第14話「その名前を呼ぶな」
森が、揺れていた。
衝撃の余波で、
地面がひび割れている。
リオとガイ。
互いに、限界が近い。
息が荒い。
でも、止まらない。
「……はぁ……っ」
リオが、構える。
最後の一撃。
ここで決める。
(これで終わらせる)
ガイも、構える。
黒い気配が、さらに濃くなる。
「……来いよ」
声が、低く沈む。
「終わらせようぜ」
二人が、同時に踏み込む。
その瞬間――
「やめて!!!!」
声が、割り込む。
世界が、止まる。
二人の動きが、止まる。
視線が、そちらに向く。
そこにいた。
ミナ。
息を切らし、立っている。
間に、入っていた。
「……なんで」
リオが、呆然と呟く。
「来るなって言っただろ……」
ミナは、答えない。
ただ、ガイを見る。
まっすぐ。
震えながら。
ガイが、眉をひそめる。
「……どけ」
低い声。
「巻き込まれても知らねぇぞ」
ミナは、動かない。
一歩も。
「……やだ」
小さな声。
でも、はっきりしている。
「どかない」
沈黙。
風が、吹く。
ガイの目が、細くなる。
「……邪魔だ」
黒い気配が、わずかに膨らむ。
「どけって言ってんだよ」
ミナの肩が、びくっと震える。
それでも。
動かない。
「……ガイ」
名前を、呼ぶ。
その瞬間。
空気が、変わる。
ガイの目が、揺れる。
ほんの一瞬。
「その名前を呼ぶな」
低い声。
拒絶。
ミナの目に、涙が溜まる。
「なんで……」
「なんで、そんなこと言うの」
一歩、踏み出す。
ガイの方へ。
リオが、息を呑む。
「ミナ、やめろ……!」
止める。
でも、ミナは止まらない。
「だって、ガイでしょ……?」
震える声。
「ずっと一緒にいたじゃん」
「くだらないことで笑って」
「ごはん食べて」
「バカみたいな話して……」
涙が、こぼれる。
「それが、全部なくなるなんて」
「そんなの……」
「嫌だよ……」
沈黙。
ガイは、何も言わない。
言えない。
その言葉は、
確実に“奥”に届いていた。
「……やめろ」
絞り出すように言う。
「それ以上言うな」
ミナが、首を振る。
「やめない」
「だって、まだいるもん」
「そこに」
ガイの目を、指さす。
「ガイが」
その一言。
完全に、刺さる。
「……っ!!」
ガイの体が、揺れる。
黒い気配が、不安定になる。
ざわつく。
揺れる。
壊れかける。
「……うるせぇ……」
頭を押さえる。
「やめろって言ってんだろ……!!」
声が、割れる。
怒りじゃない。
“崩れ”だった。
「怖いって言ったくせに……!!」
叫ぶ。
ミナの体が、びくっと震える。
でも。
逃げない。
「……怖いよ」
正直に、言う。
「今のガイは、怖い」
沈黙。
でも、続ける。
「でも」
一歩、近づく。
「それでも」
「ガイだから」
その言葉。
完全に、核心だった。
ガイの呼吸が、止まる。
黒い気配が、止まる。
「……なんでだよ」
かすれた声。
「なんで、そんなこと言えんだよ」
理解できない。
拒絶されてもおかしくない。
なのに。
受け入れてくる。
ミナが、笑う。
涙まみれで。
「だって」
「一緒にいたから」
静かな答え。
それだけだった。
沈黙。
長い、長い沈黙。
そして。
ガイの手が、震える。
上げていた拳が――
ゆっくり、下がる。
黒い気配が、薄れていく。
完全ではない。
でも、確実に。
「……くそ」
小さく、呟く。
目を伏せる。
「……わかんねぇよ」
本音だった。
その瞬間。
リオが、動く。
「っ!!」
踏み込む。
一気に距離を詰める。
拳を振り上げる。
(今しかない)
迷いはない。
「終わらせる!!」
振り下ろす――
その瞬間。
ミナが、間に入る。
「やめて!!」
ドンッ!!
衝撃。
時間が、止まる。
リオの拳が、
ミナの目の前で止まっている。
ギリギリ。
本当に、ギリギリで。
「……っ」
リオの腕が、震える。
止めた。
自分で。
「……なんでだよ」
かすれた声。
「なんで、そこまで……」
ミナは、振り向かない。
ただ、言う。
「終わらせないで」
静かに。
「まだ、終わってない」
その言葉が、
三人の間に、残る。




