第四十四話 手負いの騎士団
村の入り口へ辿り着いた時、そこには既に人だかりが出来ていた。
「……兵士?」
ぼろぼろの鎧姿で門番と話す男たちを見て、アレクシアは思わず呟いた。いそいそとそちらへ向かえば、門番が目を丸くしてこちらを見て来た。
「アレクシア様! お身体はもういいんですかい?」
「ええ、良くなったわ。……それよりも、これはいったい……」
門番と話していた男が、やってきたアレクシアを見て勢いよく頭を下げる。彼も兵士だろう。鎖帷子や胸甲に所々、血がついている。怪我をしているようだった。
「頼む、どうか助けてくれないだろうか! 我らの団長が深い傷を負っているんだ! けして野盗などの類いではない!」
「……とは言っているんですが、どうされますかい?」
門番は判断しあぐねているようだった。村の入り口を見張る役を任された彼らには、誰を村に入れるかを判断する権利を与えてある。商人、難民、旅人。……だが彼らが野盗やその類いであるかどうかは、流石に決めかねているようだった。無理もない。
「ご令嬢、どうか慈悲を……我らが団長フェリクス様の命が掛かっている! ご恩に報いると必ずや約束する! どうか、どうか……!」
「フェリクス……」
深々と頭を下げたままの兵士をじっと見る。どこかで聞いた気がする名だとひっかかり、そしてアレクシアは、ふと彼の胸甲を見た。リンドウで飾られた盾の意匠――蒼盾の紋章!
「もしや、あなたがたは蒼盾騎士団の方ですか!?」
「は……っ?」
アレクシアが声を上げ、村人たちに振り向き頷く。許しが出たとばかりに、彼らは兵士達に肩を貸し、意識を失った者を木の板に乗せ、運び出した。
「フェリクス様! もうしばらくご辛抱を!」
兵士が叫び、励ましている方を見る。若い男が木の板で運ばれている。かなりの深手のようだ。
「広場へ、アレクシア様」
デルマに促され、歩き出す。村人たちが傷ついた者たちと広場へと向かうのに着いていった。
診療所のベッドは満床。歩ける者には広場で椅子をあてがった。
収穫祭で使った椅子を片付けきれていないのは幸いだった。井戸広場では、デルマが指揮をとって村人総出で炊き出しを行っている。
スープの匂いが鼻先に掠めるのを感じながら、アレクシアは門番と己に頭を下げてきた兵士――彼はモーリスと名乗った――と、膝をつき合わせていた。
「ヌッツロース領主様……まことに感謝の念に堪えません……我ら蒼盾……失礼、我々一同、及び我らが団長フェリクス様の代理としてお礼を述べさせてください」
再び頭を垂れたモーリスに、アレクシアはゆるりと首を振った。
「……確認なのですが、あなた方は蒼盾騎士団、そしてその団長は……オーステン家のご子息であらせられるフェリクス・フォン・オーステン様ですね?」
「……は、如何にもであります。しかし、もはや我々は騎士団であると名乗ることを許されておりません」
モーリスの表情には憂いと疲れの影が落ちている。しかしふと、目の前の令嬢の言動が気になったのか、ぱちりと瞬きをして首を傾げた。
「失礼ですが、村の入り口にて我々を見た時、どうして蒼盾騎士団の者なのか、そして団長がフェリクス様であるのかに気づかれたのでしょうか。貴方様はこの村のご出身では?」
「…………私はアレクシア・デュラン。元はレイデン侯爵家の長女として、アレクシア・レイデンと名乗っておりました」
「まさか……貴女がアレクシア嬢……! あの、悪魔憑…………いや、その……失礼を……」
もごもごと口ごもるモーリスに、アレクシアは眉尻を下げどこから言えばいいのか、迷った。何らかの理由で破門されたとはいえ、彼らは王都でも名門の騎士団だ。きっと彼らはアレクシアは悪魔憑きの咎で王都を追放された大罪人として、その名を知っているのだろう。
「……そうです。悪魔憑きのアレクシアです。……身に覚えのない咎ではありますが、その罪を償うべく、今はこのヌッツロースを治め、暮らしております」
「なんと……」
モーリスは信じられないと言った顔で、広場を見渡した。器に満たされた温かなスープとパン、焼いた肉を兵士達は泣きながら感謝し、それを貪っている。悪魔憑きの女が治める村に助けられるとは――そんな感情がモーリスの胸中に湧き起こったが、しかしすぐにそれを打ち消し、アレクシアに向き直った。
「アレクシア様、助けていただいてなおこのように請うのは、厚顔無恥の極みでありますが……どうか、フェリクス様が目を覚まされ、傷が癒えるあいだ、どうか我々をこの村に――」
「失礼致します、アレクシア様!」
割り込んできたのは村医者の助手だった。顔を真っ青にさせ、声を震わせている。
「フェリクスさんの容態が急変しました」
「っ……!」
がたん、とモーリスの椅子が転がる。その手は震え、恐れが顔に張り付いていた。彼の手をとり、アレクシアが叫ぶ。
「診療所へ行きましょう!」
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