第4話 「星は、記録だった」
そこは“外”と呼ばれていた場所だった。
だが正確には、外ではない。
境界のない空間。
上下も、左右も、距離という概念すら曖昧な領域。
足元には地面があるようで、ない。
立っているというより、“そこにある”という感覚だけが残っていた。
「……変なとこだな」
ガイはあくびをした。
「落ち着かない」
少女は静かに答える。
「ここは“記録層”に近い場所」
「記録層?」
少女は少し間を置いた。
そして、空間に手をかざす。
すると“世界”が一枚だけ剥がれた。
紙ではない。
映像でもない。
もっと曖昧な、“事実の断片”。
そこには村があった。
ガイがいた村ではない。
少し違う村。
人の配置も、家の形も、微妙に違う。
「……これ、オレの村?」
「違う」
少女は即答する。
「でも“あなたの村だったかもしれない村”」
ガイは首をかしげる。
「意味わかんねぇ」
「それが正常」
少女は続ける。
「この星は、ひとつの“現実”じゃない」
「複数の記録が重なってできている」
空間が揺れる。
また別の風景が重なる。
同じ村。
でも今度は全員が死んでいる。
「現実は一つじゃないのか?」
ガイの声は珍しく真面目だった。
少女は少しだけ悲しそうに言う。
「違う」
「この星は“選ばれた記録だけが残る構造”」
沈黙。
「選ばれた?」
「誰に?」
少女は空を見た。
そこには何もない。
しかし“何かが見ている”気配だけがある。
「星喰い連盟」
その名前が出た瞬間、空間が一瞬だけ重くなった。
「彼らは星を食べているわけじゃない」
少女は言う。
「記録を選別している」
「良い未来だけ残し、悪い未来を削除する」
「その結果として“星が消える”」
ガイはぽかんとした。
「じゃあ、あいつらいい奴じゃね?」
少女は首を振る。
「違う」
「選別は“正しさ”じゃない」
「彼らの都合」
空間がまた揺れる。
今度は“ガイが存在しない村”が映る。
誰も彼を知らない世界。
ガイはそれを見て、少しだけ黙った。
「……オレ、いない方がいい世界もあるってことか?」
少女は一瞬だけ迷い、
そして言う。
「ある」
沈黙が落ちる。
そのときだった。
空間の奥で“音”がした。
ガラスが割れるような、しかし物理ではない音。
「見つかった」
少女の声が低くなる。
空間の向こう側に“影”が立っていた。
白い監視者ではない。
もっと深い。
もっと“古い”。
それは言った。
「観測外領域に干渉確認」
「記録層への侵入を検知」
少女は一歩下がる。
「まずい……直接来た」
ガイは首をかしげる。
「これ、敵?」
「敵という概念より上」
少女は答える。
「この世界を“定義している側”」
空間が歪む。
現実の“選択肢”が消えていく。
影は続ける。
「異常存在:ガイ」
「削除ではなく、再定義対象」
ガイはぼんやり聞いていた。
「削除と再定義って何が違うんだ?」
少女は小さく言う。
「消すか、書き換えるか」
ガイは少し考えて、
そして言った。
「どっちも腹は減るな」
その瞬間だった。
影が“ガイ”を見た。
正確には、ガイという存在の“外側”を見た。
「異常」
「論理外存在」
空間が震える。
少女が叫ぶ。
「ガイ、離れて!」
だが遅い。
影が“手”を伸ばす。
触れたのはガイではない。
ガイという“定義”そのもの。
世界が一瞬だけ止まった。
そして次の瞬間。
影がわずかに“揺らいだ”。
「……認識エラー?」
少女が息を呑む。
ガイはただ立っている。
何もしていない。
ただ、そこにいるだけ。
影は初めて理解できないものに触れたように沈黙する。
少女は小さく呟く。
「やっぱり……」
「あなたは“記録されない”」
ガイは笑った。
「それ、飯にできる?」




