第25話「ズレの正体」
風が、遅れて届いた。
ミナの髪が、わずかに揺れる。
その直後。
――ドン!!
ガイが着地した。
「ミナ!!」
すぐに駆け寄る。
「……遅いよ」
ミナが、かすかに笑う。
「ギリギリだろ」
ガイが言い返す。
その後ろ。
リオが、静かに立つ。
視線は、ただ一つ。
回収者。
「……来たか」
回収者が言う。
「三体、再集結」
その声に。
ほんのわずか、違和感があった。
リオが、それを逃さない。
「……三体?」
ガイが眉をひそめる。
「おい、なんだその言い方」
回収者は答えない。
ただ、構える。
「まとめて回収する」
空気が、また重くなる。
だが。
今度は、違う。
リオは、一歩も引かない。
「……ミナ」
低く呼ぶ。
「動けるか」
「……ちょっとだけ」
ミナが息を整える。
「ヒント、あるよ」
その一言で。
空気が変わる。
ガイが振り向く。
「は?」
リオの目が、細くなる。
「……何だ」
ミナが、ゆっくり言う。
「“合わせる”と負ける」
「でも、“ズラす”と当たる」
ガイが顔をしかめる。
「いや、さっき聞いたけど意味わかんねぇって」
「いいから聞いて」
ミナが続ける。
「たぶんあいつ、“ここにいない”」
沈黙。
リオが、わずかに目を動かす。
「……続けろ」
「完全には、ね」
ミナが言う。
「だから、私たちと“ズレてる”」
「だから当たらない」
ガイが、拳を握る。
「じゃあ、どうすりゃいい」
ミナが、リオを見る。
「リオなら、できる」
「……は?」
ガイが振り向く。
リオは、黙っている。
だが。
心の中で、何かが繋がる。
あの時。
ガイの拳が、当たった瞬間。
ミナの光が、通った瞬間。
そして。
自分の“黒い力”。
「……共鳴」
小さく呟く。
回収者の目が、わずかに動く。
「……気づいたか」
その一言。
それだけで、確信に変わる。
「やっぱりな」
リオが前に出る。
「お前、“位相をずらしてる”んじゃない」
「“ズレてる場所にいる”」
回収者が、初めて明確に反応した。
「……解析したか」
「不完全だが、正しい」
ガイがイラつく。
「だから何だよ!」
リオが言う。
「合わせる必要はない」
拳を握る。
黒い力が、揺れる。
「引きずり下ろせばいい」
ミナが、笑う。
「それ、それ」
ガイがニヤリとする。
「分かりやすくなったな」
回収者が、静かに構える。
「理論を理解したところで、再現は不可能だ」
「その力は、不安定」
「制御できていない」
リオは、答えない。
ただ。
一歩、踏み出す。
「……だから使うんだよ」
黒い力が、膨らむ。
揺れる。
危険なほどに。
ミナが、すぐに言う。
「ガイ!」
「任せろ!!」
ガイが前に出る。
単独で突っ込む。
力任せじゃない。
“ぶつける”。
回収者に対して。
ズレたままでもいい。
“揺らす”ために。
――ドン!!
衝撃。
完全には当たらない。
でも。
空間が、歪む。
「今!!」
ミナの光が走る。
今度は、合わせない。
わざと、ズラす。
ズレに、干渉する。
回収者の輪郭が、わずかに“ブレる”。
「……っ」
初めて、動きが鈍る。
その瞬間。
リオが、踏み込む。
「……来いよ」
黒い力が、爆ぜる。
制御は、していない。
むしろ。
“ズレに合わせる”。
自分の方を、崩す。
「……危険だな」
回収者が言う。
「自己崩壊を選ぶか」
「違う」
リオが答える。
「引きずり込むだけだ」
拳を、振り抜く。
――ドォン!!
今度は。
明確に、当たった。
回収者の体が、大きく揺れる。
足が、地面を踏む。
“ここにいる”。
初めて。
完全に。
「……固定された、だと」
回収者の声に、初めて“焦り”が混じる。
ガイが笑う。
「触れるなら、殴れる!!」
追撃。
連打。
ミナの光が補助する。
三人の動きが、完全に繋がる。
回収者が、後退する。
初めての“劣勢”。
だが。
次の瞬間。
回収者の表情が、戻る。
「なるほど」
静かに言う。
「理解した」
その声で。
嫌な予感が走る。
「その方法は」
「長くは持たない」
リオの体が、軋む。
黒い力が、暴れ始める。
「……っ!」
「やっぱりな」
回収者が言う。
「それは、“維持できない”」
そして。
一歩、引く。
距離を取る。
「本日の回収は、ここまでとする」
ガイが叫ぶ。
「逃げんのかよ!!」
「非効率だ」
回収者が答える。
「次は、対策済みで来る」
ミナの顔が強張る。
「……学習するってこと?」
「当然だ」
回収者が、淡々と告げる。
「お前たちは、既に“観測済み”だ」
その体が、ゆっくりと薄れていく。
「次は、回収する」
完全に消える直前。
リオを見て言う。
「その力――」
一拍。
「お前を壊す」
そして。
消えた。
静寂。
今度こそ、本当の静けさ。
ガイが息を吐く。
「……はぁ……生きてるか」
「なんとか……」
ミナが座り込む。
リオは、動かない。
ただ、拳を見ている。
黒い力が、まだ揺れている。
「……分かった」
小さく呟く。
「勝てる」
ガイが笑う。
「おう」
「でも」
リオが続ける。
「長くは戦えない」
ミナが頷く。
「うん」
「だから」
三人が、同時に前を見る。
「次で、決める」
――弱点は、“時間”。




