第24話「ミナの戦い」
光が、消えた。
夜が戻る。
静かすぎるほどの静寂。
その中心に、ミナは立っていた。
「……逃がしたか」
回収者が、淡々と言う。
その視線が、ミナに向く。
「では、次だ」
足が、一歩前に出る。
それだけで。
空気が、重くなる。
だが、ミナは動かない。
逃げない。
震えてもいない。
「……うん」
小さく頷く。
「次は、私だよね」
回収者は、少しだけ目を細める。
「理解が早い」
「効率的だ」
ミナは、ふっと笑った。
「効率ってさ」
「好きじゃないんだよね」
指先に、光が灯る。
弱い光。
今までのような強さはない。
もう、ほとんど残っていない。
それでも。
消えてはいない。
「それ、まだ使うのか」
回収者が言う。
「出力は低い」
「持続も不可能」
「意味がない」
ミナは、首を振る。
「意味は、自分で作るの」
光が、ゆっくり広がる。
だがそれは、攻撃じゃない。
空間を“なぞる”ように。
優しく。
丁寧に。
「……また座標固定か」
「学習しないな」
回収者が手を上げる。
終わらせるための動き。
速い。
避けられない。
その瞬間。
「――違うよ」
ミナが言った。
光が、揺れる。
「これは、“合わせる”んじゃない」
回収者の手が、止まる。
ほんのわずかに。
「“ズラす”の」
次の瞬間。
回収者の手が、ミナの体を――
すり抜けた。
「……?」
初めて。
回収者が、明確に反応する。
「位相を……外した?」
ミナの呼吸が荒くなる。
限界は近い。
でも。
笑っている。
「ちょっとだけ、分かってきた」
足が、震える。
それでも、一歩前へ出る。
「あなた、“ここにいない”んでしょ?」
回収者は、黙る。
「だから、“合わせる”と負ける」
「だったら」
光が、細く、鋭くなる。
「ズラせばいい」
踏み込む。
遅い。
力も弱い。
でも。
――当たる。
光が、回収者の肩をかすめる。
「……干渉された、だと」
回収者の目が、わずかに変わる。
「理論を理解したわけでもないのに」
「感覚で再現したのか」
ミナは、息を吐く。
「理屈は分かんないよ」
「でもさ」
少しだけ、遠くを見る。
リオと、ガイがいた場所。
「二人と合わせると、当たるの」
「だったら、一人でもやれるって思った」
その言葉に。
ほんのわずか。
回収者の沈黙が伸びた。
「……非効率だ」
そう言いながらも。
その立ち姿は、少しだけ変わっていた。
最初よりも。
“警戒”している。
「評価を、再修正する」
「個体名:ミナ」
「予測外要素として記録」
ミナは、笑う。
「ありがとう」
「褒められた」
だが。
その直後。
膝が、崩れた。
「……っ!」
限界。
光が、一気に弱くなる。
「やはり、持続不能」
回収者が歩く。
今度は、確実に終わらせる距離。
「ここまでだ」
ミナは、立てない。
呼吸も浅い。
でも。
顔だけは、上げる。
「……うん」
静かに言う。
「ここまで」
その言葉に。
ほんの少しだけ、“違和感”があった。
回収者が止まる。
「……?」
その瞬間。
ミナの足元。
微かに残っていた光が、つながる。
線になる。
円になる。
「最初から、“時間稼ぎ”なんだよ」
ミナが、微笑む。
「一人で勝てるなんて、思ってない」
光が、完成する。
それは。
巨大な“転移陣”。
回収者の足元まで、巻き込んでいる。
「……なるほど」
回収者が、理解する。
「自分ごと、巻き込むか」
ミナが、頷く。
「うん」
「一人じゃ、意味ないから」
光が、弾ける。
――バチン!!
一瞬の閃光。
次の瞬間。
そこには、誰もいなかった。
別の場所。
崩れた建物の影。
ミナが、地面に倒れ込む。
「……っ、は……」
呼吸が、荒い。
視界が、ぼやける。
でも。
生きている。
「……よかった」
小さく、笑う。
その直後。
「本当に、そうか?」
声。
すぐ後ろ。
振り向く。
そこに――
回収者が、立っていた。
「転移の精度は高い」
「だが」
「“完全ではない”」
ミナの顔から、血の気が引く。
「……うそ」
回収者が、一歩近づく。
「だが評価する」
「ここまで到達した個体は、初めてだ」
手を、伸ばす。
今度こそ、終わる。
その瞬間。
ミナは、目を閉じた。
――そして。
微かに、笑った。
「……うん」
「それでいい」
その言葉の意味。
回収者が理解するより早く。
遠くから。
“二つの気配”が、急速に近づいてくる。
回収者の目が、わずかに動く。
「……来たか」
ミナが、ゆっくり目を開ける。
ボロボロのまま。
それでも。
「時間、稼いだよ」
小さく、呟く。
――一人では勝てない。でも、一人でも戦える。




