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【第二章開始】ヴェルヴェーヌは枯らさない-悪魔憑きの咎で追放された令嬢は、ただ一人の侍女と最果ての村を蘇らせる-  作者: 舎 まゆ
第二章

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第四十二話 熱の中で

じぶんではない。誰かになっている。息苦しさの中、そう思った。

――お前は……なのだ。皆の為に完璧でなければならない。

目の前で険しい顔をした男が喋っている。

長期間に及ぶ運用の結果、致命的な()(もう)(そん)(かい)を確認。

 

むらのために おとうさまのために みんなのために

屋敷でも、村でも、(せい)(くつ)でも、

――お前はたった一人の……だ。

わたしは……だから。

誰かに見られている。課題。不安定な運用。

 

それを自覚しろ。お前に代わりはいない。

改善案を策定。

わたしにかわりはいない。そうじゃないと、みんなふしあわせになる。

――まだだ。

 

水を浄め、作物を(ゆた)かにし、傷ついた者、()める者を治す。

――祖たる大聖女様に、お前は遠く(およ)ばない。

だからわたしがやらなきゃ。早急な修正が必要。

何故出来ない? 努力がたりない。

重大な不具合を検知。

 

わたしにかわりはいないのに。長期的な修正案を構築。

――そんな顔を皆の前で見せるな。

朝。来なければいいと思ってしまった。検知。走査。類似。

わたしは大聖女さまみたいになれなかった。

ソファの上で目が覚める。

――お前がそうしていると、皆が不安がるだろう。

 

損壊した端末装置と同等の仕様と確認。

まって かわりじゃない ちがう やめて

求められることをしていれば、そこにいていいと許される。そう思ってた。

――何故倒れた? 不具合を検知。機能が一部破損。

わたしのせい そのこをわたしのかわりにしないで おねがい

 

――かわりはいないと常々言っているだろう。 自覚が足りない。

どこまで頑張ればよかったのだろう。修正。やめて。(けん)(のう)(じょう)()。だめ。

――恥ずかしくないのか?

祝福を無くした私はどうやっても、価値がなかったのかも。

軽微な破損片を確認。まって。走査。ちがう。旧端末から付着した破損片。除去。

やめて おねがい 除去。 ――努力しなさい。 どこまで? いつまで? 除去。 いや

熱い。――皆の苦しみを取り除きなさい。 見捨てないで。 たすけて 怖い。 おとうさま  まもなく完了。 きえたくな

 

除去完了。

 

譲渡完了。端末装置を解析。

献身。悲嘆。慈悲。

諦念。

救済欲求。寂然。自己嫌悪。自己犠牲。

強度の歪みを確認。

結論――……憐憫。

 



 

ベッドでうなされているアレクシアの頬を、デルマは指先で撫でていた。彼女の額には汗が滲み、頬からでも分かるほど、高熱である。

収穫祭の翌朝、いっこうに私室から出てこないアレクシアを起こしに行けば、そこはもぬけの殻だった。同時にサーラが慌てた様子で中庭に階段が現れていると報告しにきた時、デルマは血の気が引く思いをしながら階段を駆け下りた。

奥深く、常人を卒倒させるほどの万物素(アルケー)が漂う聖窟の中で倒れているアレクシアを見つけ、担ぎ出したのである。

 

何故、あんなところに?

デルマは見つけた時のことを思い出しながら、奥歯を噛んだ。あの場所はいったい何なのか。自分でも目眩がするほどの万物素が充満していた。そしてアレクシアのそばにあった、砕け散った白い石……。最初はただの石だと思ったが、思い返せばあれは像だったのではないか?

 

――それよりも今は主人だ。高熱が続いて、目を覚まさない。

数日、つきっきりで看病をしている。サーラは心配して代わろうかと申し出てくれたが、彼女に屋敷の一切を任せるだけに(とど)めた。それでも彼女は快諾してくれた。心配はいらないだろう。

村医者のヒューゴーにも診せた。高熱の原因は特定出来ていない。少なくとも疫病や魔壁蝨(ティック)のたぐいではないようだ。疲労かもしれないと言っていた。

ツチラトが密かに、秘薬を()()してくれた。この国では認められていないものだ。……彼は、また来ると言って、王都に帰っていった。

 

濡れた布でアレクシアの額を軽く拭う。今は呼吸も安定している。いっとき、このまま燃えてしまうのではないかと、冗談でなく思うほど熱が上がり、アレクシアは苦しんだ。

見捨てないで。アレクシアが零した(うわ)(ごと)を、デルマはぼんやりと考える。彼女はずっと恐れている。他人に必要とされなくなることを、見捨てられ、無価値と断じられることを。

だから、こんな生き方になってしまった。……もし、彼女がいつか、そんな考えを笑ってしまえる日が来るなら。たった一人の侍女が、貴女を見捨てないと思っている。そう気づいてくれれば。

 

「…………(ほだ)されたな、私も」

 

 ぽつりと呟く。こんな筈じゃなかったのに、と。

 

「ん……」

 

火照った瞼が震えた。やがて、のろりと開けば濡れた緑の目が何かを求めるように動く。

 

「アレクシア様」

「でるま……?」

 

ぽーっと、こちらを見つめてくるアレクシアに、金色の目を細めた。震える手で、もう一度彼女の頬を撫で、首を傾げる。そっと、微笑みながら。

 

「おはようございます、アレクシア様」

第四十二話をお読みいただきありがとうございます:)

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