2、再会
彼女がいなくなって三日が経った。何も変わらず、穏やかな日々が過ぎた。数日はまともに話していなかったからな。仲が良くて浮かれていた時が、遠い昔のようだ……。
執事が執務室にやって来た。
「旦那様、ベッカー子爵家の三人がおみえです」
「? なんだ突然……」
なんだか嫌な予感がするが、……会わねばなるまい。
「応接室に通してくれ」
応接室で対面すると、三人はにこやかだった。反対に私はムスッとしていた。
「今日は、どういった御用件ですか?」
「はい、セレーヌが大変失礼なことをしてしまって、申し訳なく思っています」
父親が頭を少し下げながら謝罪した。意外な反応だったので、少し緊張がほぐれた。
「セレーヌ令嬢はどうしていますか? 体調は戻ったのでしょうか?」
「はい。あの子は家に帰るなり元気になって、ピンピンしてますよ。仮病だったのかも」
異母姉がクスッと笑って言った。……そうか。元気になったのなら良かった。ここの暮らしが嫌だったんだろう……。
ヴィリヤが口を開いた。
「それで、一度はご縁があったということで、セレーヌの代わりにガブリエラと再婚されてはと思いまして、参ったのです」
「!?」
突然のことで驚いた。……姉妹が後妻に入る話はある話だ。異母姉は恥ずかしそうに、目線を下にした。異母姉は顔にニキビ跡があり、母親に似て頬が出ている。人は顔じゃないからな……。
「セレーヌとの結婚は私から申し出ましたので結納金をお支払いしましたが、また払って離婚されても困ります」
私は結婚詐欺を心配してきっぱりそう言うと、三人は驚いた。異母姉は顔を引きつらせて言った。
「結納金はもちろんいりません!」
「この子はセレーヌと違って、離婚なんかしませんよ」
継母も笑顔で焦って口添えした。セレーヌは、何一つ新しいものを持ってこなかった。多分、結納金を家の借金に当てたのだろう。
「分かりました。……私はこれから少し用事がありますので、三十分だけここでお待ちいただけませんか?」
「え? あ、はい、分かりました」
「では」
私は立ち上がると、メイドに後を頼んで応接室を出た。——私は彼女に一目会いたくなった。廊下にいた執事に指示を出す。
「至急、幌付きの荷馬車に毛布二枚とメイドを乗せて、ベッカー子爵邸の裏口に付けろ。私は先に行く。あの家族が屋敷から出ないように見張ってくれ」
「かしこまりました」
もしものために準備する。元気ならそれでいい。変わった女性だったのだ。その時は、異母姉と結婚しよう。
私は馬に乗ると、ベッカー子爵邸に向かった。ここからだと馬を走らせれば十分ほどで着く。
ベッカー子爵邸の裏口に着いた。馬を引いて中に入る。通りかかった若いメイドに声をかけた。
「私はマンス子爵だ。セレーヌの容態がよくないと聞いた。案内してくれ」
「……分かりました。こちらです」
私は嘘をついた。でも、メイドは私を案内した……。
表からは見えない隅のみすぼらしい小屋に案内された。メイドはドアの脇で止まる。私が小屋のドアを開けると、トイレの匂いがした。臭い! なんだここは……。
中は一間で、木の蓋がしてある便器がそのまま置いてあった。横に手洗い用の水桶、真ん中に小さいテーブルと椅子が一脚、小さなタンス、そして、彼女が横たわるベッドが置いてあった。
ここはまるで、牢屋だ。彼女は、別れた時よりも弱っていた……。白茶色の髪はツヤがなく、余計弱々しく見えた。——私は涙が出た。彼女は目を覚ました。
「……旦那様……、失礼しました。もう、旦那様ではないですね、子爵様。……最後に一目会えて良かったです……」
「私もだ。……旦那様でいい。私たちはまた結婚するのだから」
彼女は微笑んだ。
「そうなら、夢みたいです……」
彼女は目を閉じた。私は、汚い薄い布団に彼女を包んで抱きかかえた。
「困ります」
メイドが制した。
「子爵家族はここに来るのか?」
「いえ、……臭いがひどいので来ません」
「なら、いるように振る舞ってくれ。明日には片が付く」
「……分かりました」
メイドはそれならと同意した。私は裏口から出ると、用意させた荷馬車が着いていた。
馬車の中に彼女の布団を敷き、その上に毛布を重ねてから彼女を寝かせ、もう一枚の毛布をかけた。同乗してきたメイドに彼女の世話を任せ、馬車を病院に運ばせた。私は屋敷に戻った。
ベッカー家の者には、もう怒りは感じない。彼女に会えればそれで良かった。応接室に入り時計に目をやると、三十分を少し過ぎていた。私はむしろ少し好意的に対応した。
「お待たせして申し訳ないのですが、また用事ができましたので、すみませんが今日はこれでお帰りください。こちらからまたご連絡いたします」
「……そうですか、分かりました」
「では、失礼します」
「ごきげんよう」
突然来たし、すぐに返事がもらえるとは思ってないだろう……。三人は待たされたので、微妙な笑顔を見せて帰って行った。
私は、三人の背中を冷たい視線で見送ると、すぐに警備署に向かった。




