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【最終章開始】ヴェルヴェーヌは枯らさない-悪魔憑きの咎で追放された令嬢は、ただ一人の侍女と最果ての村を蘇らせる-  作者: 舎 まゆ
最終章

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第六十一話 姉妹

「あれが食糧倉庫。今は収穫した麦でいっぱいになっているわ」

 

「すごい、おっきい! お姉さまが建てたの?」

 

 立ち並ぶ建物を見て、クラリスははしゃいだ声をあげた。皆が建てたものよ、とアレクシアが言えば、目をきらきらさせて周囲を見渡している。

 

「なんだかみんな、楽しそう!」

 

「もうすぐ収穫祭だから。村で一番大きなお祭りなの」

 

「クラリスもお祭りに混ざりたいわ!」

 

 (もち)(ろん)とアレクシアが頷けば、クラリスは足取り軽く村を見ていく。店がずらりと並ぶ商店、山で採った木を加工する工房、旅人たちが憩う酒場、騎士団の鍛錬場……まだ年端もいかない少女の目には、どこも目新しい。

 

「アレクシア様、見回りですか?」

 

「今日は妹に村を案内してるの」

 

「く、クラリスです! お世話になります!」

 

 ぺこりとお辞儀をするクラリスに、村人は微笑ましそうに笑った。彼と別れ、二人は村はずれに向かう。そこは村を一望出来る小高い丘だった。

 

「最初はあの広場の回り……本当に小さな村だったのよ」

 

「あそこだけ?」

 

「そう。広場の井戸があったでしょう? 私がここに追放された時、あれも涸れていて……皆生きていくのに必死だった……」

 

「……」

 

 今や二回りも大きくなった村を見下ろすアレクシアの横顔を、クラリスはちらと見つめた。ややあって、おずおずと口を開いた。

 

「あのね、お姉さまは悪魔に呪われて死んだって、お父さまとお母さまは言ったの。でもデルマが会いに来てくれて……それは嘘だって言ってくれた。でも私、お姉さまがどこに行かれたのか分からなくて……心配だった……」

 

 心情を()()するクラリスの顔に、(わず)かに影が落ちた。まだ幼いといってもいい彼女には不釣り合いな表情。それを見て、アレクシアは声を震わせた。

 

「クラリス……」

 

「でもね、ツチラトさんが私に会いにきてくれたんだ! お姉さまのこと、話してくれた! すごく嬉しかったんだよ? お姉さまが生きてるって、ヌッツロースっていう村で暮らしてるって。……今すぐにでも会いたいって……でも、ツチラトさんはまだその時じゃない、って」

 

「彼の判断は正しいわ。ここに来るのは、少しだけ険しい道だから」

 

 アレクシアの言葉に、クラリスはこくりと頷く。足元に咲いた花を見つけ、それに触れる。

 

「……私、ヌッツロースのことを調べてみたんだよ。でも全然分からなくて……分かったのは、とても荒れ果てた場所だってこと……だから怖かった。お姉さまがそんな場所でどうやって暮らしているのか想像すると……怖かった……」

 

 指先で揺れる花から、村へと視線を向け、クラリスは瞬きをした。

 

「でも……彼に連れてきてもらって、お姉さまに見せてもらったヌッツロースは……こんなに素敵な村で……」

 

 二人の間に沈黙がおりる。クラリスは何か、思いを巡らせているようだった。アレクシアは静かに、妹が言葉を続けるのを黙って待っていた。ややあってクラリスはアレクシアに顔を向け、口を開く。

 

「やっぱりお姉さまはすごいって、そう思ったの! お父さまやお母さま、ヨナーシュ様が言ってたみたいに、役立たずなんかじゃない。私が信じてきたことは、正しかったの!」

 

 そう言ってクラリスはにっこりと笑ったが、すぐにそれも(くも)った。(ため)()いがちに草原の向こうを見やり、手をぎゅっと、握りしめた。

 

「それに比べて、私はお姉さまと違って、何も……」

 

 そう言ったきり俯く妹は、もうずいぶんと会っていなかったように思えた。たった一年のことにもかかわらず、あどけなさがすっかり失われていた。彼女をどれほどの心労が襲ったのだろう。そう考えるとアレクシアは、ひどく申し訳ない気持ちにになった。

 

「……お父様とお母さまは、まだ王都にいらっしゃるのね」

 

「うん……一緒に出ようって説得出来なかった。春になって、お二人はいっそう変わってしまった……何か、取り憑かれているような……私、それも怖かった……だから」

 

 クラリスの肩は震えて、彼女の足元に雫が落ちた。それを見てアレクシアは我に返り、クラリスの肩に手を置き、その身を寄せた。

 

「頑張ったわね……」

 

「どうしよう……お姉さま、私、怖い……置いていったお父さまとお母さま、どうなってしまうんだろう……」

 

「…………大丈夫。まだ終わったわけじゃないわ、クラリス……お父さまとお母さまをお救いする方法も、王都が元通りになる方法も、きっとあるはずよ」

 

 アレクシアの言葉に、クラリスは声を上げて泣いた。その身体を抱きしめ、亜麻色の柔らかな髪を撫でる。


 ――……断片的な…………確認……。


 ――不測の…………、一部――――保全……。


「あ……」

 

 またあの声が遠くに聞こえて、アレクシアはくらりと目眩がした。しかし妹に悟られぬよう、身体を支える。思わず、クラリスの身体を強く抱きしめた。

 

「お姉さま……?」

 

「大丈夫よ……もう、大丈夫……」

 

 言い聞かせるようにアレクシアはクラリスに囁いた。安心したのか、クラリスは頷いた。軽く身をアレクシアに委ね、もう離れまいとじっと、身体を強ばらせていた。

第六十一話をお読みいただきありがとうございます!

いよいよ最終章が始まります、応援よろしくおねがいします:)

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