第23話「条件付き撤退」
空が、軋んでいた。
ひび割れた夜空の下。
三人と“回収者”が向き合う。
静かに。
だが、決定的に噛み合わない世界同士のように。
「なら、少し本気で回収しよう」
その一言で。
空気が、変わった。
――重い。
立っているだけで、体が沈む。
「……っ、なんだこれ……」
ガイの膝が、わずかに落ちる。
ミナの光が、不安定に揺れる。
リオの中の“黒い力”が、逆に強く反応する。
「共鳴してるのか」
回収者が観察する。
「やはり危険だな、それは」
一歩。
踏み出す。
それだけで。
距離が、消える。
リオの目の前。
手が伸びる。
「回収する」
避けられない。
そう理解した瞬間。
「させない!!」
ミナが叫んだ。
光が、爆ぜる。
今までで一番強い光。
だが、攻撃じゃない。
広がる。
空間そのものに。
「……っ、これは」
回収者の手が、わずかに止まる。
「座標の固定……?」
ミナの額から汗が流れる。
「二人とも!!」
「今しかない!!」
ガイが動く。
力任せじゃない。
“合わせる”。
ミナの光のリズムに。
空間が、ほんの一瞬だけ“揃う”。
その瞬間。
「当たる!!」
拳が、届く。
――ドン!!
回収者の体が、わずかに揺れる。
初めて。
本当に、当たった。
「……なるほど」
回収者の目が、少しだけ細くなる。
その隙。
リオが踏み込む。
黒い力が、揺れる。
制御はできていない。
だが。
「……行くぞ」
拳を振り抜く。
――ドォン!!
今度は、確かに手応えがあった。
回収者の体が、数歩後ろに下がる。
静寂。
ほんの一瞬の、均衡。
だが。
「評価を修正する」
回収者が言う。
「脅威度を、一段階引き上げる」
その言葉と同時に。
空の亀裂が、一斉に光る。
嫌な予感が、全身を走る。
「……やばい」
ガイが呟く。
「これ、次来たら終わるぞ」
ミナの光が、限界に近い。
リオの体も、もう持たない。
回収者は、理解している。
だからこそ。
「ここで終わらせる」
手を、再び上げる。
その時。
「――リオ」
ミナが、静かに呼ぶ。
振り向く。
ミナの目は、決まっていた。
「逃げるよ」
ガイが言う。
「は?」
リオが眉をひそめる。
「無理だろ、今」
「無理じゃねぇ」
ガイが笑う。
「“条件付き”だ」
その言葉の意味。
理解するより早く。
ミナが動いた。
光が、収束する。
広がっていた光が、一点に集まる。
リオの足元。
そして。
「……っ、やめろ、ミナ!」
リオが気づく。
これは。
“逃げるための光”じゃない。
“残るための光”だ。
「二人で行って」
ミナが、静かに言う。
「時間、稼ぐから」
空気が、凍る。
「ふざけんな!!」
ガイが叫ぶ。
「一人で残る気かよ!!」
「一人じゃないよ」
ミナが笑う。
「“光”は、残るから」
意味の分からない言葉。
でも。
覚悟だけは、伝わる。
回収者が、淡々と言う。
「無意味だ」
「その程度の干渉で、時間は稼げない」
「分かってるよ」
ミナが、答える。
「でも」
リオを見る。
「二人がいれば、意味になる」
沈黙。
リオの拳が震える。
ガイが歯を食いしばる。
「……行くぞ、リオ」
ガイが低く言う。
「今ここで全滅する方が、意味ねぇ」
リオは、動かない。
ミナが、最後に言う。
「お願い」
その一言で。
リオは、目を閉じた。
そして。
「……絶対、戻る」
それだけ言って。
ガイと共に、後ろへ跳ぶ。
同時に。
ミナの光が、爆発する。
――視界が、白に染まる。
次の瞬間。
二人は、かなり離れた場所にいた。
息が荒い。
「……クソが」
ガイが地面を殴る。
「置いてきちまった……!」
リオは、何も言わない。
ただ。
自分の手を見る。
黒い力が、わずかに震えている。
「……ミナ」
小さく呟く。
その時。
遠くの空。
光が、弾けた。
そして。
――消えた。
一方、その場。
光が消えた後。
そこには。
何もなかった。
ただ一人。
回収者だけが、立っている。
「……逃がしたか」
感情のない声。
そして、足元を見る。
そこに、わずかに残る“光の欠片”。
「完全消失ではないな」
拾い上げる。
「興味深い」
空を見上げる。
「優先対象、変更」
静かに言う。
「“回収対象”は――」
一拍。
「リオから、“三名”に拡張する」
――代償は、“分断”。




