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星を食べる少年  作者: 臥亜


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第6話 「監視者だった少女」

 しばらく、音がなかった。


 さっきまで世界を歪ませていた気配が、嘘みたいに消えている。


 残っているのは、

 何か“見てはいけないものを見たあとの静けさ”だけだった。


「……おい」


 ガイが声をかける。


 少女は動かない。


 その場に座り込んだまま、うつむいている。


「大丈夫か?」


 返事がない。


 ガイは少し考えて、岩を差し出した。


「食うか?」


「……食べない」


 かすれた声だった。


 沈黙。


 少女はゆっくり顔を上げる。


 その目は、今までと違っていた。


 “観察する目”ではない。

 “迷っている目”だった。


「……失敗した」


「何が?」


「私はあなたを“監視する側”だった」


 ガイは首をかしげる。


「それ、前も言ってたな」


「でも今は違う」


 少女ははっきりと言った。


「私はあなたを“報告できない”」


 空気が少し重くなる。


「報告って、あいつらにか?」


「そう」


 少女は静かにうなずく。


「本来なら、あなたの存在はすでに提出されているはずだった」


「観測して、分類して、危険度を判断して」


「そして――」


 一拍。


「消すか、使うか決められる」


 ガイはあくびをした。


「めんどくせぇな」


「そういう問題じゃない」


 少女の声が少しだけ強くなる。


「私はそのために作られた」


 風が止まる。


「作られた?」


「私は“人間”じゃない」


 沈黙。


 少女は自分の手を見る。


 白くて、傷ひとつない手。


「私は記録層から作られた“観測体”」


「過去に存在した誰かの記録を元に、再構築されたもの」


 ガイはじっと見ている。


「だから、名前がない」


 小さく笑う。


「誰の人生を使ってるのかも、知らないから」


 静寂。


 ガイはぽつりと言った。


「じゃあ今は?」


「……何?」


「今は、お前は何なんだ?」


 少女は答えられない。


 その代わり、遠くを見る。


「私はずっと“正しい選択”をするために存在していた」


「無駄な記録を削ること」


「効率よく未来を残すこと」


「間違った可能性を消すこと」


 ゆっくりと息を吐く。


「でもさっき」


 声が震える。


「あなたを“消すべきだ”って判断したのに」


 一拍。


「できなかった」


 沈黙。


 ガイは少し考えて、


そして言う。


「腹減ってたからじゃね?」


「違う」


 即答だった。


 でも、そのあと少しだけ笑った。


「……たぶん、違う」


 少女はガイを見る。


「あなたは“記録されない”」


「だから、本当は存在しないはず」


「でも、いる」


 一歩、近づく。


「それを見たとき」


 言葉を探す。


「初めて、“正しさ”がわからなくなった」


 風が戻る。


 ガイは腕を組む。


「じゃあさ」


「もうやめればいいじゃん、その仕事」


 少女は少し驚いた顔をする。


「そんな簡単に言う?」


「簡単だろ」


 ガイは笑う。


「腹減ったら食うし、邪魔されたら殴る」


「それで今まで生きてる」


 少女はしばらく黙っていた。


 そして、小さく言う。


「私はそれができない」


「どうして?」


「私は“目的”でできてるから」


 静かな言葉だった。


「でも」


 一拍。


「今、初めてそれを裏切った」


 空気が変わる。


 遠くで“何か”がこちらを見ている。


 少女は顔を上げる。


「たぶん、もう戻れない」


「戻るってどこに?」


「向こう側」


 ガイはあっさり言う。


「じゃあこっち来いよ」


 沈黙。


 少女は少しだけ目を見開く。


「……いいの?」


「いい」


「私は監視者だよ?」


「今は違うんだろ?」


 一瞬。


 少女の中で、何かが決まる音がした。


 ゆっくりと、うなずく。


「……じゃあ、決める」


 空を見上げる。


「私はもう、“正しい記録”を選ばない」


 一拍。


「あなたと一緒に、“残らない方”を選ぶ」


 風が吹く。


 遠くで、巨大な影が動く。


 それはもう、確実にこちらを敵として認識している。


 ガイは笑う。


「よくわかんねぇけど」


「飯あるならいいや」


 少女は小さく笑った。


「……ほんと、そればっか」


 そして、言う。


「じゃあ、最初の目的地を決める」


 空間の奥を指さす。


「星核の中心じゃない」


「もっと手前」


 一拍。


「“最初に消された星”に行く」


 ガイは首をかしげる。


「そこ、飯ある?」


「たぶん、世界の“残りカス”がある」


「じゃあ行く」


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