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星を食べる少年  作者: 臥亜


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第2話 「名前のない少女」

 その朝、村は静かだった。


 静かすぎて、逆に怖いくらいだった。


 昨日まであれほど騒がしかったのに、誰も外に出ていない。


 壊れた家の修復も進んでいない。


 ただ、空気だけが変わっていた。


「……変な朝だな」


 ガイは欠伸をしながら岩を探していた。


 昨日の戦いのあとでも、腹は普通に減る。


 むしろ、いつもより減る。


「なんか、薄いんだよなぁ……全部」


 岩を拾う。


 かじる。


 やっぱり味がしない。


「おかしいな」


 そのときだった。


「それ、食べても意味ないよ」


 声。


 ガイは振り向いた。


 そこにいたのは、少女だった。


 白い布をまとい、裸足で立っている。


 村の誰とも違う雰囲気。


 “ここに属していない存在”だった。


「誰だお前」


「名前はまだない」


「は?」


 少女は少しだけ首をかしげた。


「呼ばれていないから」


「変なやつだな」


 ガイはまた岩をかじる。


「お前も食うか?」


「食べない」


 即答だった。


 少女はガイを見つめていた。


 正確には、“見ているようで見ていない”。


 その視線は、少しズレていた。


「あなた、昨日“回収者”を壊した」


「あー、あれな。なんか勝手に壊れた」


「違う」


 少女は一歩近づいた。


 空気が少し重くなる。


「あなたが壊した」


「そうか?」


「そう」


 短い沈黙。


 ガイはようやく岩をやめた。


「で、お前は何しに来たんだ?」


 少女は答えなかった。


 代わりに、空を見た。


「この星、もう長くない」


「は?」


「昨日、少し“減った”」


 ガイは眉をひそめる。


「減るって何が?」


「存在」


 風が止まった気がした。


 少女は続ける。


「回収者は、星核を集める存在」


「それを止めるものはいなかった」


「でもあなたは違う」


 ガイは頭をかく。


「よくわかんねぇな」


「あなたは――」


 少女は一拍置いた。


「星核を“食べている”」


 その言葉に、空気が変わった。


 村の奥で、誰かが息を呑む音がした。


 ガイは笑う。


「さっきもそれ言われたな」


「でもオレ、ただ腹減ってるだけだぞ?」


 少女は初めて、わずかに表情を変えた。


「それが問題」


 その瞬間だった。


 少女の背後の“空間”が歪んだ。


 音が遅れる。


 地面がひび割れる。


「……来る」


 少女が小さく言った。


「何が?」


「“監視”」


 空が裂けた。


 昨日の回収者とは違う。


 もっと“整っている”。


 もっと“完成されている”。


 白い鎧。


 複数の光輪。


 声は一つではなく、重なっていた。


「観測対象確認」


「異常存在を確認」


「削除対象を修正」


 村の空気が一瞬で消えた。


 子どもの泣き声が止まる。


 風が止まる。


 少女が一歩前に出た。


「逃げて」


 ガイは首をかしげる。


「なんで?」


「あなたはまだ“知らない”」


「何を?」


 少女は振り向いた。


 初めて、はっきりとガイを見た。


「あなたが、この星にとって“何か”だということ」


 白い存在が手を上げる。


 空間が圧縮される。


 村が“消え始める”。


 そのときだった。


 ガイの腹が鳴った。


「ぐぅ〜」


「……今?」


 少女が一瞬だけ目を見開いた。


 ガイは前に出る。


「邪魔すんなよ」


 白い存在が反応する。


「低位生命体。無価値」


「うるせぇ」


 ガイは拳を握った。


「飯の邪魔すんなって言ってんだよ」


 次の瞬間。


 空間が“抜けた”。


 殴ったのではない。


 そこにあった“圧力そのもの”が消えた。


 白い存在の一部が崩れる。


「……不可解」


「エネルギー反応なし」


「だが崩壊が発生」


 少女が小さく呟く。


「やっぱり」


「何がだよ」


 ガイは振り返る。


 少女は答えた。


「あなたは、星核を“食べている”んじゃない」


「違うの?」


「もっと悪い」


 一拍。


 空気が凍る。


「あなたは――星核を“無かったことにしている”」


 沈黙。


 ガイはしばらく考えてから言った。


「それ、うまいのか?」


「……最悪」


 白い存在が再構築を始める。


 少女は静かに手を上げた。


「もう戻れない」


「何が?」


「この星の“ルール”」


 そして少女は言った。


「私はあなたを監視するために来た」


「でも今は違う」


 ガイを見る。


 初めて、感情のある目で。


「あなたを“止めるか、利用するか”を決める」


 風が吹く。


 村が、少しだけ“軽く”なる。


 ガイは笑った。


「面白いこと言うな」


「そう?」


「でもさ」


 拳を握る。


「腹減ってるから、どっちでもいいや」


(第2話・終)


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