第11話「殺す覚悟」
夜だった。
火が、小さく揺れている。
パチ、と木が弾ける音だけが響く。
ミナは、眠っていなかった。
目を閉じているだけ。
眠れるわけがない。
「……なあ」
リオが、ぽつりと呟く。
返事はない。
それでも、続ける。
「聞こえてるだろ」
沈黙。
ミナの指が、わずかに動く。
「……起きてる」
かすれた声。
リオは、火を見たまま言う。
「俺、決めた」
間。
風が、吹く。
「ガイを」
一度、言葉が止まる。
それでも、飲み込む。
「……殺す」
空気が、凍る。
ミナの呼吸が、止まる。
ゆっくり、目を開ける。
「……え?」
理解が、追いつかない。
「なに、言って……」
リオは、振り向かない。
「そのまんまだ」
「もう、あいつは止まらない」
「次は、確実に誰か死ぬ」
拳を、強く握る。
「だったら、その前に――」
「俺がやる」
ミナが、起き上がる。
「やめてよ」
声が、震える。
「そんなの……違う」
リオが、初めて振り向く。
その目は、決まっていた。
「じゃあどうする」
「見逃すのか?」
「また来るぞ」
「今度は、躊躇わない」
言葉が、突き刺さる。
ミナは、何も言えない。
わかっている。
でも、認めたくない。
「……でも」
やっと絞り出す。
「ガイは……」
「ガイなんだよ……」
リオの表情が、わずかに歪む。
「……ああ」
小さく、頷く。
「だから、俺がやる」
静かな声。
「他のやつにやらせない」
「化け物として、殺される前に」
ミナの目から、涙がこぼれる。
「……やだ」
「そんなの……」
「絶対やだ……」
リオが、立ち上がる。
火が、大きく揺れる。
「じゃあ、止めろよ」
「お前が」
ミナが、顔を上げる。
「え……」
リオが、真っ直ぐ見る。
「お前にしか、できねぇだろ」
「でも、お前は怖がった」
沈黙。
その事実は、残酷だった。
ミナの肩が、震える。
「……怖いよ」
本音。
「怖いに決まってる」
「だって……」
言葉が、詰まる。
“殺されるかもしれない”
それを、言えない。
リオが、目を閉じる。
「……だよな」
一歩、歩く。
火から、離れる。
「だから、俺がやる」
決定。
もう、揺れない。
ミナが、叫ぶ。
「待って!!」
リオが、止まる。
振り向かない。
「……なんだ」
ミナが、涙を拭う。
必死に。
「……もし」
声が、震える。
「もし、戻れるなら……?」
その問い。
リオの背中が、わずかに揺れる。
でも。
「その“もし”で、誰か死ぬ」
振り向かないまま、答える。
「俺は、それを選ばない」
静かに、歩き出す。
ミナが、立ち尽くす。
何もできない。
何も言えない。
ただ、背中が遠ざかる。
「……ガイ」
名前を呼ぶ。
でも、それは届かない。
森の奥。
別の場所。
ガイは、一人で立っていた。
月が、照らす。
黒い気配が、わずかに揺れる。
「……来るな」
誰もいないのに、呟く。
でも――
「来るだろ」
自分で、答える。
リオの顔が浮かぶ。
「……あいつなら」
小さく笑う。
「止めに来る」
拳を、握る。
「いいじゃねぇか」
目が、細くなる。
「やってみろよ」
その表情は――
どこか、期待していた。




