9.王女の密会/後編
「どうしてわかるの?」
ソラリスは大きく目を瞠る。
レジナルドには最低限の情報しか渡していない。それなのに、まるでなにもかもを見透かしたかのように話してくるため驚いたのだ。
「状況から判断しただけですよ。ライリー様が国民からの支持を得ることを良く思わない人なんて、そう多くはないでしょう? 王太子本人かその両親――父親は既に亡くなっていらっしゃいますが――、あるいはその支持者ぐらいだと思っていたんです」
婚約の打診に行った日から、レジナルドはある程度の推測を立てていたらしい。ソラリスは素直に感心した。
「俺との婚約をご両親はまだ認めていないですよね?」
「え? ……ええ。検討するとは言われたけれど」
「そうだと思いました。だとすれば、ライリー様のご両親は俺と公の場で会いたくないでしょう。会うことで『婚約が認められた』と報じられたくないでしょうから、内密に城へ呼び寄せるなどして、もっと慎重に事を運ぼうとするはずです。となれば、パーティーに招待をしてきた人物――アニータ様に裏があると考えるのが自然です」
レジナルドが見事に状況を言い当てる。ソラリスは静かに息を呑んだ。
「ねえ、どうしてレジー様は自分の悪評をそのままにしているの? あなたなら払拭するぐらい簡単でしょう?」
前回会ったときにも感じたことだが、レジナルドは決して世間で噂されているような愚かな人間ではない。寧ろ聡明で利発な人物だとソラリスは思う。本人は『俺は世間の噂通りの男です。女好きで遊んでばかりのどうしようもない人間ですから』なんて言っていたが……。
「あれから、あなたについて改めて調べてみたの。主に未亡人や既婚の女性と交際の噂が流れているけど、一緒にいるところを目撃されたことはない。仕事もせずに遊んでばかりだとも言われているけれど、日中あなたはほとんどの時間を王都の外れにある神殿で過ごしている。神官たちに混ざって奉仕活動をするために……違う?」
同意を求めてソラリスが微笑んだものの、レジナルドはほんのりと首を傾げた。
「交際の事実どうこうはさておき、俺が女性好きなのは間違いありませんし、神殿に通っているのは遊んで暮らすためです」
「……つまり、事実も含まれているから否定する必要もないと思っている、ということ?」
「そう受け取っていただいて構いません」
レジナルドがそっと目を細める。ソラリスは思わずため息をついた。
「なんだかもったいないわね。文官になれば、すぐにそれなりのポジションを与えられるでしょうに」
文官の世界ではまずはじめに家柄が重視される。けれど、実力があるものはきちんと引き立てられるし、最終的には能力が高い人間が上に行く。新興貴族であるレジナルドは入庁直後は苦労するかもしれないが、すぐにその可能性を見出されるだろう。
「俺もレイリー様と同じです。俺が評価を受けると困る人がいるんですよ」
レジナルドの微笑がどこか悲しげに見える。ソラリスは目を丸くした。
「なるほど……そういうことだったのね」
レジナルドは伯爵家の三男だ。一番上の兄は爵位を継ぐことが決まっており、二番目の兄共々、現在は文官として働いているらしい。おそらく彼らは能力面でレジナルドに劣るのだろう。兄たちのためにレジナルドが道化を演じる必要はないはずだが、なにかそうせざるを得ない理由があるに違いない。
(確か、レジナルド様だけ後妻の子だったわね)
もしかすると、それが理由だろうか? 現時点ではあまり踏み込むべきではないだろうが……。
「だとしたら、申し訳ないことをしてしまったわね。私との婚約話が出て、ご家族は怒っているでしょう?」
ソラリスはそう言いながら、少しだけ肩を落とす。レジナルドの事情も知らずに話を進めてしまった自分が恨めしくなった。
「いいえ、寧ろ喜んでますよ」
「そうなの?」
ソラリスの返答に頷くと、レジナルドは苦笑を漏らした。
「俺ではライリー様に釣り合わないと言われていることが嬉しいようです。それに、婚約話が出たことで家名の認知度は上がりますし、俺に比べて兄二人は優秀だという噂も出ている――というか、自分たちで流しているみたいですから」
あまりの浅ましさにソラリスは唖然としてしまう。ソラリスの反応にレジナルドは小さく笑った。
「彼らからすれば、どうせ婚約が成立することはないし、自分たちが損をすることはない、ということのようです。……物事を深く考えない人たちですから。ライリー様にお話を聞いたときは『恥をかかされた』と怒り出す可能性もあると思っていたのですが、全然でした」
目頭がツンと熱くなるのを感じながら、ソラリスは「そう」と素っ気なく返事をする。気にしていないふりをしなければ、レジナルドに失礼な気がした。
「本題に戻りましょう。ライリー様の事情はわかりましたので、夜会に同席しても構いませんよ」
「本当に?」
ソラリスは思わず瞳を輝かせる。食いつきの良さに少しだけ驚いた後、ライリーは小さく笑った。
「ええ。ライリー様はこの機会に俺との婚約をご両親に認めてもらいたいでしょうし『懸念事項』への対処もご希望でしょう。気持ちはわかりますし、協力します」
「レジー様……! ありがとうございます」
感激のあまりソラリスがレジナルドの両手を握ると、彼はほんのり眉尻を下げるのだった。




