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【第二章開始】ヴェルヴェーヌは枯らさない-悪魔憑きの咎で追放された令嬢は、ただ一人の侍女と最果ての村を蘇らせる-  作者: 舎 まゆ
第一章

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第二十話 水源

「村にいた人間って……」

 

アレクシアの言葉に、サーラは声を(うわ)()らせた。それって、つまり水源に行けなくなった原因は村ってこと? 自分達の井戸を涸らした原因は、自分達の村――?

 

「少なくとも、何かの理由で水源には行って欲しくなかった。このゴーレムは川が干上がった直接的な原因ではないわ……」

 

アレクシアは一度言葉を切り、今自分が立っている倒れたゴーレムの巨躯、その(そば)の地面を見やった。ばらばらに砕けたゴーレムの右手――石の群れが、ぴくぴくと動いている。再生しようとしているのは明白だった。

 

「とにかく、この子を止めましょう」

「出来るの?」

「ええ、デルマ。この管を切ってちょうだい」

「はい」

 

デルマの手つきは(あざ)やかだった。ゴーレムに繋がれた万物素管(アルケソリナス)――それは硬い木の根のようなものだったが、それを山刀で切り落とした。その(せつ)()、ゴーレムの巨躯は(おどろ)いたように、軽く揺れた。

 

「この紋章を無効化すれば――」

 

アレクシアがしゃがみ、紋章に手を当てる。まじまじと観察してみるが、間違いなく祖母の形見であった竜骨(ドラコース)護符(タリスマン)に刻まれたものと同じである。

 

(おばあさまは、この村に縁があった……と考えるのが自然ね……)

 

指でなぞる。刻まれた線が(あわ)く輝き、耳鳴りのような音が(かす)かに(ひび)く。

 

岩の巨人よ(ゴーレム)在るべき姿に戻るべし(アルヒ)物言わぬ善き物(ヴラフォス)永久の安らぎを(テロス)

 

アレクシアが無力化を命令すれば、輝きが一瞬増した。しかしすぐに収まり、ゴーレムから発せられていた気配が、ゆっくりと消えていった。

再生しようと地面を這っていた石も、もう動いていない。ゴーレムが物言わぬ岩になったのを確かめればアレクシアはほっと(あん)()の息を吐き、紋章を撫でた。

 

「これで安心よ。デルマ、怪我は?」

「ありません。……ですが、一休みしますか?」

「…………」

 

デルマの言葉にアレクシアは開かれた道を見た。緑深い奥から、今までよりもずっと冷たい空気が流れ込んできている。――近い。

 

「いいえ、私は大丈夫。サーラは?」

「あ、あたしはなんにもしてないよ! 見てただけだし……」

「怖かったでしょう?」

「…………ちょっとだけ。でも、水が近いと思うんだ。さっきから水の音がしてる」

 

道の奥を(にら)む彼女の言葉にアレクシアは目を丸くし、微かに首を傾げた。

 

「耳が良いのね」

「多分、だよ。早く確かめたい……この先にちゃんと水源があるのか、どうして村の誰かが、こんなのを作ったのか」

「そうね。それなら行きましょうか」

 

デルマも頷き、歩き出す。足早にサーラも続いた。アレクシアは一度、(いく)(とせ)(づき)の役目を終えて眠りについた岩を、見やった。

 

「アレクシア様!」

 

サーラの声に呼ばれる。今行くわ、と声を上げてアレクシアは前を向いた。


 ◆


すぐに、辿り着いた。目の前に()(ゆた)う澄み切った水に、サーラは声を上げた。

 

「水!」

 

泉へと駆け寄ろうとするサーラをデルマがそっと留める。その金の(まな)()しは用心深く、周囲を眺めていた。やがて泉の傍に立つ木を見やり、その根の先を目で辿った。

 

「木の根が下流への流れを塞いでいますね。見てください、あの木の根……ぐるりと泉を囲うように張られている」

 

あそこです、デルマが指させば確かに、元は水の流れがあったであろう沢の跡が見えた。そこへの入り口を木の根が阻んでいる。あれさえどうにかすれば、すぐに泉の水は流れていくだろう。

 

「じゃあ、あの木の根を切っちゃえば……!」

「どうやら、それほど簡単なことじゃないらしいな。見てみろ、サーラ」

 

デルマが指し示した先――泉の木を二人は見た。するとザワザワと枝葉が揺れ、その幹が(ねじ)れていく。ヒッ、とサーラが息を呑めば、生い茂る緑の中から、人の影が現れた。

 

「ドリアード!」

 

それは美しい女だった。長く(ゆた)かな髪に花を散りばめた女が人間ではないことはすぐに分かった。彼女は瞬きなくこちらを見つめている。――ドリアード、木の精。

 

「彼女が泉の水をせき止めているのね」

「ええ、……根を下手に傷つければ怒りを買います」

 

デルマの声は(かす)かに(こわ)ばっていた。先ほどのゴーレムは人造物だが、今度は精霊だ。どう動くか予想出来ない。既にこちらを(なわ)()りに踏み込んだ侵入者として見ていてもおかしくはないだろう。

 

「でもここまで来て、引き下がれないよ。どうにかして、あの根っこをどかしてもらわないと」

 

サーラが低い声で呟く。それはそうなのだけど、とアレクシアは困ったようにドリアードを見ている。暫く、お互い動かずに見つめ合うという(こう)(ちゃく)(じょう)(たい)が続く。

 

「ああ、もう!」

 

じれったいとサーラが声を上げた。ゆっくりと深呼吸したと思えば、デルマが止める間もなく、ずかずかと泉の木へと歩いて行く。ざわざわと(こずえ)が揺れたのに一瞬、足を止めたが、しかし意を決して、木の枝に()すドリアードを見上げた。

 

「あんたのせいで、川が干上がってるの! あの根っこをどうにかしてよ!」

 

サーラが例の根を指さすのを見て、デルマは軽く頭を抱えた。(おく)(びょう)なのか肝が据わってるのか、分からない。精霊相手にあんな直接的な言い方をして大丈夫なのだろうかと、慌ててサーラに歩み寄る。

 

「………」

 

対してドリアードは沈黙を守っていた。否、少しばかり驚いているのかもしれない。瞳孔のない目を見開き、じっとサーラを見つめている。

 

「黙ってないでなんか言いなよ! 何のワケあってここの水をせき止めてるのさ!」

「サーラ、落ち着きなさい……それに、ドリアードは喋らないんだ」

「あんたの気まぐれで皆死にそうなんだ、いい迷惑だよ!」

 

サーラの言葉に、ドリアードは枝葉をさわさわと揺らした。まずい、とデルマが前に出ようとしたところで、今度はアレクシアが叫んだ。

 

「二人とも!」

 

アレクシアが見ていたのは泉だった。その真ん中がぷかりと盛りあがったかと思えば、泉全体に波紋を作る。小さな波とともに、やがて泉全体が揺れた。

現れたそれは蛇に見えた。滑らかな白い(うろこ)を持つ蛇。泉を一巻きにできるほどの尾を持った大蛇。しかし尾から上は、ヒトの男だった。がっしりとした戦士のような(たい)()、彫刻のように整った顔立ちは険しい。尾と同じ色をした髪から雫を垂らしつつ、彼はアレクシア達を(へい)(げい)している。

 

「我が泉に許可無く足を踏み入れ、我が美しき妻を害するのは誰だ!」

 

泉のあるじ。アレクシアはすぐに悟った。そして彼の怒りに触れたことに気がつき、さあっと血の気が引いた。

第二十話を読んでいただきありがとうございます!

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