第13話「決別」
朝だった。
空は、やけに澄んでいた。
リオは、一人で歩いている。
迷いは、ない。
足取りは、重くも軽くもない。
ただ、決まっている。
「……この辺だな」
立ち止まる。
空気が、違う。
静かすぎる。
生き物の気配が、ない。
「出てこい」
低く言う。
返事はない。
でも。
「……来たか」
後ろから、声。
リオは、振り向く。
そこにいた。
ガイ。
木にもたれ、気だるそうに立っている。
「……一人かよ」
軽く言う。
「女はどうした」
リオの目が、細くなる。
「関係ねぇだろ」
ガイが、笑う。
「まぁいいか」
ゆっくり、体を起こす。
「で?」
首を鳴らす。
「何しに来た」
リオは、答えない。
ただ、一歩踏み出す。
その動きだけで、十分だった。
ガイが、理解する。
「ああ」
「そういうことか」
空気が、変わる。
風が、止まる。
「……やる気だな」
リオが、静かに言う。
「止めに来た」
ガイが、笑う。
「止める、ねぇ」
「できんのかよ」
沈黙。
リオは、ただ構える。
答えは、いらない。
「……まぁいい」
ガイも、構える。
黒い気配が、にじむ。
「やってみろ」
その瞬間。
ドンッ!!
二人が、同時に踏み込む。
衝突。
拳と拳。
空気が、爆ぜる。
地面が、沈む。
「っ!!」
リオの歯が、軋む。
重い。
前より、圧倒的に。
「どうした」
ガイが、笑う。
「こんなもんかよ」
押される。
ズズッ、と後ろに滑る。
でも。
「……まだだ」
踏みとどまる。
力を込める。
押し返す。
「おっ」
ガイが、わずかに目を細める。
「やるじゃねぇか」
次の瞬間。
ガイの膝が、突き上がる。
ドンッ!!
リオの腹に直撃。
「ぐっ……!!」
息が、飛ぶ。
体が浮く。
そのまま、叩き落とされる。
ドォン!!
地面に、クレーター。
「終わりか?」
ガイが、見下ろす。
煙の中。
ゆっくりと、リオが立ち上がる。
血を吐きながら。
「……まだだ」
その目は、死んでいない。
ガイの表情が、少しだけ変わる。
「……なんでだよ」
ぽつりと、こぼれる。
「なんで、そこまでやる」
リオが、笑う。
ボロボロのまま。
「決めたからだ」
一歩、踏み出す。
「お前を」
言葉が、震える。
でも、止めない。
「殺すって」
沈黙。
風が、吹く。
ガイの目が、わずかに揺れる。
ほんの一瞬。
でも、確かに。
「……はは」
笑う。
でも、その奥に、
何かが混じる。
「言うじゃねぇか」
黒い気配が、膨れ上がる。
「じゃあ、やってみろよ」
「本気で来い」
「半端なら――」
一歩、踏み込む。
「今度は、殺すぞ」
リオも、踏み込む。
「望むところだ」
再び、衝突。
ドォン!!
今度は、さっきよりも重い。
激しい。
速い。
一撃一撃が、
致命になる。
殴る。
避ける。
ぶつかる。
削る。
その中で。
一瞬。
距離が開く。
息をする。
そのわずかな隙で。
ガイが、言う。
「……なんでだよ」
低く。
「なんで、そこまでして」
リオが、答える。
即答だった。
「お前が、仲間だからだ」
時間が、止まる。
音が、消える。
ガイの目が、見開かれる。
「……っ」
何かが、揺れる。
深く。
でも。
次の瞬間。
「……うるせぇ」
それを、叩き潰す。
黒い気配が、爆発する。
「そういうのが、一番ムカつくんだよ!!」
一気に距離を詰める。
拳を振り抜く。
ドォン!!
直撃。
リオの体が、吹き飛ぶ。
木々をなぎ倒し、転がる。
止まらない。
ようやく、止まる。
動かない。
静寂。
ガイが、ゆっくり歩く。
近づく。
倒れているリオを、見下ろす。
「……終わりだな」
手を、上げる。
トドメ。
その瞬間。
リオの目が、開く。
「……まだだ」
かすれた声。
でも、はっきりしている。
「……っ」
ガイの手が、止まる。
わずかに、震える。
「……なんなんだよ、お前」
理解できない。
倒れているのに。
壊れているのに。
まだ、立とうとしている。
リオが、ゆっくり起き上がる。
「……言っただろ」
血まみれで、笑う。
「止めるって」
その姿は――
完全に、“覚悟した人間”だった。




