第19話「静かな違和感」
風が、抜ける。
戦いの跡。
土は抉れ、空気はまだ熱を残している。
その真ん中で。
三人が、座っていた。
リオ。
ガイ。
ミナ。
誰も、戦っていない。
ただ、そこにいる。
「……で」
リオが、口を開く。
寝転んだまま、空を見ている。
「……結局、俺の勝ちでいいのか?」
ガイが、即答する。
「負けてただろ」
間髪入れず。
リオが、顔をしかめる。
「最後立ってたのは俺だぞ」
「気絶してただけだろ」
「寝てただけだ」
「都合いいな」
ミナが、小さく笑う。
「二人とも、ボロボロのくせに」
その言葉で。
少しだけ、空気が緩む。
いつもの感じ。
戦いは、終わった。
そう思える時間。
ミナが、そっと。
リオの手を取る。
自然に。
何も言わずに。
リオも、振り払わない。
そのまま。
握られる。
温もり。
確かな、生。
ガイが、その様子を横目で見る。
何も言わない。
ただ。
少しだけ、目を細める。
そのとき。
ドクン。
一瞬。
リオの指が、強く動く。
ミナの手を、握り返す。
ぎゅっと。
強く。
「……っ」
ミナの眉が、わずかに寄る。
痛いほどじゃない。
でも。
“強すぎる”。
リオが、気づかない。
普通に話を続ける。
「……でさ、あの時お前」
ガイが、遮る。
「リオ」
短く。
リオが、見る。
「……なんだよ」
ガイは、リオの手を見る。
ミナの手を、握っているその手。
「……力、抜け」
リオが、視線を落とす。
自分の手。
ミナの手。
気づく。
「あ……悪い」
力を、緩める。
ミナが、少しだけ笑う。
「大丈夫」
でも。
その目に、ほんのわずかな違和感。
ガイは、それを見逃さない。
沈黙。
数秒。
リオが、頭を掻く。
「……なんか、変だな」
「体が、重いっていうか」
ガイが、すぐに反応する。
「どこだ」
「いや、なんつーか……」
リオが、言葉を探す。
「……中に、なんか残ってる感じ」
ミナの手が、少し強くなる。
握る。
離さない。
ガイの目が、鋭くなる。
「……残滓か」
小さく呟く。
リオが、顔をしかめる。
「残滓ってなんだよ」
ガイは、答えない。
代わりに。
じっと、リオを見る。
そのとき。
リオの影が、揺れる。
ほんの一瞬。
黒く、歪む。
誰も、見ていない。
いや。
ガイだけが、気づく。
「……」
何も言わない。
今は。
言わない。
ミナが、リオの手を握る。
優しく。
「……大丈夫だよ」
リオが、笑う。
「ああ」
軽く。
でも。
その奥。
ほんの少しだけ。
“何か”が、笑っていない。
風が、吹く。
三人の影が、揺れる。
その中で。
一つだけ。
リオの影だけが。
ほんの少しだけ。
遅れて、動いた。




