第三十四話 産科医術院、地に立つ
第三十四話
産科医術院、地に立つ
やよい、郡山の未来を切り開く
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
郡山城下に“産科医術院”を建てることを正式に宣言し、
儒医・藩医の反発を越え、
尼僧の裁断を受け、
ついに大地へ鍬を入れた日の記である。
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◆節目の朝
冬の冷気が張りつめた郡山の朝。
やよいは胸に手を当てた。
(……今日から本当に始まる……
郡山の女人たちの未来を変える院が……)
千代が告げた。
「やよい殿。
城下の女人たちが……
“あなたの言葉を聞きたい”と集まっております」
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◆女人たちの前で
広場には、尼僧、若い母、妊婦、老女、娘たち——
郡山の女人がすべて集まっていた。
やよいは一歩前へ。
「皆さん。
わたしは郡山城下に“産科医術院”を建てます。
産後の苦しみ、胸の痛み、心の乱れ、
子を失った悲しみ……
そのすべてを診る場所です。
誰も独りで苦しまなくていい場所です」
女人たちの目に涙が浮かんだ。
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◆儒医・藩医の“最後の抵抗”
そこへ儒医・藩医が割って入る。
筆頭儒医・石堂玄伯が叫んだ。
「女人よ、惑わされるな!
医の道は男子のもの!
女人の涙に院など不要!」
女人たちが怯えた瞬間——
やよいは前へ出た。
「玄伯様。
あなたが診られなかった命を、
わたしは救いました。
それが事実です」
玄伯は言葉を失った。
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◆尼僧、来臨
そのとき——
侍女の声が響いた。
「法性尼様、妙寿尼様のおなり!」
白衣の尼僧二人が静かに歩み入る。
郡山で最も尊敬される尼僧——
法性尼と妙寿尼。
儒医たちが青ざめた。
法性尼が玄伯を見据える。
「女人の痛みを“弱さ”と切り捨ててきたのは、
そなたらの方ではないか」
妙寿尼が続けた。
「医とは“命を救う道”。
性別でも格式でもない。
やよい殿の医こそ、真の医である」
儒医たちは沈黙した。
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◆忠明公の裁断
忠明公が前に進む。
「産科医術院は郡山の未来のために建てる。
やよいの医は、わしが保証する」
女人たちが涙を流しながら頭を下げた。
玄伯はついに言った。
「……御台所様、尼僧様がそこまで仰るなら……
我らも……反対一辺倒ではございませぬ。
ただし、医術が正しきものか見届けさせていただく」
道が開いた。
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◆地鎮の儀
数日後。
産科医術院の予定地に、女人、尼僧、忠明公、御台所、儒医たちが集まった。
法性尼と妙寿尼が祈りを捧げる。
「——この地に集う命が安らかに生まれますように」
「——苦しむ女人が救われますように」
忠明公が鍬を差し出した。
「やよい。
そなたが最初に鍬を入れよ」
やよいは震える手で鍬を握り、
大地へ力を込めた。
ザクッ——。
その音は、
郡山の未来を切り開く音だった。
女人たちが涙を流し、
御台所は震える声で言った。
「やよい殿……
あの子も……きっと喜んでおります……」
やよいは胸に手を当てた。
(……御台所様……
わたしは必ず院を完成させます……)
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◆そして、影が動く
儀式が終わり、人々が去ったあと——
儒医の一人が玄伯に囁いた。
「……玄伯様……
本当にあの女人に任せてよろしいのですか……?」
玄伯は目を細めた。
「……見極めるのだ。
あの女人の医が“本物”かどうかをな……」
やよいはまだ知らない。
郡山の闇の中で、
新たな影が静かに動き始めていることを。
(……どんな影が動こうとも……
わたしは負けへん……
郡山の女人たちのために……
命を救うために……)
——こうして、
産科医術院はついに地に立ち、
郡山の未来が動き始めたのである。




