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 ガイは焦る様子もなく、ゆっくりと近付いてくる。

 その普段と変わらない姿に、安心すると同時に腹が立った。

 ガイはあたしの口の猿轡を外してから、ポケットから取り出したナイフで手足を縛っていた縄を切ってくれた。


 「……お、遅い!」


 何故素直にありがとうと言えないのか…。

 カタカタと震える身体を自分の腕で抱き締める。

 自由に動く、そのことがこんなに有り難いことなのだと、初めて思った。


 「あんた、レジスタンスなの!?なんで黙ってたのよ!?カートのこと知ってたの!?」


 さっきまでの会話では、違うと思う。

 多分、同じレジスタンスでもカートとガイは別々なのだ。

 そう頭ではわかってるのに、不安でたまらない。否定してほしいのに、ガイはそんなに優しくない。


 「そうだよ。俺はレジスタンスだし、カートの仲間でもある」


 「…最低…!」


 助けに来てくれたヒーローでいてくれれば良かったのに。

 同じレジスタンス、カートの仲間。

 その言葉がどんなに残酷な言葉か、わかっているはずなのに。


 「…助けに、来てくれたんじゃないの…?」


 ポタリと床に涙が落ちる。

 それは一度落ちてしまえば、洪水のように溢れてくる。

 怖くて、辛い、さっきまでの感情と、助けてもらった感謝。なのに、カートと同じレジスタンスだという怒り。

 ぐちゃぐちゃの感情を、どう整理したらいいのかわからない。


 「なんでレジスタンスなのよ!」


 ガイも本当はあたしを憎んでいるのかもしれない。魔術師への不満があるからレジスタンスにいるんだろう。そう思うと、ガイが助けに来てくれた事も、裏があるように思える。

 素直に感謝して、好きになれたらいいのに。

 こんな風に格好良く助けられて、好きにならないわけがない。

 なのに、それは、レジスタンスという言葉一つで警鐘が鳴るものになってしまう。


 「ユリりんが俺の事を信用できないのはよくわかる」


 ガイは苦笑している。

 そのどこか諦めたような、一線を引くような笑顔が、ムカつく。


 「その上で、提案だ。ユリりんは、間接的にでもレジスタンスの一部を解体した元凶なんだ。魔力封じの腕輪の有無に関わらず、これから一部のレジスタンスには目の敵にされる」


 「…あたし、被害者なのに…」


 なんて理不尽。

 好きで捕まったわけでもなく、勝手に拉致監禁されて腕を切断されそうになったのに。

 それにも関わらず、まだ狙われなきゃならないって、どんな試練…。


 「そうなんだけどね。世の中、馬鹿が多いよね」


 ガイの言い方は他人事だと思って同情しているようにしか聞こえない。

 泣きながら、じろりとガイを睨む。


 「だから、ユリりんは、これから俺の女ってことにしとくのがいいかなって」


 にっこりとガイは笑う。

 その予想もしていなかった言葉に、涙も引っ込んでしまう。


 「………は…?」


 どういうこと?俺の女ってなに…?

 なんで…?


 「別にフリだけでいいよ。でもそうしておいた方が、ユリりんに危害を加えようと思う連中は大分減るからさ。…どう?」


 「どう……?いや、どうっていうか…あたし、婚約者いる…」


 「ああ、あの大っ嫌いな婚約者な?」


 ロウの事を思い出したのか、ガイは鼻で笑う。


 「あの自己保身しか考えてなさそうな婚約者は、ユリりんのこと守ってくれんの?」


 無理だろう。

 ロウは魔術師ではあるけど、そんなに魔力量も多くないし、怠け者だから、魔術陣も詠唱も下手だ。かといって武術に長けてもいないし、頭もそんなに良くない。

 本当に、お金があるから甘やかされたボンボンという男だ。

 ロウよりあたしの方がよっぽど強い自負もある。


 そして何より、自分を犠牲にしてでもあたしを守ってくれるような気概も好意もない。


 「別にユリりんがあの婚約者に守ってもらうっていうなら、それでいいよ?まぁ、あんまりできるとも思えないけど」


 「………ガイは守ってくれるわけ?」


 「勿論。俺も元凶の一端は担いでるしね。罪滅ぼしも兼ねてしっかりお守りしますとも」


 罪滅ぼし。

 それはまるで、牽制にも聞こえる。

 これは責任から来る謝罪の提案であって、決してあたしを好きだからではない。

 そう言っているとしか思えない。

 好きにならないように、そう釘を刺されているようで、物凄く腹立たしい。


 「どうする?」


 決定権はあくまであたし。

 そう伝えているけれど、そこに責任を押し付ける逃げとも卑怯ともとれる意思が見える。

 でもそのズルい大人のやり口に、対抗できる手段がない。

 悔しくて唇を噛む。

 それでも頷く以外に選択肢はなかった。


 「わかった。…わかったけど!フリだから!指一本触れないでよね!?」


 「…我儘だなぁ…」


 絶対に我儘じゃない。

 いつかと同じ台詞なのに、あの時の甘さはどこにもなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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