第四十三話 弟子達の初陣、京からの使者
第四十三話
弟子達の初陣、京からの使者
◆ やよい不在の安命院
郡山城へ呼ばれたやよいは、弟子たちに告げた。
「今日は……わたしが戻るまで、あなたたちだけで院を守ってください」
千代・お凛・妙音は緊張しながらも頷いた。
玄伯は静かに言う。
「主はそなたらだ。やよい殿の医を見せよ」
やよいが去った直後、門が激しく叩かれた。
「妻が……血が止まらん……!」
弟子たちは即座に動いた。
千代は火を強め湯を運び、お凛は産婦を支え、妙音は心を整える祈りを続けた。
だが産婦の呼吸が乱れ、恐れの匂いが強まる。
三人は迷わず動きを合わせた。
千代は温布を作り、お凛は姿勢を整え、妙音は心を支えた。
そして——
赤子の泣き声が響いた。
玄伯は深く息を吐く。
「そなたらは……立派な医者だ」
夕刻、やよいが戻ると弟子たちは涙で報告した。
「命を……救いました……!」
やよいは三人を抱きしめた。
「あなたたちは……もう“安命院の医”です」
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◆ やよいの胸に芽生える影
夜。
弟子たちの成長を喜びながら、やよいの胸にざわめきが生まれた。
(……わたしがいなくても……安命院は動く……
嬉しいのに……どうしてこんなに寂しい……)
玄伯が近づき、湯気を吸い込んで言う。
「そなたの匂いが揺れておる。迷いと寂しさの匂いだ」
やよいは目を伏せた。
「弟子たちが育つのは嬉しいんです……
でも……わたしがいなくても院が動くのが……少し怖い……」
玄伯は静かに頷く。
「それは“医の親”の心だ。
だが、そなたがいなくても動く院こそ本物だ。
そなたの医は……もう郡山の医だ」
やよいの目に涙が滲む。
(……未来を託すのは怖い……
でも……託せる弟子がいるのは幸せなんや……)
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◆ 新たな来訪者
翌朝。
安命院に“旅の匂い”が近づいた。
土でも薬草でもない、遠方の風と焦りの匂い。
旅装束の若い医師が深く頭を下げた。
「京の医師・桂木宗玄と申します。
やよい殿の医術書を……京へ持ち帰りたい」
玄伯が驚く。
「京でも名のある医師ではないか……!」
宗玄は続けた。
「京では、やよい殿の医を“異端”とし、
医術書を禁書にしようとする者もおります。
どうか京へお越しください。
あなた自身の口で医を語っていただきたい」
弟子たちは青ざめた。
「やよい殿が……京へ……?」
やよいは湯気を吸い込み、宗玄の匂いを確かめた。
(……嘘はない……
でも京には争いの匂いが漂ってる……
わたしの医が揺さぶられる……)
弟子たちが不安げに見つめる。
「安命院は……どうなるのでしょう……」
やよいは静かに言った。
「大丈夫。あなたたちは……もう“安命院の医”です」
胸に痛みが走る。
(……未来を託すのは怖い……
でも逃げられへん……
わたしの医を守らなあかん……)
やよいは宗玄に向き直った。
「京へ行きましょう。
わたしの医は……女人の命を守るための医です」
宗玄は深く頭を下げた。
「必ず……あなたの医を守ります」
弟子たちは涙をこぼしながら言った。
「やよい殿……安命院は……わたしたちが守ります……!」
やよいは胸に手を当てた。
(……未来の医は……ここから広がる……京へ……その先へ……)
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◆ 旅立ちの予感
夜。
大鍋の火が揺れ、湯気が静かに立ちのぼる。
(……京へ行く……
安命院を離れる……
怖い……
でも行かなあかん……
この医を未来へ繋ぐために……)
火の匂いが、やよいの決意を照らした。




