさりした人だったんじゃなかろうか。


 「懐っこかったけど、好き嫌いもはっきりしてたし、女子っていうか、男子って感じ」


 「ミモザもお前に言われたくねぇだろうな…」


 呆れた視線でガイはネジを見る。

 その姿は観念したようにも見えた。


 「なんだ?私はミモザみたいに自転車で池に突っ込んだり男と殴り合いの喧嘩なんてしてないぞ」


 「そんな事もあったな…」


 ガイはどこか遠い目をしている。

 あの時は大変だったと、その目が語っている。


 「…激しい人ね…?」


 自転車で池に突っ込むってどうやったらそんな事になるんだ。殴り合いの喧嘩も、何歳か知らないが、なかなかに元気いっぱいだ。


 「まぁ…」


 歯切れ悪くガイは頷く。

 きっと、ガイはミモザさんに振り回されても、最後はちゃんと守ってあげたんだろう。

 それは簡単に想像がつく。


 「ふぅん…。なんで別れたの?」


 きっと大事にしていただろうに。

 傷口に塩を塗り込む行為だとわかってはいても、聞かずにはいられなかった。


 「えー…それ、ホントに知りたい?」


 「うん」


 「えー………んー…しいていうなら、進路?お互いやりたい事があったし、別々に動いた方が都合良かったから、みたいな」


 「ふぅん」


 なんだか、大人な理由だ。

 お互い納得して綺麗にお別れする、その大人なお別れは、あたしの後ろ向きの告白と全然違う。

 別れの理由一つとっても、子供っぽい独りよがりのあたしとガイの、明日で終わる関係が紙のように薄っぺらいのだと実感した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。