表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二章開始】ヴェルヴェーヌは枯らさない-悪魔憑きの咎で追放された令嬢は、ただ一人の侍女と最果ての村を蘇らせる-  作者: 舎 まゆ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/53

第八話 新米メードのサーラ

突然の申し出に、アレクシアとデルマは呆気にとられながらサーラと名乗る女を見た。長い髪をぼさぼさにして、古く汚れた服を着ている。歳は、アレクシアより二つか三つほど下だろうか。

 

「……ウッツ様が?」

 

アレクシアが聞き返せば、サーラはそちらへと向き直った。そしてやはり、じろじろと()(えん)(りょ)な眼差しを向けて、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「そうですが。召使いのいない領主なんぞみっともないと仰って、あたしに――」

「お気遣い感謝する。しかし必要がない。アレクシア様には私がお仕えしている」

 

サーラの言葉をデルマは遮った。その顔には警戒心がありありと浮かんでいる。

あからさまに言ってしまうと、敵を中にいれるべきではないと心に決めているようだった。対して、サーラは目の前に立った、ここでは見慣れぬ顔立ちの女をじっと見上げた。

その瞳にはこれも()(こつ)な、()(べつ)の色が滲んでいる。

 

「あんたがですか? あんたが、このお方の召使い? 奴隷じゃなく?」

「奴隷ですって!?」

 

デルマが声を荒げれば、サーラの肩はびくりと震えた。デルマの(けん)(まく)を前に怯えたように瞳を揺らしたが、彼女が何か反論しようと唇を震わせたところで、アレクシアは慌てて二人に割って入った。

 

「デルマは奴隷じゃないわ! 私が信頼を置いている侍女です! サーラ、あなたがもし、私のメードになりたいのなら、まずはそこの認識を改めてもらう必要があるわ……あなたはここにケンカをしに来たわけじゃないでしょう?」

 

アレクシアが諭せば、サーラは口元をひくりと動かした。そしてちら、とデルマを睨みつければ、曖昧に頷いた。

デルマは既に顔から怒りを引っ込め、無礼を働いた女に冷たい眼差しを向けるばかりで、無言を貫いていた。

 

「とにかく皆、中に入りましょう。日が傾いてきた……私たち、川を見にいっていたの」

「……アレクシア様、本気ですか?」

「ええ、ウッツ様の〝ご好意〟、無下に断る必要もないから」

 

アレクシアの言葉に、デルマは納得がいかないようだった。しかし主人の決めたことと割り切り、しかし彼女の(そば)にぴったりと侍って、今し方やってきた新人のメードが万が一の事をしでかさないように、警戒心を隠さなかった。

 

(おそらく彼女の目的は……私たちを探ること。運が良ければ私たちを(だん)(がい)する理由を見つけられると考えてる……でも、……)

 

サーラは足を踏み入れた屋敷の荒れ果てように、顔をしかめているようだった。

 

「よくこんなところで寝泊まりをしてますね」

「二人だと片付けが中々進まないの。すぐに用意しなきゃいけないのは、あなたのお部屋ね」

「あたしの部屋?」

 

アレクシアの言葉に、サーラはそのまま返した。立ち止まった彼女に振り向いて、アレクシアは首を傾げる。何か変なことを口走ったのかと考えたが、そういったわけでもない。

 

「そう、サーラの部屋よ」

「いや、あたしは別に……」

「一階にメード用の部屋があります、アレクシア様。彼女がメードとして雇うならそこがよろしいでしょう。……線引きは必要ですよ」

「……そうね、部屋を見て、問題がなければそこにしましょう」

 

デルマの言うメード用の部屋は、(ほこり)()きだし、空気を()()えれば充分に使えるようだった。雨漏りもないし、窓も(やぶ)れていない。ここに住んでいた前の主人も、メードの待遇には気を遣っていたようだ。

 

「デルマ、干していた私のシーツをとってきてちょうだい」

「……承知しました」

 

放置されたまま、汚れているベッドシーツを(まと)めつつアレクシアが頼めば、デルマが(しぶ)(しぶ)部屋を出て行く。籠の中に放り込んでから、箒で床を掃き出した。

サーラはというと入り口のあたりで突っ立ったまま、ぽかんと呆けている。信じられないものを見るような目で、今し方(やと)ったメードのために自ら部屋の片付けをする女主人を眺めていた。

 

「ここが、あたしの部屋?」

「ええ、好きに使っていいのよ。不足なものがあれば言ってちょうだい」

「……この……部屋が?」

「ええ、ここで我慢してほしいの……なにせこの屋敷、ちょっと古くって……」

 

掃除に夢中になりながら答えるアレクシアの背をサーラは(ぎょう)()していた。顔はひきつり、言葉は出ない。しかしサーラはすぐに我に返った。どうせ今だけだと。掃除がしたいならすればいい。そう思い直して、主人の姿から目をそらした。

 

「お前がメードとして仕えたいなら、自分の部屋を主人に掃除させる真似はさせないことですね」

 

戻ってきたデルマがサーラに冷たく言い放つ。水の入ったバケツと布をずいっと押しつければ、肩にかけた清潔なシーツをベッドに広げた。

 

「デルマ」

「アレクシア様。この者はメードとしてまったく未熟です」

 

己の主人が持っていた(ほうき)を半ば奪いながら、デルマは()(ぜん)と言い放った。手持ち無沙汰になったアレクシアは困ったように首を傾げ、侍女の言葉を待った。

 

「私が教育します。役に立って貰わないと」

「……あんまり厳しくしなくてもいいのよ?」

「いいえ、こればかりは私の領分です。ヌッツロース領領主の格を落としたくありませんから」

 

デルマの決意は固いようだった。彼女はアレクシアのことを(がん)()な主人と評するが、アレクシアからすればデルマもまた、決めたことは退かない(しょう)(ぶん)だ。

まあ、彼女ならばこの子に()()(じん)(らん)(ぼう)を働くこともない。そこは断言できる。その厳しさにサーラが逃げ出すかどうかは、ともかくとして。

 

「分かったわ」

 

アレクシアは一つ頷き、了承した。

第8話を読んでいただきありがとうございます!

感想、応援、ブックマークをしていただけると嬉しいです:)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ