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シフトがこの家にやって来たのは5年ぶりだ。それは確かにそう。
なのに、シフトは私のストーカーだ。
普通は不可能なその矛盾も、騎士団団長の権限と、母に次ぐ魔力と魔術があれば、不可能ではない。
私は森の外れの古びた屋敷に住んでいる。
この家と、庭には、沢山のからくりがある。
落とし穴、隠し通路、覗き穴。踏み抜くと槍や毒ヘビが落ちてくる罠もある。
作成者は、勿論私。
この難攻不落の魔女屋敷は、今も改造が続いている。
そして、シフトはそれを分かっている。
だから今、無理に屋敷には入って来ない。
「ネジが俺を呼んだからわざわざ来たんだよ?」
「呼んでない」
私が呼んだのは騎士団であってストーカーじゃない。
シフトは騎士団の団長ではあるけど、シフトを呼んだ訳じゃない。
「だって、ストーカーされてるんでしょ?家に何通も手紙が届いたり、内容も好きだ愛してる会いたいとか、街でも結婚するって吹聴されたり、挙句魔術で四六時中監視されてるって…」
「そうだよ。お前にな!」
シフトが言った内容は事実であり、そして恐ろしいことに、シフト本人の行動でもある。
それをストーカーと言わず、何というのか。
しかもそれ、本人が言うのおかしくね…?
「えっ…?なぁんだ、俺の事かぁ」
なんで嬉しそうなんだ、コイツ。
狂気のストーカー過ぎる。怖い。
ぐっとドアに力を入れて閉めようと思ったけど、ガチムチマッチョは伊達じゃなかった。
「じゃあ大丈夫だね!」
「なんも大丈夫じゃないが?」
現在進行形で危機的状況だよ。
バカなの、コイツ?
「だって全部本当の事じゃん。俺、ネジのこと好きだし、愛してるし、いつも会いたいと思ってるよ。結婚式、いつにする?」
「お引き取り下さい」
「ネジってば照れてるの?可愛いなぁ!」
「ドン引いてんだよ。お前の頭、都合良く解釈し過ぎてて怖い」
冷ややかにシフトを見ると、にっこりと笑った。
「嫌だなぁ。忘れちゃったの?昔約束したじゃん。俺とずっと一緒にいようねって、ネジが言ったんだからね?」
………言った。確かに言ったけど。
そういう意味じゃねぇぇぇぇ!!!
シフトがこの屋敷に来たのは10歳の時だった。私達は同い年で、森の外れに住んで滅多に外に出ない私は、この金髪の美少年が来たことをとても嬉しく思っていた。
だから、可愛がった。
そりゃもう可愛がった。
どこに行くにも一緒に連れ歩き、食べ物を分け合い、一緒に助け合った。
そんな私に向かって、去り際、コイツが言ったのだ。
『横暴理不尽大魔王』と。
シフトはよく泣いた。
一緒に森の奥の魔獣の卵を盗みに連れ出してあげた時も、お腹が空いたと騒ぐからよく知らない木の実も取ってあげたし、森で遭遇した魔獣を退治しようとその辺の木の棒で叩いてあげたりもしたのに。
その度、卵を盗みに行くのは嫌だと泣き、先にあげた木の実に毒が入っていて下痢して泣き、魔獣が怒って襲ってくるから怖くて泣いていた。
私に向かって『パシリに使うな!』とか、『毒見させるな!』とか、『魔獣を起こすな!』とか、すぐぎゃあぎゃあ言ってきたシフトを、その度どうどうと落ち着かせてあげたのに。
そして、私がシフトにずっと一緒にいようね、と言ったのは、シフトが騎士団の入団試験を受けると言ったからだ。
『ええ?じゃあ今後誰と魔獣の卵を盗んだり、新しい木の実を試したり、魔獣と戦ったりしなきゃいけないわけ?いいじゃん、ずっと一緒にいようよ?ね?』
私の純粋な善意はその数日後に見事裏切られたけれど。
『横暴理不尽大魔王』という捨て台詞と共に。
ずっと一緒にいよう、はつまり、『結婚しよう』ではなく、『一緒に遊ぼうね、友達でいようね』の意味だ。
文脈の流れ的にどう見てもそうじゃん。出会ってから4年後の秋だから私達は14歳。
あんなの、まだまだ子供同士の軽い約束じゃん。
それを…。
どこをどう切り取ったら『結婚しようね』の意味になるのか。
マジでシフト、狂ってんな。
「ねぇ、ネジ。俺、強くなったんだよ?これからは魔獣の卵泥棒も、新薬の実験体も、魔獣との戦いも、全部俺がやってあげるからね。だからずっと一緒にいようね?」
「あ、もういいです。間に合ってます」
適当に言った嘘に、シフトはピタリと固まった。
「…………間に合ってる?それはつまり、他にそういう人間がいるってこと?」
地を這うような低い声は怨念が籠もっている。
ストーカーの熱量が強過ぎて怖い。
「いないよね?俺がずっと魔術で見てたのに?そんなヤツどこからも入ってないし、ネジもそんな様子なかったのに…。俺の知らないとこでまさか、誰かと…?」
怖い。ガチのストーカーだ。
「許さない…。俺のネジなのに…。俺だってまだ手も触れてないのに…。………殺す」
え、誰を…?え、私?手に入らないなら殺す的なやつ…?え、命の危機では…?
「あ、嘘!嘘だよ!いない!そんなヤツ、シフトの他にはいないから!」
殺されては堪らない。
魔力もなければ、騎士団の団長とやり合うフィジカルも技能もない私にできるのは、嘘を撤回する以外ない。
「………本当?神に誓って?」
「誓う!本当に、そんなヤツはいない!」
まぁ実際その通りだから神に誓ってもバチは当たらない。
神様、信じてないけどな!
なんてったって私、白魔女だからな!
「…そっかぁ。良かった。危うくこの辺を跡形も無く消し炭にするところだったよ」
物騒過ぎる。
流石、狂気のヤンデレストーカー。
「ネジ、じゃ、本当にストーカーも、俺以外にネジが頼る男もいないんだね?」
「………そうだな。お前以外に私に執心するような変なヤツはいないな」
っていうか、お前みたいなヤバいヤツ、二人もいてたまるか。
呆れを通り越して諦め気分で投げやりに言うと、シフトは嬉しそうに笑った。
その笑顔だけは昔と一緒の、恐ろしいストーカーは、更に恐ろしい宣言をする。
「そうだよね!俺がこんなにネジと結婚するって言ってるのに、横槍を入れるような馬鹿はいないよね!明日は婚約届、持ってくるからね!」
「は?」
「え?だってネジには俺以外に頼る人間がいないんだよね?それって、俺以外と恋人になる気はないってことでしょ?だから、ね?まずはさっさと婚約しようね!」
コイツ、マジで頭おかしいな……。
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