第17話「壊して守る」
白。
何もない。
音も、感覚も、消えている。
ただ。
“心臓の音”だけが響く。
ドクン。
ドクン。
「……まだ足りない」
声。
リオの中から、聞こえる。
ドクン。
「守れてない」
ドクン。
「全部、壊せ」
――その瞬間。
視界が、戻る。
爆風。
地面が、めくれている。
ミナが、吹き飛ばされる寸前。
ガイが、崩れ落ちている。
怪物が、腕を振り下ろす。
「……遅い」
リオが、そこにいた。
いつの間にか。
怪物の目の前に。
ピタリと、止まっている。
空気が、静止する。
怪物が、わずかに動く。
その瞬間。
――消えるのは、“怪物の方”だった。
ドォンッ!!!
地面の遥か向こうで、爆発。
「……は?」
ミナが、呟く。
何が起きたのか分からない。
リオが、ゆっくりと歩く。
足音が、やけに重い。
目が――
変わっている。
光が、ない。
「……リオ?」
ミナが、呼ぶ。
反応がない。
ガイが、顔を上げる。
「……違う」
低く、言う。
「そいつ……今」
言葉を、切る。
“分かってしまったから”。
怪物が、立ち上がる。
損傷している。
だが、再生していく。
「――排除対象、強化確認」
無機質な声。
再び、構える。
リオが、止まる。
そして。
「……邪魔だ」
呟く。
その一言。
空気が、軋む。
次の瞬間。
消えた。
ドゴォッ!!!
怪物の体が、折れる。
あり得ない角度に。
間に合っていない。
防御も、回避も。
ただ、“壊された”。
「――損傷、拡大」
声が、乱れる。
だが。
まだ、動く。
腕が伸びる。
“穴”が、開く。
リオを、飲み込もうとする。
「リオ!!」
ミナが、叫ぶ。
だが。
リオは、避けない。
むしろ。
“自分から入る”。
ズブッ
腕が、“穴”に入る。
普通なら、消える。
存在ごと、削られる。
だが。
「……だからどうした」
リオの声。
冷たい。
次の瞬間。
バキィッ!!!
“穴”が、割れる。
内側から。
「――機能、崩壊」
怪物の声が、歪む。
リオが、そのまま引き裂く。
体ごと。
ドォォン!!!
爆発。
森が、揺れる。
静寂。
怪物の気配が、消える。
完全な沈黙。
ミナが、震えながら立つ。
「……勝った?」
誰も、答えない。
リオが、そこに立っている。
無傷。
でも。
何かが、違う。
「……リオ?」
近づく。
ゆっくり。
怖がりながら。
リオが、顔を向ける。
その目。
“誰も映していない”。
「……誰だ」
その一言。
世界が、止まる。
ミナの顔が、凍る。
「……え?」
リオが、首を傾ける。
「なんで、泣いてる」
ガイが、歯を食いしばる。
「……おい」
「やめろよ、それ」
リオが、ガイを見る。
でも。
そこに“認識”がない。
「……邪魔だな」
一歩、踏み出す。
ミナの前に立つ。
距離、ゼロ。
手を、持ち上げる。
「リオ……?」
理解が、追いつかない。
でも。
本能が、叫ぶ。
“逃げろ”
動けない。
その瞬間。
ガイが、割り込む。
ドンッ!!
残った腕で、止める。
「……いい加減にしろ」
低い声。
怒り。
リオの動きが、止まる。
「……なんだ、お前」
ガイが、睨む。
「それ、テメェじゃねぇだろ」
沈黙。
数秒。
長い、時間。
リオの目が、わずかに揺れる。
「……ガイ」
その名前。
ほんの一瞬だけ。
“戻る”。
だが。
すぐに、消える。
「……消えろ」
拳が、動く。
ガイが、歯を食いしばる。
受ける。
吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
「がっ……!!」
ミナが、叫ぶ。
「やめて!!」
その声。
リオの動きが、止まる。
完全に。
空気が、張り詰める。
「……ミナ」
名前を、呼ぶ。
震える声で。
目が、戻りかける。
「……俺……」
その瞬間。
ドクン。
心臓が、強く鳴る。
黒い気配が、再び溢れる。
「……っ!!」
頭を押さえる。
苦しむ。
「……やばい」
ガイが、呟く。
「それ……止まらねぇやつだ」
リオが、叫ぶ。
「……来るな!!」
ミナが、涙を流す。
「リオ!!」
リオが、歯を食いしばる。
「……逃げろ」
震える声。
「今の俺……」
顔を上げる。
完全に、壊れかけている。
「全部、壊す」
沈黙。
風が、止まる。
ミナが、一歩も動かない。
ガイが、立ち上がる。
フラフラで。
それでも。
前に出る。
リオの前に。
「……だったら」
低く言う。
「俺が止める」
その目。
完全に、覚悟。
リオが、笑う。
壊れたまま。
「……やってみろよ」
黒い気配が、爆発する。
森が、揺れる。
二人が、構える。
かつての仲間。
今は――
止める者と、壊す者。
その瞬間。
再び、衝突する。




