第二十四話 難題
「あんた、なに言ってんのさ!」
アレクシアの提案にいの一番に噛みついたのは、サーラだった。己の主人に対してとるべき態度すら忘れ、困惑と呆れが混じった表情で、アレクシアに身を乗り出している。デルマも、彼女の言動を咎めずに、解せないといった顔でアレクシアを見つめている。
「そんなことしたら封印っていうのが消えて、村がめちゃくちゃになっちゃうよ! 確かに井戸に水は通るかもしれないけどさ、そんなことになったら本当におしまいじゃん!」
「ええ、でも――」
「あんたが井戸の水を通したいからって、そんなの、あたしが許さないよ!」
サーラの村を案ずる気持ちは本物だ。アレクシアもそれを承知である。己のメードをしっかりと見据え、アレクシアは口を開いた。
「落ち着いて、サーラ。私は水脈から力を無くすとは言ったけど、封印を解くとは言っていないわ。……どちらかというと、水脈から力を取り除いても、封印が解けないと考えたの。それこそ、土のおかげでね」
アレクシアの言葉にデルマが軽く目を見開く。土のおかげ、という言葉が引っかかったらしい。
「土のおかげ、ですか」
「ナーガ様が仰っていたでしょう。封印の力に晒された土が、今やその役割を担うほどの力を得た。……つまり、完全とはいかなくとも封印を保たせる力はあるということ。だから私は一度、マリオン様が水脈に流した力を抜いても大丈夫だと思うわ」
「で、でも……それってあんたの想像じゃん」
サーラの語尾はやや弱まった。しかし未知の現象に対する畏怖が、彼女を賛同へは傾かせない。彼女の意見も最もだと、アレクシアは頷く。
「そう、これは私の仮説よ。ただどちらにせよ、力は抜かないといけないと考えてるの……これ以上、土に力を蓄えさせるのは危険だから。井戸、そして川……これ以上力が強くなれば、ドリアード様でさえこの泉を守れなくなる。そしてゆくゆくは、川の行き先――国を横断する大河、コッレント川にまで被害が及ぶ可能性が高いわ」
「一度元を断つ必要はある、と。しかしアレクシア様、どうやって力を抜くのです? 出来ないことはないとは思いますが、かなり難しいと思います。……いえ、封印を解除するのは簡単です。井戸に施した封印を解除すればいいだけですから。その後ですよ」
デルマの考えは最もで、アレクシアも同じ考えだった。残った井戸の封印を解いたとして、一気に力を抜くのは危険すぎる。
「そうね。地下に通された万物素が、一気に噴出して問題が起こる事例は山ほどあるわ。その影響で集落が石になってしまった事例もあるし、例を挙げるとキリがない」
「…………」
出された例を聞いたサーラの顔が青ざめているのに気づかず、アレクシアはうんうんと唸っている。思案に沈み始めたアレクシアはだいたいこうだった。
「なるべく影響を少なくしながら、確実に取り除く……一定の量で、途切れることなく……管のようなものを通せば……管……管……でも地中だし……」
「ゴーレムを使えばいいんじゃないか?」
助け船を出したのはナーガだった。今まで黙って人間たちの話を聞いていたが、ふと思いついたらしい。その声にはっと顔を上げて、アレクシアは彼を見上げた。
「ゴーレム、ですか?」
「ああ。あれが今までずっと動いていたのは、あれを作った人間――マリオンの力があったからだろ? ええっとなんだ、つまり……ゴーレムとして動くための栄養がちゃんと与えられていたってことだ」
「ゴーレムは力の供給が無ければ、いつかは止まってしまいますからね。何の供給もなしに自立出来るのはせいぜい一年ほどでしょう。それもかなり高度な技術者が作ったゴーレムに限られてきます。……でもあのゴーレムの造りは荒かった。供給元があったと考えるのは自然です」
先ほど倒したゴーレムを思い出しながら、デルマが肯定する。急いで作ったゴーレムだ。供給のことなんてマリオンはあまり考えていなかっただろう。
「……ゴーレムには万物素管が繋がっていた。封印装置として、放置されることを前提としていたあれが例の水脈に繋がっているのは自然だと思う。井戸の封印を解き、万物素管を繋ぎなおしたゴーレムを万物素の消費先として再稼働しなおせば……一定の量で途切れることなく抜く事が出来る!」
アレクシアの声に熱が入る。いてもたってもいられなくなったといった様子で彼女が立ち上がると、それを見たナーガは苦笑いをした。――あのお転婆娘にそっくりだと、思い出したからだ。
「それで、お嬢さんよ。それを出来る見込みはあるのか? ヒトにそんな器用なことが出来るのか?」
「…………やるしかありません。難しくても」
「ふうん……」
ナーガはまじまじとアレクシアを眺めていた。その蛇の目には、愉悦さえ見える。口ではどうとでも言えるが、かなり危険な賭けをしようとしているのは彼女も重々承知らしい。それが面白かった。この女がどういった経緯で滅びかけた村にやってきたのかは分からないが――。
「……どうした、我が妻よ」
ドリアードに肩をつつかれ、ナーガは己の妻を見た。彼女は再びナーガに耳打ちをし、そしてアレクシアたち三人を見据え、山奥を指差した。
「ドリアード様?」
「喜べ人間よ。我が愛しき妻がお前たちに力を貸してやるべきだと言っている。――ただし、条件付きでな」
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