第15話「壊れる前に」
「その名前を呼ぶな――!!」
ガイの叫びが、空気を裂く。
黒い気配が、爆発する。
地面が、砕ける。
ミナが、吹き飛ぶ。
「きゃっ――!!」
リオが、即座に動く。
抱き止める。
「ミナ!!」
「……だい、じょうぶ……」
声が、震えている。
だが、その目は――
ガイを見ている。
逸らさない。
「ガイ……」
もう一度、呼ぶ。
優しく。
壊れないように。
その一言が。
ガイの動きを、止める。
「……っ」
歯を食いしばる。
頭を押さえる。
「……やめろ」
低く。
絞り出すように。
「……来るな」
ミナが、一歩踏み出す。
リオが、腕を掴む。
「やめろ!!」
「近づくな!!」
必死の声。
でも、ミナは止まらない。
「……大丈夫」
小さく、言う。
「この人は、ガイだから」
リオの目が、揺れる。
その“確信”。
どこから来るのか。
ガイが、顔を上げる。
目が、揺れている。
「……なんで」
かすれた声。
「なんで、そう言える」
ミナが、まっすぐ見る。
「だって」
一歩、近づく。
「さっき、守ってくれた」
沈黙。
風が、止まる。
「……違う」
ガイが、首を振る。
「そんなんじゃねぇ」
「ただの反射だ」
「意味なんてねぇ」
否定。
必死に。
ミナが、さらに一歩。
もう、数歩の距離。
「じゃあ」
静かに言う。
「もう一回やってみて」
リオが、息を呑む。
「ミナ……!」
ガイが、固まる。
「……は?」
ミナが、両手を広げる。
無防備に。
「私を、攻撃してみて」
時間が、止まる。
リオが叫ぶ。
「バカか!!やめろ!!」
ガイの目が、大きく見開く。
「……ふざけんな」
低い声。
怒り。
「死ぬぞ」
ミナが、首を振る。
「ううん」
「死なない」
一歩、踏み込む。
「だって、ガイだから」
沈黙。
完全な静寂。
ガイの手が、震える。
ゆっくりと、持ち上がる。
黒い気配が、集まる。
リオが、動けない。
止められない。
止めたら、全部が壊れる。
「……やめろ」
ガイが、呟く。
誰に向けてか分からない。
「……やめろ……」
でも、止まらない。
力が、集まる。
ミナが、目を閉じる。
「……大丈夫」
小さく、笑う。
その瞬間。
ガイの腕が――
“止まる”
完全に。
あと、数センチ。
それ以上、動かない。
「……っ」
歯が、鳴る。
全身が、震える。
「……できねぇ」
絞り出す声。
「……なんでだよ……!!」
膝が、崩れる。
力が、消える。
黒い気配が、霧のように散る。
「……クソが……」
地面を、叩く。
「なんで……」
「なんで止まるんだよ……!!」
叫び。
それは――
“絶望”じゃない。
“証明”だった。
ミナが、ゆっくりと近づく。
もう、止めるものはない。
リオも、動かない。
ただ、見ている。
ミナが、しゃがむ。
ガイの目の前。
「ほら」
優しく、言う。
「やっぱりガイだ」
ガイの目から。
涙が、落ちる。
本人すら、気づかないまま。
「……知らねぇよ……」
かすれた声。
でも。
否定が、弱い。
ミナが、手を伸ばす。
触れる。
頬に。
「大丈夫」
静かな声。
「思い出せなくてもいい」
「それでも、ガイだから」
その言葉。
深く、沈む。
ガイの中へ。
そのとき。
「――感情確認」
“声”。
空から。
三人の動きが、止まる。
「……?」
リオが、空を見る。
次の瞬間。
ドンッ!!!
“何か”が、落ちてくる。
三人のすぐ近くに。
地面が、陥没する。
衝撃。
空気が、歪む。
土煙の中。
“それ”が、立ち上がる。
顔のない、異形。
関節の多すぎる腕。
黒い“穴”。
「――適合個体、確認」
無機質な声。
ガイを見る。
「――回収対象」
空気が、凍る。
リオが、前に出る。
ミナを、庇う。
ガイが、ゆっくりと立ち上がる。
目が、変わる。
今度は――
“守る側の目”。
「……誰だ、お前」
怪物が、首を傾ける。
「――名称不要」
一歩、踏み出す。
地面が、削れる。
「――排除、または回収」
その瞬間。
三人が、同時に構える。
リオ。
ミナ。
ガイ。
壊れかけた関係。
でも。
まだ、終わっていない。
「……やるぞ」
リオが、低く言う。
ガイが、ニヤリと笑う。
「最初からそうしろよ」
ミナが、震える手を握る。
「……うん」
三人の距離が、ゼロになる。
その瞬間。
怪物が、消える。




