表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/28

『水のドタバタ看病と長ネギ①』

 華の豊臣大坂城は夏の暑さを乗り越えて、朝はもう肌寒い。すいは昨日から、羽織の種類を変えて、寒さ対策をしている。


桜音おと殿、おはようございます」

「おはようございます、水さま。……こほん」


 朝一番、水は恋人の姿を見つけ晴れやかな気持ちになった。しかし、その娘は笑顔のあとに小さく咳き込んだ。なんだか声も掠れている気がする。


「喉痛いんですか?」

「いえ、大丈夫です。乾燥しているからだと思います」

「……」


 普段から頑張りすぎる桜音だから、無理をしているような気もする。今日は、桜音からあまり目を離さない方がいいかもしれないな、と水はぼんやり思った。


「何かあったら、すぐに言ってくださいよ」

「だから、大丈夫ですよ」


 厨房に向かう途中でも、桜音は何度か喉の調子を誤魔化しているように見えた。厨房で隣にいるお千代は、桜音の様子に気付いていないらしい。


「桜音殿、無理してませんか?今日は休んだほうが」

「もう、水さまは大袈裟ですね。大丈夫ですから……ほら、千姫さまのところへ行ってくださいな」


 結局、水は桜音に追い出されてしまった。


 その後、お千代と一緒に千姫の食事を持ってきた桜音は、いつも通り振る舞っているようだ。しかし、普段よりも頬が赤く染まっている気がする。千姫とお千代は気付かないのだろうか。二人が千姫の部屋に入って行く様子をまじまじと見ていたが、桜音はニコリと笑顔を浮かべて、スッと襖を閉じてしまった。


 そっちがその気なら、と水は襖に身をピタリとくっ付け、中の様子を伺う。別に、わざわざこんなことをしなくても中の会話は聞こえるが、少しの物音も聞き漏らしたくない。


「桜音?どうしました?」


 千姫だ。何かあったのだろうか。


「……あ、いいえ、なんでも……ありません」


 桜音の声と、茶を注ぐトポトポという音が聞こえる。やはり、動きが鈍いのか。どうしよう、ここで中に入って桜音に声を掛けるのは良くないのだろうか。


「どうぞ……千姫さま」

「ありがとう。大丈夫?少し元気がないようだけど」


 ほら、やっぱり。千姫から見てもそうなのだ。水は腰を上げて、襖に手を掛けた。そこで桜音の話す声がした。


「いいえ、そんなことありません。少し……ボーッとしていました。申し訳ありません」

「そう?」


 無理をしているだろうに。千姫が何も言わないのなら、もう少し様子を見よう。



 千姫の食事が終わり、食器を引き上げるようだった。桜音が「それでは一度失礼します」と言っている。水は襖をそっと開けてやった。桜音と目が合うと、弱々しく笑い掛けられる。そして、やっぱり顔は赤いし、なんだか唇の色も悪い気がする。水は立ち上がった。


「……水さま、ありがとうございます……」

「桜音殿、それ、私が持ちます。千姫さま、少し外しても構いませんか」


 中にいる千姫に声を掛ければ、千姫は「ええ、構いませんよ」と言ってくれた。水は襖を閉じて、「貸してください」と無理やり桜音から食器を奪い取ろうとした。


「えっ……ちょっと、いけません、私の仕事ですから……」

「でも」

「大丈夫ですからっ」


 桜音に強く言われてしまい、水は体が固まった。怒らせてしまっただろうか。


「……なんなんですか……、私の仕事を取らないでください……」

「……すみません」


 桜音の機嫌を損ねてしまった。しかし、桜音の呼吸が荒い気がする。水は、桜音が食器を厨房に持っていくのを途中まで見送り、少し離れたところで待つことにした。



 先ほど、水に強く当たってしまったことを後悔した。多分、水は自分の体調不良に気付いている。朝から体が重いし、喉も痛い。起きた時はこんなに酷いと思わなかったが、頭も痛くなってきた。途中まで水が後ろから付けて来ていたが、どこかで足を止めてしまったらしい。せっかく心配してくれていたというのに、お礼の一つも言うことができていない。


 桜音は立ち止まった。千姫の部屋まで戻らないといけないのに、足を上げる気力がなくなってしまった。こんなことなら、素直に言って休ませてもらえれば良かった。朝餉後の時間だというのに誰も通りかからないし、そのせいで、誰にも助けを求められない。


 視界が一気に歪んだ。まずいーー。


「桜音殿!!」


 少し先に、水がこちらに駆けてくる姿が見えた。こんなに都合良く、水が現れるはずないじゃないかーー幻覚が見えるなんて、重症だ。その瞬間に足から力が抜けてしまった。


「桜音殿、しっかり……」


 ……足が崩れたはずなのに、床に倒れ込んだ衝撃や、冷たさはない。むしろ、温かいものに包まれている気がした。


「……ほら、やっぱり体調悪かったんでしょう」


 水の声が頭に響く。少し怒っているようにも聞こえた。そして、フワリと体が浮いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ