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ガイは本当に住み込みでバイトを始めた。といっても時々だけど。ちゃんとガイ自身の家もあるから、私の家と行ったり来たりしている。
別に部屋は余ってるから構わないけれど。
常識のある人間が増えたとユリは喜んでいたけれど、シフトはやっぱり物凄く機嫌が悪かった。
そして、バイト兼実験体は私の横に座り、私が書いた白魔女の魔術陣を興味深そうに眺めている。
「…これが白魔女用の魔術陣ねぇ…」
一見すると、あまり違いは見られない。
魔術師なら違いには気づいても普通の人には馴染みがないからわからないだろう。
「お前、魔力テストしたことある?」
「あー……ある。あんま記憶ないけど」
貴族のお坊ちゃま、お嬢様なら皆やるだろう魔力テストも、平民だとやらない場合もある。
魔力は血に宿ると言われているから、親が持っていなければ子も持たない、というのが通説だ。
たまに親がなくても祖先に魔力持ちがいるから、魔力が現れる子供もいるが、それは先祖がきちんと分かっている貴族や平民の金持ちに多い。
普通の平民はそこまで祖先を遡れないから基本的には祖父母まで遡って魔力持ちがいなかったらない、で終わる。
魔力テストもその家その家で適当にやるから時期もバラバラだし、そもそも魔術陣が間違っていることもある。
結局、平民の魔力テストなんてその程度。
やってもやらなくてもあまり意味がないし、もし魔力があった所で、貧しければそれ以上どうすることもできない。
魔力テストをしたことがあるだけマシな方だろう。
「まぁそんなもんだよな。…じゃ、まずはこっち。一応魔力がないかのテスト」
私の予想では、人は3つのグループに分けられる。
0を1にする通常の魔力持ちグループ。
0は0のままの魔力なしグループ。
そして1を0にする白魔女グループ。
今魔力がある人間はそれでいい。
問題は魔力がないとされる人間だ。
私の予想は3つのグループだが、0は0のままのグループがない可能性もある。
その為に今現在魔力がない人間の実験がいる。
本当はもっと沢山の人に調査しないとはっきりした結果はわからないが、それは私一人では無理がある。
だから、まずはガイ一人で試す。
ガイが本当に魔力がなければ、その時に母に伝えて魔術管理部門として、国主体で再調査、特に白魔女グループの有無を確認してもらえばいい。
「これ、普通のやつ?」
ガイは私が手渡した既存の魔術陣の紙を光に透かす。別に普通の紙に書いただけだから、何の変哲もない。光に透けて白い紙が光っていて、黒のペンで書いた魔術陣が少し褪色して見えた。
「そう。まずはこれで通常の魔力がないか確認。その後、こっちの白魔女用の魔術陣で白魔女の魔力がないか確認。両方なければ、バイトは継続」
私は魔力のない普通の人が魔力封じの腕輪を作れるのかも試したい。
それが可能か不可能かで、今後の対策にも違いが出てくる。
でもガイはギョッとして私を見てきた。
「え!?俺、バイト、クビにされんの!?」
「魔力があったらな」
「ええー!?聞いてねぇよー…」
物凄く残念そうな声で言う。
なんなんだ一体。コイツ、他に仕事してただろう。
「お前、職場クビにでもなったの?」
無職なのか?
だから急にバイトに来たり、こんなに嫌そうな顔をしてるんだろうか…。
「なんねぇし。今閑散期。昔馴染みが困ってるって聞いたから気心知れた俺が手伝いにきてやったんだろ」
「手伝いならボランティアだな。バイトでなくていいなんて助かる」
「それはそれ。バイトはバイトだから」
にっこりとガイは笑う。
その調子の良さに、懐かしさを感じつつも呆れてしまう。
まぁ最初からバイトで募集したのだし、本気でボランティアにしたいとは思っていない。
「あっそ。…じゃ、ほら。ここに手をおいて、10秒。計るぞ」
「早い早い!」
ガイは慌てて通常の魔術陣に手を触れる。
これで光れば通常の魔力持ちになる。
10秒翳しても、本人の申請通り、魔術陣は光らなかった。
「うん。ないな。次」
隣の白魔女用の魔術陣を示す。
ガイは大人しくそちらに手を置く。
こちらも同じく10秒。
そして、同様にこちらも光らなかった。
「…ああ、やっぱないんだな」
そうだとは思っていた。
白魔女は白い髪と赤い目が特徴だから。
多分この特徴は、普通ではわからない白魔女を判別する為にある気がする。
「おめでとう、普通の人。バイト継続だ」
「普通の人で祝われたの初めてだよ」
憮然としていうガイは白魔女用の魔術陣を眺めてそれを手に取った。
「これ、他のやつにも試した方がいい?知り合いに声かけてやろうか?」
「どっちでもいい。どうせ母さんに説明したら国主体でやるようになるよ。先にやってもいいけど、二度手間じゃね?」
私の実験は公式な記録としては残らない。
だから、すぐにではないかもしれないが、魔術管理部門主体で調査すると、単純に2回調査することになる。
「あー…確かに。ふーん…じゃ、これ貰っていい?」
「なんで?」
こんなものに価値があるのか。
ぶっちゃけただの紙切れだ。
「なんか面白かったから。酒の肴になるかなって」
「こんなのが?」
「馬鹿だなぁ、ネジ。こういうのがいいんだよ。特にお酒のお供のお姉ちゃん達には」
「………おっさん」
ガイに白けた視線を送ると、ガイはやれやれといった様子でため息をつく。
「まだまだお子様だからなぁ…」
その馬鹿にした態度にイラッとする。
ガイはもう一度魔術陣を見て、それを机に戻した。
「要らないのか?」
「うん。やっぱいいや。これ、光ったら盛り上がるけど、多分光んねぇし。そしたら逆に白けるじゃん」
それはそうだろう。
光らなかったらただの紙だし。
ガイのいう所のお酒のお供のお姉さん達が、魔術テストをしたかは知らないが、光らない可能性の方が大きい。
「じゃ、次。これ、真似して」
ガイが見ていた白魔女用の魔術陣をそのままガイの方へスライドさせる。
ガイは意外そうに目を瞬いた。
「え?これ書くの?……これ、重要機密的なやつじゃね?」
重要機密と言われればそうだと思う。
この魔力封じの腕輪は世界をひっくり返す一つのきっかけになる。
でも大量生産するなら、自分だけで持っているだけじゃ無理だ。
「そう。結構重要なんだよ」
「えぇ…ただのバイトにやらせる仕事じゃなくね?」
「そうはいっても誰かがやらないと仕方ないだろ。なに日和ってんの?そんなタマじゃないだろ」
ガイは別に大人しいタイプじゃない。
温厚ではあるけど、肝っ玉も座ってるし、多少危ない目に合っても自力でなんとかできる頭も体力もある。
「ネジさぁ…ちょっとは俺の心配しない?」
「しない」
「可愛くねぇー…」
文句を言いつつもガイはペンを手に取る。
サラサラと新しい紙に見様見真似で書き写していく。
「点の位置一つ間違えるなよ。完璧に書けるまで何回でもやらすからな」
「げぇ…」
ガイは心底嫌そうに顔を顰めていた。
ガイは2日かけて完璧に書き写した。
そして、それはやっぱり書くだけで、それだけでは何の反応もしなかった。
その魔術陣が反応したのは、私が魔力を込めた時だけ。
それはつまり、魔力封じの腕輪の核には、私の魔力が必要ということを示していた。
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