3、夫婦
翌朝、ベッカー子爵邸に警備署の兵士が詰めかけた。
「なんだ、朝っぱらから!」
執事から報告を聞いた父親が腹を立てる。兵士は家族がくつろいでいた居間に入って来た。
「ベッカー子爵家の三人を、次女監禁の容疑で逮捕する」
兵士が逮捕状を読み上げた。この国では、家族であっても貴族に危害を加えると捕まる。継母が声を上げる。
「監禁などしていません!」
「そうよ。あそこがあの子の部屋なのよ」
異母姉も反論した。兵士たちはそれを無視して、三人を縛って警備署に連行した。他の兵士がビクトールから聞いた小屋を見に行き、使用人たちからも証言を集めた。
私は彼女の容態を聞きに病院に行った。彼女は回復の兆しを見せたとのことで安堵した。体をきれいにしてもらって、清潔な衣類を着て眠っていた。
一週間後、ベッドの上で起き上がれるまでになり、彼女の話を聞くことができた。
「祖父が父に、母と結婚しなければ、跡取りは叔父さんにすると言ったので、父は仕方なく母と結婚したんです。
十二年前に母が亡くなると、父は義母と再婚し、私はあの小屋に追いやられました。
あの小屋は元々物置だったんです。それを住居に改装しました。食事は一日一食で、パンとスープだけでした。私は菜園を手伝い、傷んだ野菜を分けてもらっていました。それ以外に私のやることは、あの小屋の掃除と自分の洗濯だけでした。トイレの蓋も自分で作りました。
そして、舞踏会の招待状がきた時に、屋敷の居間に呼ばれました。医者に見せていないから、私を連れて行くしかないということになりました。私が部屋を出た時、
『もっと早く始末しておけばよかった!』
と義母が言っていました。私の母がいたから結婚できなかったと、義母は私たち親子を恨んでいました。
あのドレスは古着屋で買ったもので、母のものではありません。みすぼらしい恰好であれば、王子の目に付くこともないだろうということでした。でも、それから三食まともな食事を食べることができたので良かったです」
そうだったのか……。彼女は、軽く合わせた指先に視線を落としながら話した。私はベッドの横の椅子に座って聞いていた。
「旦那様から求婚の話が来た時は、本当にうれしかった……」
「!」
それを聞いて、安心した。彼女は話を続けた。
「私は三人に呼び出されると、旦那様とのことを詳しく聞かれました。姉は私から話を聞くと義母に言いました。
『マンス子爵家はそこそこ羽振りがいいらしいわ。子爵は美男子だし。——ねえ、この子と結婚させた後に、離婚させて、私が後釜に入るってのはどう?』
『いいわね。名案だわ。そうしましょう』
姉には縁談がなかったので、義母は喜んで同意しました。姉は恐ろしい顔をして私に言いました。
『結婚したら、二か月以内に離婚しなさい。そうしないと、あなたを誘拐してどこか遠くに捨ててくるわ。いいわね!』
『……はい』
私は返事をしました。結婚して一週間だけは普通に過ごしました。とても幸せでした。でも、離婚しなければいけないので、どうすればいいのか分からず、ああするしかなかったのです。
旦那様に話すことも考えましたが、あの家族が旦那様に危害を加えるかもしれない、それに、こんな面倒な家族に嫌気がさして、嫌われるかもしれないと思いました……。
計画がバレてしまって上手くいかなければ、姉が激怒するでしょう。だから何も言えませんでした。……すみませんでした」
「謝らなくていい。私も事情を知らずに、きつく言ってしまった。——許してくれ」
一人で、誰にも相談できずに……。確かに、その時聞いたとしても、どう思ったか分からない……。ただ、今は、間に合って良かったと思う。
「家に戻った後、また小屋に連れていかれました。ドレスはメイドが着替えさせて持っていきました。
その後は、水も食事もありませんでした。今度こそ私を始末するつもりだと思いました。メイドが私の様子を見に来るので、お願いして、水だけは持ってきてもらいました」
私はまた涙が出た。ハンカチで涙を拭くと彼女に言った。
「あの者たちはもう収容所からは出てこられない。だから安心してくれ」
「はい。ありがとうございます」
貴族を殺そうとすれば重罪だ。私は警備署に行って、彼女から聞いた話を伝えた。
父親は取り調べで、
「私は殺すつもりはなかった。また、どこかに嫁がせるつもりだった! ヴィリヤとガブリエラが殺すと言ったんだ」
継母は開き直った。
「もうどうせ刑は決まっているのでしょう。——そうよ、あの子を殺すつもりだったわ」
異母姉は泣いて、訴えた。
「全部、お母様が考えたんです。私じゃありません」
異母姉は脅迫の罪、継母は監禁と放置で主導的な立場にあり、父親は当主として決定権があったので継母と同罪になった。父親と継母は、彼女が回復したことで処刑は免れ、三人とも終身労働刑となって収容所に送られた。
私たちの離婚は、異母姉の脅迫によるものだと認められ、特例として離婚が無効になった。病院に行き、彼女に報告した。
「私たちの離婚が無効になった。私たちは今も夫婦だ」
「本当ですか! うれしいです!」
ベッドに座る彼女は、すっかり元気になっていた。私は椅子から立ち上がって彼女の肩を抱き寄せた。二人ともとても幸せだった。
その後、彼女はリハビリを経て退院し、マンス子爵邸に帰って来た。
ベッカー子爵家は、叔父が他家に婿に入っていたので、祖父母が承認し彼女が当主になった。
祖父母は首都の屋敷に入れてもらえず、彼女があんな目に遭っていたのを知らなかった。二人はこの事態に整理が付かないようで、彼女にかける言葉はなかった。
「母のものはすべて処分され、あの屋敷には何も残っていないです」
屋敷にいい思い出がないので、彼女の了承を得て私は屋敷を売ることにした。ベッカー邸は使用人を全員解雇して封鎖した。
あの小屋は、同じように使われないために解体することにし、跡形もなくなった。
彼女の希望でマンス邸に菜園を作り、彼女が野菜を育てている。受けることができなかった教育も受けさせた。
ダンスのレッスンはもちろん、——私と一緒だ。




