17.ソラリスの忠告
どっぷりと日が暮れるまで子どもたちに付き合った後、ソラリスはレジナルドと共に神殿に用意してもらった控室に向かう。レジナルドは「暑い」と漏らしつつ、シャツを寛げてからソファに腰掛けた。
部屋にはアスティナと護衛数人だけ入れ、神官たちには外してもらう。神官見習いらしい女性がお茶を運んできたところで、廊下にいる護衛が控室の扉を閉めた。
「それで、ライリー様は俺にどんな忠告しにいらっしゃったんですか?」
そう問いかけられてからようやく、ソラリスは当初の来訪目的を思い出す。
(私としたことがいけない。だって、あまりにも楽しかったから……)
外で子どもたちとボールを思い切り投げあったことを思い出しながら、ソラリスは思わず微笑んでしまう。それから、気を取り直してレジナルドに向き直った。
「私の両親のことよ。どうやら、父はあなたのことをそれなりに気に入ったみたいなの」
「なるほど。それなりに、ね。光栄です」
レジナルドはいたずらっぽく笑いながら、ソラリスを見つめ返す。一国の王に気に入られたというのにこの反応は軽すぎる――そう思いつつも、ソラリスは話を続けることにした。
「それで、あなたのことをしっかり調査をするつもりだと言われたわ。これから本当に結婚について検討してくれるみたい」
「そうですか」
しかし、あまりにも淡々としたレジナルドの様子に、ソラリスはじれったくなってしまう。
「ねえ、もう少し喜んだり驚いたりしても良いんじゃない? 娘の私が言うのもなんだけれど、父は滅多に人を気に入ったりしないし、結婚を検討する段階までこれたのはすごいことなのよ?」
巻き戻る前は結婚候補者すら洗い出せていなかったのだから――とは言わなかったものの、ソラリスはついつい責めるような口調になるのを止めれなかった。
「わかってますよ。ちゃんと驚いていますし、喜んでいます」
「私にはそうは見えないわ」
「本当ですって。ただ、俺についての調査はとっくの昔に始まっていますからね」
レジナルドはそう言ってアスティナや護衛たちの方へチラリと視線をやる。彼らはソラリスのこともレジナルドのことも見ず、どこか虚空を見つめていた。
(――それはまあ、当然のことよね)
ソラリスの両親が音頭を取らずとも、報道が出た時点で結婚相手候補であるレジナルドの素性調査がなされるのは自明の理だろう。ソラリスの側近たちは調査の直接の担当ではないはずだが、収集した情報を渡しているに違いない。彼ら以外にも、レジナルドの周辺で調査官が動き、調べている、ということのようだ。
「そう……あなたはちゃんと気づいていたのね」
「ええ。それはもう、国民の至宝であるライリー様の結婚相手ですから。下手な男に嫁いで苦労を味わわせたくないと思うのは当然です」
レジナルドがそう言うと、アスティナたちはどこか安心したような表情を浮かべる。おそらく彼らは密かに良心の呵責と戦っていたのだろう。レジナルドに対する申し訳なさも感じているだろうが、一番はソラリスを裏切っているようで怖かったはずだ。ソラリスは怒っていないことを示すために、ふわりと目を細めた。
「あなたは心が広いのね。自分を調べられるなんて、嫌という人が多いでしょうに。それとも、本当は素行不良じゃないから、調べられても怖くないということかしら?」
「残念ながら、ライリー様の推測はどちらも間違っていますよ。俺は心の狭い男ですし、調査をされることが嫌じゃないと言ったら嘘になります。まあ、調べられていることがわかっているのに悪行を働けるような性格ではないから、そこまで怖くはありませんが」
「あら、本当に心の狭い男なら、私が結婚を持ちかけた理由を知った時点で怒っているでしょう? もちろん、金銭面や身分の兼ね合いからあなたにもメリットのある話だけれど、バカにされたと憤ってもいいはずなのに」
ソラリスの言葉に、レジナルドは困ったように微笑する。
「ライリー様は俺を買い被りすぎですよ。偉い人の前でいい子ぶるのは当然じゃありませんか」
「だとしても、素というのはどうしても出るものでしょう? ……でも、あなたが調べられていることを承知していて良かったわ。本当に心配していたし、申し訳なく思っていたの。だけど、お父さまの調査は今以上に細かい――というかねちっこいと思うわよ」
ソラリスが脅かすように両手を動かすと、レジナルドがハハッと声を上げた。
「そうですか。それはそれは……十分気をつけさせていただきますよ」
「そうしてちょうだい。でも……」
そこで一旦言葉を区切ると、ソラリスはなにかを噛みしめるようにして目を瞑る。
「ねえ、あなたはいつもこの場所でこんな風に子どもたちと過ごしているの?」
「……? まあ、概ねそうです。俺は兄たちの意向で定職についていませんし、領地の管理等の手伝いもさせてもらえません。けれど、家にいてもすることがありませんから」
「そう……」
ソラリスは息をつきつつ満面の笑みを浮かべた。
「おそらくだけど、すぐに調査は終わると思うわ」
「そうでしょうか?」
「ええ。だって、続ける意味がないんだもの」
大きく伸びをしてから、ソラリスはそっと窓の外を見る。
レジナルドはソラリスが想像し、求めていた男性像とはかけ離れていた。けれど、彼を選んで良かったと、ソラリスは自分を少しだけ誇らしく思うのだった。




