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 私に向かってにっこりと笑うシフトは、ゆったりと椅子を引いて立ち上がる。

 それから私の背後に回り、バンッと机に手を叩きつけた。

 その大きい音に、私だけでなく、ユリもびくりと肩を揺らす。


 怒ってるなぁ…。

 そうなるだろうとは思っていたけれど、ちょっと予想以上だったかもしれない。


 流石、騎士団団長なだけある。

 圧も強いし、部屋の温度もバッチリ下がった。

 その絶対に逃さないという執念は、最早怨念じみている。


 「…ネジ。他に言う事ない?」


 「ないな。私は何も悪い事はしてないからな」


 むしろ、お前の独占欲を謝罪してほしいくらいだ。

 どこの世界にストーカーされて喜ぶ人間がいるんだ。


 「ふぅん…。そっかぁ。じゃ、もう2度と勝手な事できないように、その足、捻り取る?」


 「………狂気だな」


 目が笑ってない。

 少しも冗談じゃなさそうだ。

 これ、下手したら殺される可能性あるな。


 「ちょっと!アンタ、何言ってんのよ!?物騒過ぎるでしょ!?」


 止めればいいのに、ユリは向こう見ずにツッコんでくる。

 案の定、シフトは本当に面倒臭そうにユリを見た。


 「お前、いつまでいるつもり?早く帰れ」


 「今はここがあたしの家だけど!?」


 「…ウザ。ねぇ、ネジ。コイツいつまでいるの?外、放り出そうよ」


 両手は机につけたまま、覆い被さるようにして、シフトは私の頭にグリグリと自分の頭を擦り付けてくる。

 ちょっと痛い。


 「魔力が使えないユリ一人じゃ生きていけないだろ」


 「こんな役立たず、どうなってもいいよ。っていうか、ネジ以外本当にどうでもいい。ネジだけいればいいのに…」


 ヤンデレ、ヤバいな。

 お前、騎士団団長の責務とプライドをどこに落としてきたんだ…。


 「はぁ……。やっぱり監視なんかじゃダメなんだね…」


 落ち込んで憂いを帯びた声音は、知らない人間からしたら、繊細で憂鬱な儚さすら連想させるかもしれない。

 でも内実が違う。

 それは自分だけが支配してずっと見ていたいという、もっとおどろおどろしい狂気じみた独占欲だ。


 「どうしたらネジを俺だけのものにできるのかな…。ねぇ、部屋に閉じ込めて誰にも会わさないようにすればいいの?」


 「そんなの無意味だったろ?」


 そこまで酷い監禁ではなかったけれど、24時間監視されていても、私は抜け出した。

 それは、部屋に閉じ込められても出ていける一つの証明になるはずだ。


 「…シフト。前にも言っただろう。私は守ってもらわなくても生きていける。だからそんな閉じ込めるなんて極論にするな」


 「…世の中には危険がいっぱいだよ?俺はネジに傷1つつけたくないだけなのに…」


 グリグリと更に頭を擦り付けてくる。

 それは心細くなってしまった大型犬のようでもある。

 安心させるように、ポンポンと頭を撫でる。


 「だから極論過ぎるんだ。大体、生きてりゃ傷の1つ2つ、できて当たり前だろ」


 「……傷をつけないように俺が全力で守ってあげるのに…」


 「要らん」


 余計なお世話だ。

 そんな暇があるなら仕事しろ。


 「ほら。もう話は終わりだ。私は仕事の続きがあるんだからな。お前も帰れ」


 シッシッとシフトの前髪を横に払う。

 シフトは不満げに覆い被さる形から起き上がった。


 「ユリも。食器洗いと掃除が残ってんだろ?やれよ?」


 「…………アンタの神経、おかしい」


 ユリは不可解な物を見る目で私を見てくる。

 まぁ神経が麻痺してるのは認める。


 「こんな狂気じみたストーカーを野放しにしてるなんて……アンタ、いつか殺されるんじゃないの?」


 「あるかもなぁ…」


 別に殺されたいわけじゃないけど。

 シフトは嫌そうに舌打ちしている。


 「そんな馬鹿な事しない。…ネジ。ネジを殺すなら俺も一緒に死ぬからね?一人になんてしないから心配しなくていいよ」


 「マジか。そっちかー…」


 重い。殺さないんじゃないんだ。

 無理心中の方なのかー…。


 「シフト。私は死にたくないからな?覚えておけよ?」


 いつか本当になりそうで怖い。

 一応予防で噛んで含めるように伝えてみる。


 「うん!じゃあ結婚しようね!」


 「なんで?」


 なんでそうなるんだ…?

 本当にストーカーの理屈が意味不明過ぎる。


 「だって俺、結婚してくれなかったら殺しちゃうかもしれないから。ネジ、だから俺と結婚しようね!ね?」


 そんな子供の約束みたいなテンションでこられても。

 ユリは文字通り、開いた口がふさがらないでいる。

 呆れてものも言えないとは、こういう事を言うのだ。


 「何度も言うが、私は結婚しない。そんなに結婚したいなら他を当たれ」


 「何言ってんの?俺はネジだから結婚したいんだよ?ネジがいいし、ネジ以外要らないって何度も言ってるのに」


 「…困ったもんだな」


 お互いに一歩も引かないから。

 私達のこの膠着状態は今後も続くだろう。

 それが幸か不幸かは、私にはわからないけれど。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「ネジがんばれ!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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