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CASE 08:署までご同行を

 屋根裏部屋に戻った2人の間には、重苦しい沈黙が漂っていた。

 ヴィンセントはジョージのベッドに無遠慮に腰掛けた。


「ああああ! もう! クソっ!!!」


 ジョージの掛け布団と枕を叩きつけた。


 ――完全に、八つ当たり。


 ジョージはペットボトルの水を開け、一気に半分まで飲み干す。

 喉を鳴らす小気味のいい音だけが響いた。


「シャワー浴びて来い」


 ヴィンセントの声は、尖っている。

 ジョージは答えなかった。

 ただ上着を脱ぎ、シャツを外し、無言のまま身軽になる。


 ヴィンセントも服を脱ぎ、そのまま汗を拭った。

 脱ぐ時、汗でズボンが脚にまとわりついた。

 下履き一枚になる。


「クソ……屋根裏、サウナかよここ」


 ジョージはタオルを手に取り、ドアノブに手を掛けた。

 そこで、動きが止まった。


「……誰か来る。数人。金属音。ブーツ」


 低く、確信めいた声だった。

 ヴィンセントは即座に動いた。


「殺気は?」

「……ない」

「俺が出る」


 階段を上がる音が徐々に大きくなっていく。

 殺気はないが、友好でも無さそうだ。

 ヴィンセントはノックされる前にドアを開けた。

 警察だった。それも3人。


「こんばんは、Sir(サー)


 ◇


 ノックをする前に、ドアが開いた。

 現れたのは――

 パンツ1枚の、巨大な黒人男性だった。


 背は高く、鎧のような筋肉で覆われている。

 汗がわずかな光を反射して玉のように光っていた。

 しかも妙に堂々としている。


「こんばんは、Sir」


 警官は一瞬だけ固まった。そして奥を見る。

 そこには――とても小柄なアジア人青年が立っていた。


 未成年のようにも見える。頬には青あざ。

 髪は濡れて束になっている。シャツも着ていない。


 しかも床には、乱れた寝具。ひっくり返った枕。ぐしゃぐしゃのベッド。


 警官は一歩だけ位置を変えた。

 距離を測る。

 そして、静かに部屋を観察する。


 換気されていない空気。

 まだ落ち着いていない呼吸音。

 汗の匂い。


 ――通報は、正しいかもしれない。


 警官は意識的に大きく息を吸った。


「……通報が、ありましてね」

「通報?」


 大男は眉をひそめる。


「ええ。あなたが、そこの……アジア系の男性を暴行して、車に連れ込んでいると」


 2人はゆっくり顔を見合わせた。

 青年はまだタオルを持っている。


「それは誤解だ」


 大男は低く言った。

 警官はうなずいた。


「分かっています……が……ええと……我々は、どのような……その……私的な関係も尊重します」


 ベッドを見る。

 すぐ視線を戻す。


「ただ……ですね。通報がありまして」


 青年を見る。


「それと……そちらの方のお顔の怪我がですね」


 咳払い。


「職務上、確認しないわけにもいかないんです」


 もう一度、部屋を見る。

 ベッド。

 半裸の大男。

 痣のある小柄な青年。


「ご事情を伺いたい。署までご同行願えますか」


 警官の言い切りに、青年が一歩前に出た。


「誤解だ」

「ええ、ええ、分かっています。大丈夫です」


 何が“大丈夫”なのかは言わない。


「だからこそ、署で確認しましょう」

「なぜだ」


 今度は大男が一歩前に出る。

 警官は視線を上に向けた。


「あなたがいない場所で、彼の話を聞く必要があります。そしてその前に」


 視線が下がる。


「まず、ズボンを履いてください」



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