第四十四話 京への道——母の記憶と、受け継がれた医
第四十四話
京への道——母の記憶と、受け継がれた医
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
母の眠る京へと向かい、
その記憶と向き合い、
そして玄朔殿より“母の願い”と“医の道”の真実を受け取った日の記である。
◆ 京へ——揺れる記憶 春霞の朝。
やよいは安命院の門を出た。
(……京都……
母が眠る場所……)
懐かしさと空白が同時に胸を締めつける。
宗玄の言葉が背を押す。
「玄朔殿なら、墓をご存じでしょう」
(……礼を言わなあかん……
母の願いを守ってくれた人に……)
馬車は郡山を離れ、
山の匂い、春の風、
どこか覚えのある気配を運ぶ。
(……覚えてへんのに……
胸がざわつく……)
◆ 京の宿——医と母 京に着き、宿へ。
畳の香りに、
記憶の影が揺れる。
その夜——
やよいは医学書を開いた。
『女人産科方医術抄』
大坂、御膳所、
玄朔の教え、
安命院の記録——
すべてを綴った“生きた医”。
(……これを京で問う……
わたしの医が通じるか……)
手が震える。
(母さん……
あなたの命も……
この中にある……)
灯りを落とし、
布団の中で思う。
(墓の場所も知らんまま……
ここまで来てしもうた……)
だが母は——
最期にこう願ったという。
「まだ知らせぬように」
(……わたしが前を向くために……)
胸が熱くなる。
◆ 玄朔殿の家へ 翌朝。
京の町を歩く。
細い路地、低い屋根、
どこか見覚えのある景色。
(……歩いたこと……ある……?)
やがて坂の上、
薬草の揺れる家。
「……やよいか」
玄朔殿が現れる。
変わらぬ眼差し。
「入れ。話すことがある」
座に着き、
やよいは震える声で言う。
「母の墓を……
知りとうございます」
静寂。
そして——
「母上は、そなたが城へ上がってすぐ、京で亡くなられた」
やよいは息を呑む。
玄朔は続ける。
「だが母上は願われた。
“まだ伝えるな”と」
涙が滲む。
(母さん……
そんな……)
◆ 母の願い 玄朔の声は静かだった。
「そなたが迷わず生きるため。
前を向くためだ」
やよいは胸を押さえる。
(……わたしを守るために……)
さらに語られる真実。
「大坂落城の折、
わしは玄道へそなたを託した。
母上の願いを繋ぐために」
すべてが繋がる。
(……わたしの医は……
母と玄朔殿から始まってる……)
やよいは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……
わたし……
この道を外れません……」
◆ 母のもとへ 玄朔は立ち上がる。
「行こう。東山の麓だ」
やよいは頷いた。
(母さん……
今、会いに行く……)
京の空は静かに広がる。
(……あなたの願い……
ちゃんと受け取った……)
——こうして、
わたくしは母の眠る場所へと歩み出し、
その願いとともに、
医の道をさらに深く歩むこととなったのである。




