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 俺を呼びに来た仲間には、伝令を頼んだ。

 それは『カートが一線を越えて騎士団に捕まる』事を先に周知させておきたかったからだ。

 賢い奴なら、わざわざ騎士団のいる場所に来ないだろう。

 少なくとも俺がいる穏健派は、ここには来ない。

 過激派の本当に何も考えていない馬鹿と、カートに恩義がある義理堅い奴だけが来ると思う。

 後者は騎士団に捕まる事はないかもしれない。でも前者は多分捕まると思う。

 過激派の一部は、思想云々でなく、ただ暴れたいだけの奴もいる。

 せっかく騎士団に協力するなら、ついでにレジスタンスの内部の膿も一掃したい。

 これはついでの域だし、できなくてもいいくらいの期待ではある。




 そう思っていたのに、思っていた以上に馬鹿は多かった。

 過激派がアジトにしているのは今は使われていない教会とその裏の孤児院だ。

 教会の大聖堂には既に騎士団が集まっていて、ただ暴れたい馬鹿と血みどろの戦いを繰り広げている。

 といってもそこは公権力。どう考えても騎士団の方が優勢だった。

 そこを悠々と通り過ぎる。

 数人が名前を呼んで助けを求めてきたけれど、それは無視した。

 仲がいいわけじゃないし、気も合わない。

 今後の組織にも必要だと思えなかった。


 「呼ばれてるじゃん」


 「雑音じゃね?」


 横で冷ややかに茶化してくるシフトに鼻で笑う。

 普段のネジの前とは全然違う、男同士の態度は昔から変わらない。

 猫かぶりなんだよな、コイツ。


 「ガイ性格悪いもんね」


 「お前に言われたくねぇけどな?」


 俺は性格が悪い。それは重々承知している。

 でもシフトも大概だ。

 ハハハ、とお互い笑い合って牽制していると、横から男が突っ込んでくる。


 「裏切り者!」


 ここで俺に向かってくるあたり、本当に馬鹿だなと思う。

 同じレジスタンスの一員同士なんだから、向かうならシフトだろうに。

 騎士団の団長と話す俺が気に入らないんだろう。もともと俺を目の敵にしていたのもあって、ナイフを持って駆け寄ってくる。

 せっかくナイフ持ってんのに。

 なんでわざわざ見せびらかすんだ?

 横のシフトは知らんぷりを決め込んでいる。

 シフトはシフトで、騎士団団長なんだから一般人を助けるフリくらいすればいいものを。

 避けてもよかったけど、面倒だったから肘鉄しておいた。

 ついでに、宙に舞ったナイフも貰っておく。


 「手癖も悪いね」


 「正当防衛だし。ナイフは手に落ちてきた」


 「よく言う」


 シフトは鼻で笑う。

 前々から思ってたけど、生意気すぎる。




 カートは多分、孤児院の一階にある院長室にいるだろう。

 出入り口に一番近い部屋。

 目的を達成したらすぐに逃げられるから。

 そして、俺の予想通り、カートは院長室にいた。



 カチャリとドアを開ける。

 部屋の中にはカートと床に転がされているユリしかいない。

 ドアの音は意外と響いたのか、2人がこちらを見る。

 カートはドアから現れた俺とシフトを見て、困ったように笑った。


 それは自分はここまでだということがわかっている敗者の笑みだった。


 「…思ったより早かったなぁ…」


 ユリの腕を掴んで、ナタを振り上げている。

 狙いはユリの腕輪、ひいては腕だけだと思う。


 「…腕輪、欲しかったんだけどね」


 ギュッとユリの腕を掴んでいる手に力を込める。ユリは痛そうに身じろぎした。


 「この状況で?無理だろ」


 「だよねぇ」


 のんびりとした受け答えは天気の話でもしているようだ。

 普段の様子と変わらない姿に、その裏にあるカートの魔術師への憎悪が透けて見えるようだった。


 「カート。ユリはニナと同じ年だよ」


 だから何だと言われればそれまでだ。

 でも少しでもカートが後悔してくれればいいな、とは思う。

 ニナは、カートの妹で、2年前に亡くなった。ちょうど、ユリと同じ17歳だった。


 「…そんな気はしてた」


 カートはユリに視線を移す。

 その目は妹を偲ぶ兄そのものなのに。


 「ニナは17歳で亡くなって、この子はこれからも生きていくんだよなぁ…」


 「人生なんてそんなもんだろ」


 いつ死ぬか、それはわからない。

 でも人はいつか死ぬし、その時に同い年の人間は生きている。

 それはもう仕方ない事だ。


 「ニナが亡くなった事とユリは無関係だし、ユリの腕を落としたら第二のニナはユリになる」


 それは魔術師かどうかは関係ない。

 ただ血で血を洗う醜い復讐そのものだ。


 「わかってる。……俺は投降するよ。本当は捕まるのも俺だけの予定だったんだけどなぁ。こんな大騒ぎにしちゃって…。ガイが呼んだんだろ?」


 責める様子はない。

 それはもう、昔のように年下の俺を嗜める先輩の視線だ。

 シフトとは4つ違うからあまり接点はなかっただろうが、俺は2歳違いで、丁度今の俺とシフトのようにそれなりに親しい関係だった。


 「騎士団まで使うとか、どんだけ性格悪いんだ」


 呆れて苦笑する顔は、あの頃と一緒だ。


 「騎士団は過激派の一斉検挙ができて、レジスタンスは馬鹿な膿が出せる。お互いにウィンウィンだろ?」


 レジスタンス全員が捕まるわけじゃない。

 解体に至らないのは騎士団としては不満だろうが、それは俺には知った事じゃない。

 

 カートは持っていたナタを俺とシフトに向かってぶん投げてくる。


 「あぶねーな」


 「当たらないかー」


 なんなんだ、そのボールが的に当たらない、みたいな軽い口調は。

 当たったら一大事なのに。

 それからカートはゆったりとこちらに向かってくる。

 シフトを見て、軽く笑った。


 「デカくなったなぁ…」


 親戚の子供を見る顔そのものだ。

 あまり関わりはなくても、カートなりに気にはしていたのかもしれない。


 「カート。拉致監禁、及び傷害未遂で逮捕する」


 「うん。…ガイ、後は頼んだ。…ユリちゃんも、ごめんね」


 カートはユリの方は見なかった。

 代わりにポンと俺の肩を叩く。


 「ユリちゃんは、これから狙われるよ。ちゃんと守ってやりな」


 「お前に言われても…」


 元凶のクセに。

 後始末も今後の展開も全部押し付けてくるその手腕は、昔から少しも変わらない。

 それでも、昔のように一緒には居られない。

 過去の日々が、走馬灯のように脳裏に蘇る。

 それは後ろ髪を引かれるものだったけれど、ここでそれに縋ってはいけない事も、お互いに分かっている。

 シフトがカートに手錠をかける音を聞きながら、俺はユリに向かって歩を進めた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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